第七話   現代パラレル


 それから直江の生殺し生活が始まった。
 今まで望み薄というか望み薄すぎて望みすらしていなかった夢(というかエロ)が現実として起こることが決定し、今まではあてどない夢なだけに夢を見ることすらなかったソレが8月3日という期日にあることが決定したためたった残り数ヶ月のことなんだけど待ち遠しくてたまらないというか。うまいこと説明できないけど。
 そうこうしつつも、なんだかんだで直江も伊達も忙しいこともあって日々は過ぎ、7月に。誕生日まで残り1月。
 たまり場で、伊達の誕生日を口実に呑もうという提案を二人の関係の進展よりも酒の方が大切な三成がして、直江と伊達の様子をそれまで静観してた左近がたしなめたりしてると、伊達が「悪いが、その日はもう先約が入っておる。」という。直江とか?!と色めき立つ三成と左近とくのいちに、「家の用事じゃ。」との返答。それまで伊達の家でのゴタゴタのことを今まで詳しく聞いたことがなかったので、三成は興味を示すんだけど、それまでちょっと席を外していた孫市にたしなめられてしまう。伊達の保護者的な立場にある孫市は、その日何があるか知ってるのだった…。
 そしてその週末は久しぶりに呑み会があり、直江と慶次以外勢揃い。左近の家にて。孫市が女性に振られたのだった…。孫市を慰めながらみんなしばらく呑み進めて、孫市が誰よりも呑んで、そんな中伊達はいつもどおりつまみを食べたりしてたんだけど、つまみが切れたしいつもつまみを作る孫市や左近が呑んでるので、伊達が立ち上がってつまみを作成。
 伊達が手料理すると聞いて大丈夫か?などと思って実際口にしちゃう三成と、興味津々の左近とくのいち。真田は孫市に絡まれててそれどころじゃなかったんだけど。すばらしい手際で伊達がおいしいつまみを作って綺麗に皿に盛って持ってきたもんだから、それをすでに知っていた孫市以外のみんなはびっくり。ちょっぴり亭主関白気質というか、あまり家事が上手いことを知られたくないというか、実はすっごい料理上手な伊達なのだった。


 泥酔…まではいかないけれど絡み出してる孫市は、伊達の手料理をまるで自分のことのようにみんなに自慢して、伊達に呆れられたりして。
 「伊達ちゃんもそろそろ夏休みだし、大学って暇だしー。伊達ちゃん頭いいから、どうせ、受験勉強なんてわざわざしないでしょ?どこか行こうか☆」というくのいちの提案が発端だった。左近はそれでも一応受験生なんだから…とたしなめるんだけど、伊達が「暇だしそれも良いかもしれんな」と肯定の意を示して、どこに旅行に行くか話で盛り上がるのだった。
 その後。
 真田がくのいちを連れて帰った後、孫市が「…政宗、話がある。」と切り出すのだった。
 酔っぱらいのそれなりに真剣な口調に、何事だと周囲はいぶかしみつつ、一応孫市がそれなりに真剣な様子なのでむげにもしないで伊達がどうしたのか尋ねると、「あんなに小さかったお前も、もう、高3なんだな…。18になるのか。」。何が?と内心首をかしげつつとりあえず孫市の言うことを聞いていると、「お前ももうお年頃、いや、立派な男だ。」という感じで、避妊の話に。「責任持てよ。」伊達にぎゅっと避妊具を手渡し握らせての、孫市らしいといえば孫市らしいんだけど、あまりにもあんまりなしょうもない話に、何か楽しいことが起こるんじゃないかとうきうきしてた三成はいっきに白ける。「雑賀さん、そりゃ、ないでしょう。」左近も苦笑。
 しかし、予想外だったのが伊達の反応で、伊達は手のひらの避妊具をじっと見つめた後、「…自分で買うからいらん。」と孫市に返した。伊達の衝撃発言に、「自分で買うってなんだよそれは?!政宗!」と自分で切り出しておきながら内心すさまじく動揺する孫市と、「つまらん話だったか…期待して損した。」と酒を呑んだところにその発言で思わず吹く三成と、片眉を上げる左近。
 突如降りた重い沈黙の中、むせる三成を左近が介抱したりしてたんだけど、正直認めたくないけどうすうす察してた孫市が尋ねる。
 「相手は…、直江か?」
 伊達馬鹿の孫市が気づいてたことを知らなかったので、流石に左近もびっくりして、まじまじと二人の様子をうかがってしまう。三成はむせてたら気管に入ったらしく、もう、二人の様子どころではない。
 孫市と伊達は二人の世界を作り出してしまっていて、左近と三成の存在を完全に忘れているんだけど、伊達がきまじめな様子で重々しく頷き、酔いが覚めた様子の孫市がしょうがなさそうにため息を吐いてから、伊達の髪をくしゃっとかき混ぜるのだった。「まあ、政宗が幸せなら、俺は文句はねえけどよ…。幸せにしてもらえよ、政宗。」「孫市…。」
 格好良い孫市。


 しかし現実は格好良いまま終わらないもので、それが孫市ならなおさらで、蛇足的に話は続き、残業を終えた直江が後から合流するのだった。その、何とも言えない左近のマンションの一室に。
 「すまん、遅くなった…!」
 真田もくのいちももう引き上げちゃったけど残りは残ってる、という旨の連絡を左近から受けていた直江は最初何とも言えない部屋の雰囲気に内心首をかしげる。入室したとたん、なんか、視線が一瞬にして自分の方に集まったし。いつもだったら三成とかは、他人が遅れてきても気にせず呑み続けるタイプだったから、「?」と思ってると、孫市が直江を呼ぶ。
 内心、この後の展開がおもしろそうすぎてうきうきの三成と、自分(のマンション)に迷惑がかけられなきゃいいけど何にせよ何かあったら止めに入ろうと決意を抱いてる左近と、何が起こるのかさっぱり見当もつかない伊達と。
 「直江…、」
 孫市が立ち上がり、直江の肩をつかんで、直江が何をと思う間もなく、頬をぶん殴る。わけがわからない直江。孫市が何を考えてるのか察してしまったその他。三成なんて柄(キャラ)にもなく、あまりにおもしろい事態に爆笑してる。左近も思わず失笑。伊達は瞑目。
 意味がわからずぱちくりしてる直江に、孫市が「政宗を幸せにしなかったら、いくらアンタとはいえ、ただじゃすまないからな…!…。…政宗を、頼む。」と直江の肩をがしっと強くつかみ、なんか詳細はわからないけれどだいたいの事情は察した直江が「ああ、任せてくれ…。絶対に幸せにしてみせる…!」とか断言して、そのまま二人は舅と新郎みたいな感じで呑み始めちゃうんだけど。孫市の失恋慰め呑み会とかどうなったんだって話なんだけど。
 結婚前の娘と父と娘の彼氏のやりとりみたいなその光景に、三成は「ば、馬鹿かあいつら…!伊達が嫁入りするわけでもあるまいに…!!」と爆笑しまくり。左近もここまでくると微笑ましくなっちゃって、ふと、渦中の人物ではあるけれど放置されている伊達はどうしてるんだろうと伊達の方を伺うと、伊達は呆れた様子ではあるけれど嬉しそうなのだった。なので、左近は、実際どこまで関係が進んでるのか心おきなく伊達に尋ねるのだった。なので、三成も左近と伊達の間に入って、むちゃくちゃなことまで聞いたり、男同士は大変らしいぞと下世話なエロトークになったりするのだった。


 呑み会後日、伊達はくのいちにからかわれたりそれ以上に祝福されたり、何も知らなかった真田に心底びっくりされたりでも真田はいい人だから偏見持たず本気で喜んで祝福してくれたり、慶次からは海に行って土壇場で邪魔された日のことを二人の関係を知ってあの日の直江の不機嫌を察したのか「ああ、邪魔しちまったのか。悪かったねえ。」と謝られ。
 何はともあれ、みんなにからかわれたりネタにされたり何なりしつつ、祝福されて。
 以降、伊達は本気で忙しくてたまり場に来なくなる。孫市は事情を察してるんだけど、他は何も知らないから、せっかく彼氏ができたのになんでだろうね、と首をかしげる。そんで、たまり場で、「まあまだ本番はしていないらしいからな。土壇場で兼続のやつ、捨てられたのではないか?」とか三成がからかって、直江が口には出さぬものの内心本気で焦って飲んでたコーヒーに、いつもならブラックなのに砂糖どばどば入れてしかも気づかないで飲み干したり(底には溶けきれなかった砂糖が大量に残っていた)するのだった。孫市や左近がそんなはずないって、後で直江を慰めて、三成をたしなめるんだけど。


 そして音信不通…ではないんだけど、メールのやりとりしてるから。海に行った日以降は、電話もちょくちょくやりとりするし。互いに声が聞きたいんだね。
 それでも伊達が何をしているのかはさっぱりわからないまま、夏休みに突入し、8月になり、とうとう、噂の3日に。
 「振られた孫市を慰めよう呑み会」の席で出た旅行は、伊達とも情報のやりとりをしたりして、8日から2週間かけて今度は真田とくのいちの故郷である長野に行くことになってるんだけど。本当、そういう連絡以外はさっぱりなので、直江は伊達が心配でたまらない。でも、家の事情だからと実はこっそりと孫市に釘をさされてたので、尋ねることもできない。
 そんな中の3日到来で、しかも2日の夜の定例となった電話で「明日の夜…もしかしたら遅くなるかもしれんが、絶対に行くから待っとれ。」とか伊達に言われてたこともあって、直江は伊達がマンションに来るのを一人静かに待ってるのだった。内心やきもきしてて、昼過ぎにたまり場に行った際孫市に持たされた孫市お手製誕生日ケーキとかろうそくは立てるべきなんだろうか、とか悩んでみたり、大好きなバイク雑誌を見てもどうも上の空だったり、久しぶりのリアル伊達に心が弾むやら不安やらだったり。読書も進まないし、もう、どうしようもない。


 ぼんやりとお気に入りのDVDを鑑賞してた(眺めてた)直江は、マンションのチャイムが鳴ったので、飛ぶようにして玄関へと向かう。そこには、夏休みまっさかりでしかも夜だというのにきっちり制服着込んでる伊達が、東北の土産を大量に持って立ってるのだった。
 まるで仕事帰りの夫のように伊達は一度土産を床に置いて直江をハグして、土産を手渡して、ネクタイをゆるめながらマンションの中へ。喉が渇いているのか、伊達が何か飲み物がないのか直江を振り返り尋ねたところで、ようやく、大量の土産を袋から出した直江が「…東北に行ってたのか?」と尋ねる。「ああ、母の地元が東北でな。」それ以上はたして尋ねて良いものか迷っている直江に、「跡目相続の権利を放棄してきた。」と伊達が大胆(?)発言。前に母方にいる弟と伊達との間で跡目争いしていることを聞かされていた直江は、はっとする。
 伊達曰く、跡目相続の権利以外の財産は父の遺言通りに分配したらしく、まあそれでも母方が強突張ってさんざん財産の方でもごねたんだけど…。
 伊達はやりたいことができたから、家を継ぐ名誉より実利を取ったのだった。しかも、本当は家なんてそれほど継ぎたくなかったし。それに、家を継がなくても伊達三傑はついてきてくれるって約束してくれたし。
 で、伊達が家を捨てようと思った理由には、直江との交際を真剣に考えたことも挙げられて、今のところ直江と別れる気はないし別れないってことは跡目を作れるかわからないってこともあって、それは当然直江には言わなかったけれど。
 「兼続のおかげで、わしが進むべき道がわかった。」
 伊達三傑なんかが伊達の行動や生き方を支えてくれて、孫市が伊達の心の支えなら、直江は伊達の指針になった、みたいな。いや、よく言葉が出ないけど…!
 ともあれ、伊達は直江ににっこり笑うのだった。


 で、直江と伊達といちゃいちゃ(?)しながらケーキ食べたり何なりして、伊達の誕生日を祝って、まったりしてたら0時すぎてた。もう4日だよ。
 うっかり4日になってたとか間抜けにもほどがあるんだけど、ともかくにゃんにゃんして。
 いちゃいちゃして終わればいいじゃない。
 いいじゃないか…!











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初掲載 2007年前期