第六話   現代パラレル


 仲居に案内された部屋は温かみに溢れ、政宗はいよいよ財布の中身が不安になった。そして先ほど会った織田一家のことが頭に浮かび、更に政宗は不安になった。それこそ、兼続の貯金を食いつぶすのでは。
 何だったら表面上は兼続を立てつつも、裏で仲居に話して自分が金を出そうと悲壮な覚悟を恋人がしているとは思いもせず、兼続が嬉しそうに目を輝かせた。
 「良い部屋だな!」
 なお、ガラシャは濃姫に絆されたのか、光秀には近寄らないものの織田一家と行動を共にしている。本格的に、二人での旅行だ。
 そこである事実に気付き、政宗は思わず現実から目を逸らした。
 「二人きりの旅行はこれが初めてか!婚前旅行だな!」
 引き戻された。しかし、政宗は二人きりの旅行が初めてだという事実には気付いたが、婚前旅行とまでは思っていない。婚前も何も、結婚できまい。それは思考が飛躍しすぎだ。
 「馬鹿なことを言うでない。」
 政宗の非難に、ガラス戸を開け部屋つきの風呂を覗いた兼続が、はっとした素振りで振り返った。何か重大なことに気付いたといった様子である。こんなときは、ろくなことにならない。
 案の定、兼続は言った。
 「そうだな…!婚前旅行など…不義だ!結婚するか!」
 やはり電波だ。
 政宗は一つ溜め息をこぼすと、兼続の頭を強く叩いた。電化製品のように殴って直れば良いのだが、残念ながら、兼続の電波は治らなかった。


 その日は到着が遅かったので、観光を控え、織田一家と語らいつつ夕食を取り部屋に戻ると、布団が二枚敷かれていた。当然だ。まさか仲居も、男同士である二人が恋人などとは思うまい。仮にそれが悟られていたとしても、あからさまに「承知していますよ。」といった風に布団が一枚というのは、政宗的にやりきれない。
 いそいそと二つの布団をくっつける兼続に呆れた視線を投げかけてから、政宗はガラス戸へ目を向けた。大浴場は浸かってきたが、まだ部屋つきの温泉は試していない。
 何だかんだで、政宗も18歳。やりたい盛りの年頃なのだ。はっきり口に出しはしないが、非常に認めがたくはあるが、兼続のことは一応好いてはいるし、折角の旅行なのだから文句はない。しかし、呆れるものは呆れるのだ。
 何でこんな電波と付き合っておるんじゃろう。政宗は数え切れないほど抱いた感想を今日も胸に、長々と溜め息を吐いた。
 「風呂に入るか…。」
 独り言だ。
 しかし、兼続が頬を赤らめた。どうやら一緒に入ろうと誘われたものと思ったらしい。それはそれで別に良いのだが、勘違いされるのは腹立たしい。
 「勘違いするでない!馬鹿め!」
 タオルを投げつけ、政宗はガラス戸へ手をかけた。
 「入ってきおったら、ぶち殺すからな?」
 施錠の音が無情に響き、兼続は劇的に肩を落とした。この男、ミュージカルでも狙っているのかもしれない。
 だが、それで諦めるような兼続ではない。また次回があるさと持ち直すと、再びベッドメイキングに取り掛かった。


 もう少し雰囲気というものを重視できないのか。
 風呂から上がった政宗は濡れた髪をタオルで拭きながら、兼続を苦々しく見やった。枕元に置かれたティッシュ箱、枕を裏返せば隠された避妊具。阿呆かと思いながら腰を下ろして、政宗は兼続の鼻をつまんだ。
 ここまでの運転で疲れたのだろう。兼続はすやすやと眠っていた。
 「…馬鹿め。」
 息苦しいのかもがもが言い出した兼続から手を離し、政宗は小さく溜め息を吐くと、兼続の髪を優しく梳いた。
 「黙っておれば、良い男なのにのう…。天は二物を与えずというが、惜しいもんじゃ。」
 そうして軽く口付けを落とすと、灯りを消して、政宗は兼続の腕を引いて身体を間に滑り込ませた。











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初掲載 2007年12月18日