嫁入り 第三話


 結局伊達が腹を立てたままで会話もなく、また、生理か?とか石田さんが失礼なことを考えつつハネムーン(?)から戻ってくると、小十郎が伊達を待ち構えていた。成実が出奔したらしい。伊達が訊ねても出奔の理由を小十郎は言い難そうにかわして教えてくれなかった。元々昨日のことを引き摺って苛立ってた伊達が更に苛々して、「成実何ぞ放って置け」とその場しのぎ(?)の衝動に駆られただけの言葉を吐き捨ててる…ところをぼんやり手持ち無沙汰で眺めてた石田さんは、斜め後方から「殿、殿。」という呼び声気づいて振り向くと、左近が困った様子で手招きしてた。伊達が苛々してるときはその怒りが(少しでも)冷めるまではどうにもならないんだろうなっていうのをここ数日の付き合いで薄々察してた石田さんは、伊達を伊達のエキスパートである小十郎に勝手に任せて(というか放置して)左近のところに向かう。
 と。
 「そのですね、伊達の成実さんが殿の直属として少しの間働きたいと言ってきててですね。」
 そりゃ、左近も困ったように笑うしかない。
 成実は伊達の側近中の側近なので、伊達の正体は勿論知っていたのだ。で、早馬が来たと思ったら今週石田さんと結婚するとかっていう報告で、しかも慌てて大阪に駆けつけたらもう結婚し終わってハネムーン(?)中ですとか言われるし、そりゃ、ただでさえ怒るわ。「小十郎、何で止めなかったんだよ!」
 成実は文の方もいけるんだけどどちらかというと猛将の何相応しく武闘派で、文治派の石田さんはそれほど好きじゃない。しかも、こんなやつに婿なんか来ないよなあしゃあねえ俺が梵に婿入りしてやるかあと幼少時に決意して、しかもそれを今まで当人は本気で伊達に言い続けてきていたので(伊達は冗談だと思っていた)、「梵なんで結婚してんだよ!」という感じ。好きな幼なじみ兼主を守れるよう、伊達が文武両道なもんだからどちらも必死に頑張って辛い鍛錬にも耐えてきたし、逃げてたまるか俺は梵を守って死ぬんだっていうのを表明するために毛虫の兜も被ったし、他国からの誘いもあったりしたけど断った。
 なのに、伊達が結婚。成実以外の、全然接点がなかったはずのノーマークな野郎と。その上、式に呼ばれない仕打ち。
 そりゃ、出奔もします。失恋だもの。
 そういう事情で、成実は梵の相手が本当に梵に相応しい奴なのか見極めに来たのだった。あとは、伊達に探してもらいたかったのと。でも灯台下暗し(?)というか、流石に旦那のとこに仕官してるだなんて思いません、伊達も。しかも伊達が追いかけてきてくれなかったらどうしようという不安もあって、成実も石田さんとこにいることは秘密にしててくれって頼んであるし。
 石田さんのところで働き始めて、有能だというので(勿論、石田さんは表立ってそれを口にしたりはしない。「使えるな。」と左近に漏らすくらい。)、成実は色々仕事を休む間もなくさせられて、正直瀕死。そろそろ疲労困憊で過労死。でも左近はいつもそれをさせられてるので、「慣れるまでの辛抱ですよ。」と助言したり。成実は左近と友情を築くけれど、そんだけ仕事させる石田さんにはちょっと怒りが。でも殿はそれ以上の仕事をこなしてるんだって左近に言われてしまえば、成実も元々は素直な子なので憎らしいけれど認めずにはいられない。でも、俺の梵を盗った奴なんだぜ!内心悶々。
 その間、伊達は成実を探し出せなくて苛々してる。重臣が出奔したというのは大問題だけれど根本は個人間の問題なので黒はばきを利用するのも気が引けて、どうにも。しかし執務や何やらで、自分で探し出す暇があまりない。それでも、休日は頑張って捜索したけれど。
 ところで伊達を怒らせたままハネムーン(?)を終了させて以来自らは特に行動を起こすでもなく、伊達も伊達でまだ微妙に立腹中だった頃。伊達を怒らせたまま現在に至るという話を聞いた左近が、慌てて、何か贈物をして機嫌を直してもらうように石田さんを説得する。左近は伊達が女だということは知らないので男だと勘違いしてるんだけど、ただでさえ男である伊達が女装して人前で無理矢理褒賞という形で結婚させられて、そのうえハネムーン(?)中に何があったんだか詳細は知らないものの、喧嘩別れ。殿が悪いにもほどがある。折角殿も好きな人を手に入れられたんですから、こんなくだらないことで全部駄目にしちゃ駄目ですよ、ということで。左近は娼館に行ったりするので、色恋沙汰には詳しいのだ。
 石田さんはしぶしぶではあるものの、溜め息をついて左近にじゃあ何か適当に見繕って贈っておけと言う。が、左近もめげない。「それじゃあ駄目なんですよ、殿。大切なのは、誠意があるってことを見せることなんですから!」そして商人を呼んで、お買物。石田さんの仕事はねねに事情を話して、休暇にしてもらうことに。
 案外しぶっていても始めてしまえばノるタイプが石田さんで、あれは政宗に似合わないこれは形はいいけど色が嫌だそれは実用的じゃないといった風に、買物に熱中するのだった。そして、飾り紐を付けた眼帯と高い女物の着物と一目惚れしてしまった髪飾りを贈って、伊達の機嫌を和らげる。伊達は最初ぷりぷりしてたから(夫からの贈物なのに)捨てようとしたんだけど、小十郎が宥めてそれを止めさせて、蓋を開けてみれば中々に趣味のいいものばかりだったから不服ながら喜んでしまったのだ。「しかしあやつ…この髪の長さで髪飾りとは、喧嘩売っとるのか。」
 小十郎は石田さんの味方なので、伊達の反応を手紙で教えてくれた。ので、もう機嫌取りも良いだろうという石田さんに「殿、ここで安心しちゃ駄目ですよ!」と左近が言う。そして、以来ちまちま贈物をしたり何かに誘ったりで、石田さんと伊達の接触が増える。互いを段々知っていく。節約派で貯金好きの石田さんはしこたま金を貯め込んでたから、それを伊達に使っていくのだった。
 ねねは、本当は別居なんかじゃなくて一緒に住んでもらいたかったんだけど、伊達の当主としての立場もあるし仕方ないのかなあと思いつつ、愛息子(?)の恋愛を見守っている。
 そんな現在、ハネムーンから3ヵ月後。
 石田さんからの書類でちょっと不備があって、そんなの使いをやれば済む程度の不備だったんだけど、最近石田さんと接触が増えて段々親密さを増してきた伊達は気分転換も兼ねて自分で行くというのだ。そして、石田さんの居住で見覚えのある人物を…「ん?否、気のせいじゃな…。あやつがこんなところにいるわけが…、」廊下の角だったのでその人物を見たのは一瞬だったので、あれは一体と思いながら首を傾げていると、その人物らしき影が石田さんの部屋に。石田さんの部屋に案内してくれた女中に言って、近くで待とうと思っていた、ら。石田さんの部屋から怒鳴り声。聞き覚えのあるような…、いや、まさか。
 石田さんの部屋の騒動に気付いた女中が苦笑して、「ここ3ヶ月いつもなんですよ、週に2回くらいの割合でご主人様と成実様が…喧嘩するほどというやつで本当は仲はよろしいんでしょうけど。お二人とも、仕事に熱いのですよね。」ん?「…成実、さま?」しかも3ヶ月前、丁度成実が出奔した頃。女中の制止も振り切って(女中もそんな止めなかったけど)、伊達が石田さんの部屋の戸を開けると、政務のことで口論中の石田さんと成実。
 「…き、貴様らあああああああああああっ!」
 伊達激怒。蚊帳の外だったのか、わし一人だけ!書類をばんを石田さんの顔面に投げつけてヒットさせて、成実には佩いてた小太刀を投げつけて、ぷりぷりしながら帰宅。「くそっ!心配して損したではないか、成実のやつ!」
 一方その頃、「あああ俺梵に嫌われたらどうしよう…っ!!!」と半泣きでぐるぐるしてる成実、を慰める左近と、未記入なのに持ってこられた書類を見て不備を発見する石田さん。











初掲載 2007年8月