「シャルウィダンス?」 第四話


 「あのね。クルルは何か楽しい、気晴らしが欲しかったの。」
 レナの執務室のソファに腰をかけ、足をぶらぶらさせながらクルルが語る。バッツは、今回の馬鹿騒ぎの発端となったクルルの説明に耳を傾けた。
 「それで、ファリスお姉ちゃんは、男の人たちからのアプローチに、うんざりしてたの。で、どうせ何かするんだったら、レナお姉ちゃんのためになるようなことが良いねって二人で話してたのね。」
 光の戦士の中で、一番過激な割に、一番冷静な判断を下すことが出来たのは、ファリスだ。そのためか、ファリスはクルルに頼られることが多かった。それは、旅を終えた後も変わらないらしい。バッツは小さく相槌を打ち、クルルに話の続きを促した。
 「どうも、ファリスお姉ちゃんは、ここの人たちが見た目だけしか評価してくれない点に怒ってたみたい。クルルも、それを聞いて悔しかったから、じゃあ、ファリスお姉ちゃんの実力を見せてやろう!って話になったの。だって、ファリスお姉ちゃんがとっても綺麗なのは本当だけど、それだけが全てじゃないでしょ?ファリスお姉ちゃんにはもっと魅力的なところが沢山あるのに、ファリスお姉ちゃんに求婚する人たちは、ぜんっぜん、そういう素敵なところが見えてないんだもん!もう、失礼な話だよね!バッツもそう思わない?」
 過激である。拳を握って熱く語るクルルに、バッツは内心危惧を抱いた。ファリスの影響か、クルルは結構過激なことをやる。祖父ガラフを追って、単身異世界に乗り込んできたことなどを考慮に入れると、元々素質があったのかもしれない。
 「でも、死なせちゃうと事でしょ?レナお姉ちゃんを困らせるのが目的じゃないから、武器は木刀にしたの。魔法は禁止。挑戦者は、勿論、ファリスお姉ちゃんと結婚したい人。賞品は、ファリスお姉ちゃん、だけ。」
 「…もの扱いされて、ファリス、怒らなかったのか?」
 バッツの知る限り、ファリスは誰よりも自由や尊厳を重んじる人間だ。景品扱いされて、黙っているとは思えなかった。しかし、クルルは首を左右に振って否定する。
 「ぜーんぜん?だって、そうしようって言ったの、ファリスお姉ちゃんだもん。正直、クルルも最初はびっくりしちゃった。」
 でも、ファリスお姉ちゃんだもんね。と、バッツには良く分からない納得を示して、クルルが続ける。
 「色んな点を考えて、――クルルも観戦したいし――挑戦者は、国、貧富、身分を問わないで募集することにしたの。色々な人が観戦や挑戦に訪れれば、経済効果は計り知れないでしょ?レナお姉ちゃんは、」
 そこで、ちらっと申し訳なさそうにクルルが、机に向かって書類に目を通しているレナへと視線を向けた。
 「その、色んな人たちに寄付をして、色んな場所を支援したから。」
 レナが疲れた顔で微笑む。
 「わかってるわ、クルル。正直なところ、タイクーンは、経済的にピンチだったの。以前みたいに、クリスタルの力に頼るわけにもいかない。この一年半、タイクーンでは、需要と供給がまるで成り立ってなかった。…でも、私には、困っている人たちを見捨てられなかったわ。」
 「ファリスお姉ちゃんは、何も、レナお姉ちゃんがやるべきだと信じていることを止めることはない、って言ってた。…きっと、父さんも生きてたら、そうしただろうから、って。クルルも、レナお姉ちゃんのやってることは正しいと思うよ!だって、そのお陰で、沢山の人たちが救われたもの!」
 クルルの意見に、バッツも頷く。
 「俺もこの一年半、世界を回って見てきたけど、やっぱ、レナの名前は方々で聞くよ。二つの世界が一つになったときのひび割れも、タイクーンが整備したんだろ?他の国が真似できるかは別として、レナのやったことは正しいことだと思う。だから、レナが縮こまる必要なんてない。」
 一瞬、間を置いてから、レナが大きく息を吐いた。
 「…ありがとう、二人とも。それだけで、報われた気分だわ。」


 しんみりした空気を追い払うように、クルルが精一杯の明るい声を出した。
 「それで、この二ヶ月、税収でタイクーンの国庫もすっかり元通りになって、もうそろそろ終わりにしても良いんじゃないか…ってクルルは思ってたんだけど…。」
 そこで、クルルが黙り込んだ。じとっと恨みがましい目を向けられ、バッツがたじろぐ。クルルは大きく息を吸い込むと、一気にまくし立てた。
 「肝心のバッツが来ないんだもん!もーう、バッツったら、どこで油売ってたの?!ファリスお姉ちゃん、クルルとレナお姉ちゃんにはいつもどおり優しいけど、あれ、絶対機嫌悪いよ!だって、本当に決闘を楽しんじゃってるんだもん!むしゃくしゃしてる証拠だよ!」
 「そうね。私も、そう思うわ。姉さんの外見に惑わされた貴族ばかり挑戦していたはじめの頃と違って、今は、光の戦士と戦ってみたい腕の立つ人たちばかり挑戦している…という状況を抜きにしても…あれは、楽しんでるわね。そのお陰で、どれだけの人たちが姉さんのファンになったことか。」
 「実力主義のバル城でもね、ファリスお姉ちゃんはとーっても人気なんだよ。綺麗で、その上、とっても強いから。他にも、ファリスお姉ちゃんが大好きで大好きでたまらないあの海賊の人、みたいなファンとか急増中。あと、女の子のファンも沢山出来たよね。」
 「ええ。バッツがどこかで迷子になっている間に、とっても、増えてしまったわね。…私の姉さんなのに。」
 そこで、クルルとレナは言葉を切り、頷きあうと、示し合わせたようにバッツを見やった。
 「そうことで、ファリスお姉ちゃんのことお願いね。バッツ!」
 「回復なら任せてちょうだい。大丈夫。癒しの杖で治る範囲の怪我しか、今のところ、ないから。」
 一瞬バッツの不安を煽った点を、親切にも、クルルが笑顔で復唱してくれた。
 「今のところ、だけどね!」










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初掲載 2009年4月5日