それから一週間、豊臣夫妻の好意により無理矢理休暇。ハネムーンもどき。
大阪城から半日ほどの距離にある人里はなれた屋敷。秀吉好みの少々派手すぎる絢爛な庭に、天然温泉、茶室付き。を、ねねから結婚祝いに贈られて、無理矢理そこに一週間宿泊することになるのだった。仕事を忘れてイチャイチャしろとのことなんだけど、まあ、伊達が未だに立腹中だから無理だ、そんなの。
屋敷に関しては秀吉が浮気するのに利用してた場所で、ねねは前々からそこを処分しようと思ってたんだけど、良い機会だからと石田さんたちにあげたのだ。ねねが睨みをきかせたので、本当は嫌だったけれど秀吉も承諾せざるをえなかった。
初日は何事もなく過ぎた。いや、ある意味あったけど。伊達がぴりぴりしてるし、そんな伊達を見て石田さんは生理中なのかとか失礼な見当違いしてるしで、それほど接触もなく。ていうか、伊達が一室に拠点を定めると立て篭もったので、何もなかった。石田さんはお腹が空いたけど料理できない人間だし、食材はあってもそれは伊達が料理するのを前提のものだし、しかし調理場は伊達が立て篭もってる部屋を出ないと辿り着けない場所だったので、二人とも空腹のまま過ごした。
二日目。流石に腹が減ったらしい伊達が早々に起きると、朝食を作った。さっさと作ってまた立て篭もろうと思ってたんだけど、料理してるところを石田さんに見られて、「ほう、料理が出来たのか。美味そうだな。」と言われて、「馬鹿め。わしを誰と思っておる!」と思わず料理のうんちくを語り始めたら止まらず、はっとしたときにはとき既に遅しで、石田さんが苦笑してた。
「楽しそうだな。俺は全くしないが、政宗は料理が好きなのか。」
その言葉に思わず恥じ入る伊達に、「まあ互いに互いのことを知らなさ過ぎるな俺たちは」と石田さんは言った後、「この六日間…いや、これからの生活で知ればいいか。まだまだ、時間はあるんだしな。」と思いついたように言って、無自覚のきざな台詞に伊達が思わず石田さんを見つめてしまう。何か言いよったぞこいつ、という目で見てたんだけど、石田さんは誤解して、俺に見惚れてるのか、とか言う。でもまあ、伊達は今度は怒らないで、(やっぱこやつ去年の誕生日のときから思っておったが、変じゃ。)と呆れたのだ。で、そのまま空腹の石田さんに急かされるように流されるようにして、一緒に向かい合って食事。石田さんが魚の骨取るの苦手だったりするといいな。苦手っていうか、ちまちま骨取るのが面倒臭くてしょうがない。いつもは左近がやってくれるのに今は伊達と二人きりでいないもんだから、骨相手に四苦八苦してると、見かねた伊達が魚を綺麗にほぐして寄こしてくれるのだ。
そんな、魚が巧く食べられない石田さんは駄目ですか?
朝食後は何があるわけでもなく、沈黙。伊達はまだ警戒してるし、石田さんは別に話さなくてもこちらの言いたいことはわかるだろうという考えの持ち主なので。
静けさに耐えられず伊達が何かしようとするんだけど、都じゃないので買物したりするわけにもいかないし、仕事もできない。伊達は何かをしてないと耐えられない人間なので、本気で暇。暇すぎる。とりあえず庭から花をとってきて生け花したけど、また暇。そういえば温泉があるのを思い出して入るんだけど、1時間も入れば飽きる…というかのぼせる。文を書きたくても、墨も筆もない。暇すぎてとうとう室内をぐるぐる歩き始めた伊達を、石田さんは面白い新種の生き物でも発見したかのように観察してる。
その後、暇すぎた伊達がとうとう石田さんを誘って茶をたてることに。そして夕飯の支度をさっさと始めて、すごい腕によりをかけたものを作成するのだ。
暇潰しの道具を持って来いと、食材を届けに来た人に命じたので、たぶん翌日からはこんな暇にはならないんだろうなあと思いつつ、伊達は寝た。布団が一組しかないけれど、まあ夏なので布団なんぞなくても大丈夫だろうと石田さんは寝室から追い出した。石田さん、こうして二日目の一人寝(布団なし)。
三日目。暇潰しの道具を持ってきた、のは、真田や慶次や直江や左近だった。石田さんが左近から仕事の状況を聞いてる間、伊達は石田さん以外の人間と会えたことを喜んで(別に直江の存在は喜んでない)力の限りもてなす。
ところで結婚式の日に徳川主従の「伊達は女だったのか。」という台詞を小耳に挟んでしまった直江はずっとそれを気にかけてたんだけど、女性には女性への対応というものがあることは十分認識しつつも、伊達は女というか山犬なのでそういうのを一切気にせず、胸を触る。性別を確認したかったのだ。
伊達は元々貧乳だし、更にはさらしも巻いてるし、その上着物って生地が分厚いし(一応夏物ではあるけれど、重ね着なので)で、ぜんっぜん胸があるのがわからないのだ。その上、幼少の頃から男として生きてきて女心があまりない子なので、伊達は直江の奇行に眉をひそめるに留める。「何じゃ貴様。暑さにとうとう頭がいかれたか。無様な。」首を傾げつつ数回ぽんぽんと触った直江は伊達の言葉に反論した後、(やはり山犬は男ではないか!心配して損した!)と誤認識を深める。
そして、明日はまた別の人間が来ると思う、と捨て台詞(?)を残して、彼らは去っていくのだ。
二人でまた夕飯を取った後は、伊達の一応は警戒が解けたのか、二人で一つの布団で寝る。が、手を出したら殺すと警告される。まあ、石田さんとしても、まだ育ちきってないような伊達(15を想定してる。この時代だと15で嫁入りなんて普通だけど、石田さんは初恋がねね様(年上)なのでもうちょっと育った方がタイプ)に手を出す気もそんなないのだけれど。
四日目。来たのはねね様だった。ねね様襲来に慄いたのは、ねね様の恐ろしさに慣れてる石田さんではなくて、伊達だった。何しろ、ねね様の後ろには衣装持ちが沢山いたので。花嫁衣裳のときに着せ替え人形にされた過去が甦り逃げようとする伊達に、しかし逃げ場なんぞないので、諦めるように諭す石田さん。ねねはね、息子ばっかだから娘が欲しかったんだよ。だから娘ができて嬉しいのだ。
めくるめくリカちゃんワールド。
石田さんは、買い物の時に女性陣の熱心さについていけず離れたところで待ってる男性陣の典型のような人間なので、当然のように不干渉に徹した。意見求められたときは「良いんじゃないですか。俺に聞かないでください。」と言って、ねねにしこたま怒られたけど。「何言ってるんだい、三成!政宗はお前のお嫁さんだよ!」
ねねが明日も来ると言い捨てて帰った後、ぐったりしてる伊達を哀れに思ったものの、それよりもご飯が食べたい石田さんなのだった。
五日目。ねね襲来。リカちゃんワールドの前に、ふと、ねねはあることに気づいて、石田さんと伊達に問う。
「二人とも、そういえば夫婦の営みはちゃんとしてるのかい?」
してるわけがありません。
その後は説教…と見せかけて、気づけばねねと秀吉の恋愛の始まりから初めてまでの惚気を経て現在に至り浮気の愚痴まで。二人並んで正座させられて、そんな話を聞かせられる方はたまったもんじゃない。石田さんはいつものごとくで「こら!三成、ちゃんと聞いてるのかい!」と怒られ、伊達は伊達でぐったりしつつもそれなりに微妙に聞き流しつつちゃんと相槌を打ったりしていたのだった。でも大体のところは(それが初めての話でも、浮気の愚痴でも)ねねの話を聞いてあげるあたり、伊達は人がいいのかもしれない。
そうして嵐のようにねねは去っていったけれど、勿論それでどうなるわけもなく、普通に寝た。が、伊達は石田さんが男だと言うことを何だかんだで意識し始めたのか、微妙にぎこちないのだった(微妙に、ね)。
六日目。誰も来ない。ねねにはちゃんと夫婦らしくいちゃいちゃするんだよ、と昨日言われた。二人で朝寝してても誰も起こしに来ないから、と言われても。
二日目の暇すぎて死ねそうな時間の再来かと思いきや、伊達と石田さんとで会話。ねね様が主に話題の中心ではあるものの、それが取っ掛かりとなり、普通の会話にまで発展。伊達としては伊達家のこれからの行動なんかを話すわけにはいかないので、当たり障りのない趣味や特技や、直江への愚痴など。終いにはどちらの右腕の方が有能かで、小十郎と左近の自慢合戦が始まる始末。まあ、双方相手の側近が有能であることを認めざるを得ないまま、決着がつかず終了したけれど。
七日目。何でそういえば自分なんかを嫁に貰ったのか、石田さんに尋ねる伊達。伊達的には、どうして実母に疎まれたような自分を好いてくれたのかという理由を尋ねたつもりだったんだけど、石田さんはそのままの意味で受け取り、豊臣夫妻が半ば無理矢理結婚させたのだと経緯をそのまま語ってしまう。
そりゃ、伊達も怒るわ。
縮めた距離がなかったことにされる勢いで、伊達に無言でものを投げつけられ、説明の一つもなしに再び立て篭もられてしまう。七日目の晩、石田さんは空腹のまま布団もなしに寝る羽目になるのだった。うかつ。
初掲載 2007年8月