第一話   革命の日パラレル


 16年、男として生きてきた政宗はひょんなことから己が女であることを知り、悩んだ末、女として生きる道を選びました。それもこれも、大好きな遠呂智に抱かれるためです。政宗は普段はとってもリアリストなのですが、遠呂智関連には、妙なくらい夢見がちで妄想癖がある子なのでした。
 それまで確執があったと思しき母は娘が欲しかったと喜び、子煩悩な父とブラコン(シスコン?)の弟も大変喜びました。
 以降半年休学し、その間、政宗は母と、担当医諸葛亮の知り合いである星彩の手によって着せ替え人形のような暮らしをして女であることに慣れた後、「伊達政」と名を改め、4月に星彩の通う女子高へ転校しました。それまで政宗が通っていたのは男子高だったので、これ以上通うわけにはいかなかったのです。もっとも、政宗自身が昔の知り合いに会いたくないというのもありました。政宗は幸村には多少未練がありましたが、何も言わずそのまま引っ越してしまいました。
 突然姿を消したまさむねがそのまま帰らぬ人となり(?)、引っ越しまでしてしまい、先生にはどれだけ聞いても事情を教えてくれないものですから、それまでは毎日のように喧嘩をしていた兼続は不満なようです。どうも、犬猿の仲の政宗の失踪は、兼続にとって妙に気にかかるらしいのでした。
 勉強が出来てその上ちょっと悪な政宗に憧れ、常日頃から親交を深めていた幸村も事情を一切知らされていませんでした。幸村は正直者で、兼続や三成たちに詰問されたら誤魔化せないこと請け合いなので、政宗も泣く泣く切って捨てたのでした。政宗は大敵兼続に女になった恥を知られるくらいならば、親友をなくした方がマシでした。



 以降、政宗は見た目だけは女の子として磨きをかけ、しかし、心意気は無駄なくらい男前…というか男であることを捨てられないまま、夏になりました。
 大好きな遠呂智がサマーコンサートでイギリスから来るというのです。
 政宗は慶次の伝手で、遠呂智と個人的に知り合いでした。その後、有名な歌手であることを知ったのですが、ともあれ、大好きな遠呂智がやって来るのです。抱かれるためにこちらからイギリスへ渡ってやろうかと思っていましたが、これぞ夏の虫!政宗は連日コンサートに出かけ、最終日、遠呂智に初めてを捧げる気満々で、おめかしをして勝負下着で遠呂智の宿泊するホテルへ出かけていきました。
 打ち上げ後は、いざ鎌倉…!(?)
 しかし、打ち上げが長引いているのでしょうか。あるいは、興奮して早く来すぎたのでしょうか。待てど暮らせど遠呂智は来ません。そのうち、政宗はベッドで寝てしまいました。



 一方、義兄弟と左近です。
 一週間ほど前に、政宗に似た女の子を見かけた、という話を左近が三成にしました。左近は音楽関係を生業としていて、その関係で、遠呂智のコンサートにも出かけていたのでした。
 その晩、政宗は学生服だったので、制服から学校を特定され、そこから転校生を割り出され、「伊達政宗」の宗という字を取って「伊達政(まつり)」という名前で隻眼というのはいかにも怪しいぞ、ということで政宗の関係者なのではないかと疑われることになりました。そんなストーカーまがいのことを急かしたのは兼続でしたが、実行犯はゆきむらでした。知り合いが同高校にいたのです。
 世間は広いようでいて狭いようで、三成が遠呂智のマネージャー妲妃と知り合い、兼続が遠呂智の親友慶次と親友だったこともあり、4人はあっさり遠呂智の打ち上げに参加してしまいました。が、政宗の姿が見えません。
 当てが外れたか、と話し合っていると、何やら面白そうなことが展開中だぞ、と聞き耳を立てていた妲妃が政宗のことをばらしてしまいました。無論、面白そうなので事情は全て話さず、「そういう子がどこそこのスウィートルームにいるわよ。」という程度の情報です。
 「鍵なら貸してあげるから、行ってきたら?」
 「…何を企んでいる。」
 「企むなんて人聞きの悪い。三成さんったら、人の善意を信じないんだからあ。」
 ちょん、なんて頬を指先で突かれても、信じられないものは信じられません。しかし、三人は当てもないので仕方なく行くことにしました。
 左近は遠呂智に良い伝手ができたので、これ幸いと音楽関係の仕事の方を優先させて、残ることにしました。もっとも、左近は呑んでしまっていたので、元々徒歩しかホテルまでの移動手段はなかったのですが。まあ、近くなので問題はありません。



 扉が叩かれてから、開けられました。鍵を持っている人物のようです。
 政宗は遠呂智が来たと思ったので、慌ててベッドから飛び起きて、暗闇の中サイドの鏡で髪型などを整えました。元々夏なので薄着なところに、政宗的にはお色気を最大限に引き出したつもりの衣装です。星彩を付き添いに、下着売り場で小一時間粘ったフェミニンな勝負下着です。
 よし!わし、可愛い!
 政宗は納得してから、その人物に抱きつきました。
 「遠呂智っ!遅かったではないか!」
 抱きついた拍子に、むにっと胸が押しつけられました。
 そこで、政宗は何かがおかしいことに気が付きました。遠呂智はもっと背が高くて、それに呑んだのならもうちょっと酒臭くても良いような気が…。かといって、慶次でもないようです。ではこやつは誰じゃ、とまさむねが訝しむのも道理です。
 そこで、ぱちりと部屋の明かりが点けられました。どうやら政宗が抱きついたことで固まっている人物には、同行者がいたようです。政宗はぎょっとしました。それは、抱きついた相手が幸村だったからです。後ろには兼続や三成の姿も見えます。
 何故こんなところにこやつらが…。
 抱きついた人物が遠呂智ではなかった事実に愕然としながら、政宗は、遠呂智の部屋に何故三人がいるのか、結局自分が女になったことがばれてしまったのか、などと色々幸村に抱きついたまま考えます。
 その間も、幸村はどんどん赤くなっていきます。抱きしめられたまま、しかも、胸が当たっているのです。年頃の男ですから、そりゃあ、薄着の女の子…それも無自覚ですが片思い中の友人に良く似た女の子であれば、赤面の一つもします。
 自分は体つきも変わった。と、まず政宗は思いました。あちこち丸くなり、顕著なのは胸です。自慢のDカップです。それに髪も伸びています。政宗は、三人に正体がばれなかったことにしました。悪いことはあまり考えたくありません。そうして政宗は、下着と見紛うような薄着の女の子に出くわして、若干固まっている男どもをそのまま入り口まで、顔を見られないように下を見たまま押していき、ばたんと扉を閉めました。鍵もかけます。
 そして慌てて携帯まですっ飛んでいき、慶次に電話しようと…して止めました。慶次は確かに兼続の親友で政宗の居場所を教えた可能性が高いですが、すでに酔っ払っていて支離滅裂でしょうし、慶次は慶次でちゃんと知られたくないと説明すれば黙っているだけの分別があります。妲妃か、あの女…!と、政宗は察して、妲妃に電話の矛先を変えました。
 そこに、再び、控えめに扉が叩かれました。



 扉の向こう側から、三成たちが謝罪しつつ、「政宗」のことを聞いてきます。政宗は妲妃に携帯で盛大に文句を言いながら、裏声で何も知らない、と三成たちに対して言い張りました。
 一方パーティー会場です。妲妃は携帯の向こう側からの怒鳴り声に辟易し、仕事や男遊びの兼ね合いもあって多数持っている携帯の中から三成が番号を知っているものを選び取り、三成に電話をかけました。
 「ちょっとうるさいから、政宗さん黙らせてくれない?」
 面白そうだったのでからかい半分で手を出したのですが、それ以上の煩わしさに辟易し、楽しむどころではありません。妲妃は降参を決め込み、三成に政宗のことを全て暴露しました。
 その間も妲妃を一方的に罵っていた政宗ですが、ふと、妲妃から返答がないことに気が付きました。
 「おい、妲妃!聞いておるのか!妲妃っ!」
 そこで、カチリと鍵が開けられ、バタンと扉が開けられました。ぎょっとしたのは、政宗です。一応、薄着からコンサートTシャツに着替え、露出度は激減しましたが、それでも見られて嬉しいものではないです。というか、正体をばれたくない相手なので見られたくないのです。
 扉を開けてズカズカ入ってきたのは、事情を全て知らされた三成でした。その後に、まだ三成の言う説明を半信半疑な様子の兼続、三成を引き留めようとしたらしい、何故か鼻を押さえたゆきむらが続きます。
 とりあえず枕で顔を隠し、どこか逃げ道はないものかと後ずさる政宗に、三成が妲妃から聞いたことを全て暴露しました。三成の声が聞こえたのでしょう。政宗の携帯の受話器の向こうから、妲妃がのほほんと言います。
 「政宗さん、そういうわけだからごめんなさいねえ。じゃ!」ピッ。
 携帯の電源を切られました。
 あのやろおおおおお、と後で妲妃をどうしてくれようと現実逃避する政宗の腕を掴み、今までこんなことはなかったから単に興味深いのでしょう。三成が枕で隠されていた政宗の顔を覗き込みました。
 「何だ。本当に女のような格好をしているのだな。髪が長ければ女に見えるというわけでもないが。」
 さあ、と政宗は羞恥と怒りと絶望で顔色を変え、ここから飛び降りてでも逃げなければ、と思いました。ホテルのスウィートルームは最上階です。墜落死決定です。
 「幸村が鼻血を出した胸も本物か?」
 むにっと胸を触られるにいたり、政宗の堪忍袋の緒も盛大にブチ切れました。政宗はデリカシーのない男を殴り飛ばすと、部屋を飛び出しました。女として痴漢を撃退した、というよりは、男として馬鹿にされたことが許せなかった、というのが正直なところです。とはいえ、流石にそんな危ない格好で外を出歩けないので、政宗は年の離れた女になった後も親友を続けている孫市を呼び出し、服を着替えて帰宅しました。
 しかし、そんなことを男性陣は知らないものですから、あんな格好で飛び出してどうするんだ、とぽかんとしていました。そして、正気に返った幸村が普段の温厚な姿からは想像できないほど三成を責めました。兼続は暴挙に出た三成も不義だと思う一方で再び姿を消した政宗も不義だと思ったのでどうしたら良いのやらわかりません。
 三成は幸村の言葉をなおざりにハイハイと聞き流していましたが、ふと。
 「幸村…お前、まさか、政宗に惚れているのか?」
 「そそそそそそそそそそそんなことあり、ありませんっ!」
 「そうか、惚れているのか。それは悪いことをしたな。」
 「何!山犬に恋…幸村!愛は義だが山犬相手は不義だぞ!」
 もう何が何やらわかりません。










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初掲載 2008年2月