番外編   現代パラレル


 伊達が大学2年夏休みの9月。
 伊達は来る直江の誕生日に、直江が欲しいと洩らしていたバイクのパーツをプレゼントしたいと思う。どうせなら、伊達家の財産や仕送りから資金を捻出するのではなく、自分でプレゼントしたいと思い、生まれて初めてのバイトを決意する。
 たまり場のみんなにその決意を漏らしたところ、孫市が、
 「なんだったら政宗。ここでバイトするか?」
 と、誘ってくれる。しかし、直江も常連のたまり場でバイトをしていたら、それこそばればれなので、
 「好意はありがたいが…直江を驚かせたいのでな。すまん、孫市。」
 「良いってことよ。そっか、頑張れよ。」
 そんなやり取りの後、実は密かに定職に就いていたらしい慶次が、
 「だったら、俺のとこなんてどうだい?遠いからバレやあしないと思うよ。給料もいいしねえ。なんなら、どうせ俺も仕事に行くんだ。一緒に行きゃあいい。それに、遠呂智と政宗だったら気が合うと思うんだがね。」
 と、提案する。何でも、バイクのパーツがとても高いので、直江の誕生日まで大分時間があるけれど今のうちからお金を貯め始めたいと思っていた伊達は、好条件に一も二もなく首肯する。
 「それで、どんな仕事なのじゃ?」
 「まあ、言ってみりゃあ…。夜の蝶の手伝いってとこかね。」
 聞いてみると夜の仕事で、高級な人気キャバクラ店。慶次のイメージに合わない職種に、みんなおどろいたものの、オーナーの遠呂智と意気投合して用心棒的なことをしているとの返答に、慶次らしいと納得する。


 一度試しに行ってみたところ、伊達は遠呂智を気に入り、慶次と同じくらい好きになったので、その高級嗜好のキャバクラでバイトを始める。ホールの仕事なので危険や飲酒はないし、貞操の危機もないので、慶次も安心して伊達に仕事を紹介できた。
 ハキハキとまめまめしく動き回る伊達は、店のホステスたちにとても可愛がられるようになる。遠呂智やナンバーワンホステスの妲妃も、伊達のことを気に入る。


 直江は伊達が何か始めたことを察してはいたものの、束縛しあうような恋愛関係ではなかったので、伊達が口にしなければ問いただすようなこともしなかった。少し気にはかかるものの、伊達のことを信頼してるので心配ではない。
 また、大学のゼミ関係で泊まりとか夜遅くまで研究室とかそういうことが今まで多かったので、またそのようなことだろうかと思っていた。


 少し距離があるキャバクラだったので、直江には、絶対ばれないとみんな信じていた。
 しかし、直江も職場のつきあいというものがあり、色々事情もあって、意図せず、そのキャバクラのある繁華街へ呑みに行くことになる。同僚の立花は女ということもあり行かず、その分まで、直江が呑み相手の上司に振り回されることになった。
 職業に貴賎があるとは思っていないけれど、キャバクラは潔癖性の気のある直江の性には合わないので、繁華街なんて滅多に来ない。だからこそ、伊達はキャバクラでの仕事を選んだのだけれど、それが裏目に出ることになる。


 直江は正直帰りたくてたまらないけれど、仕事の関係上そうすることもできない。また、キャバクラという場所は嫌だったけれど、酔っ払った上司と腹を割った話をするのは楽しかったので、気付けば夜も更けていた。
 上司がふらふらになってしまったので、さして呑んでいなかった直江がタクシーを呼んでいると、ふと、見慣れたような人影が前方を通り過ぎる。
 酔っぱらっている上綺麗な女がべったり侍っているけれど、直江が見間違えるわけがなかった。伊達だ。
 すぐに伊達と女は人込みに紛れて消えてしまった。
 直江はあまりに予想外な出来事に本気でおどろき、愕然とし、上司からどうしたのかと心配されて声をかけられるまで、呆然と立ちつくしてしまう。


 伊達が一緒にいたのは、妲妃だった。妲妃の誕生日で、伊達が妲妃に乞われてマンションまで送ってやるところだったのだ。
 その日の妲妃の同伴は、最近妲妃目当てで通い詰めている董卓という成金親父で、妲妃は言葉巧みに貢がせてドンペリなどを注文させて、散々金を落とさせたところで、無情にも追い払った。妲妃の好みは、金持ちか筋肉質で妲妃のために尽くしてくれる若い男性だったので、偉そうで脂肪もたんまりついていてその上財布の中身が空になった董卓は、食指が動かないどころか、むしろ嫌いなタイプだった。貢がせて捨てる妲妃の手法に、
 「少し性質が悪いのではないか…?」
 と、遠呂智はオーナーとして苦言を洩らしたこともあるのだけれど、
 「なーに言ってるんですか。これくらい大丈夫ですよぅ。大体、金出せば抱けるなんて鼻の下伸ばしてる男が馬鹿なだけじゃないですかあ。」
 と、妲妃はけらけら笑ったのだった。


 董卓を退場させた後、妲妃は最近とかくお気に入りの伊達をからかっていた。伊達に、
 「誕生日なんだから、呑んでくれたっていいじゃない?もう未成年じゃなかったよねえ、確か。私の酒が呑めないの?」
 と、くだを巻き、計画的に呑ませた。その料金は呑ませた妲妃持ちだったけれど、妲妃は陰謀を張り巡らせていたので、それくらいの出費痛くなかった。さっき、たんまり董卓から金品をせしめたこともあるし。
 しかし予想外なくらい伊達が酒に強くて、大量に酒を呑ませることになったものの、妲妃は酔っ払って思考力が落ちている伊達の腕に腕を絡めて、
 「政宗さん。せっかくなんだから、マンションまで送ってよ。誕生日なんだから、それくらいいいでしょ?」
 と、頼んだのだ。普通、ナンバーワンホステスの妲妃の送迎は慶次の仕事で、このとき伊達は酔っ払っていて護衛なんてできるわけないにもかかわらずの、発言。これには、妲妃が伊達に酒を呑ませた理由も絡んでいて、言ってしまえば、妲妃は伊達を食う気満々だった。あいにく、妲妃の普段のタイプから伊達が外れていたこともあり、遠呂智も慶次も妲妃のそんな思惑に気づかない。
 少しふらふらしつつも、伊達は店のみんなに心配されながら、妲妃に腕を引かれてマンションへ向かうのだった。


 上司と別れて帰宅後。愕然としていた直江は、本当にあれが伊達だったのか、見間違いなのではないか、と自分の目を疑う。けれど、自分が伊達のことを見間違えるわけがないという自信もあったため、だからこそ、伊達に確認するのが怖かった。
 ひとしきり悩んだものの、結局、直江は伊達に電話をかけた。しかし、伊達は電話に出ない。悩み迷い躊躇いつつも、伊達に一言だけでもいいから、自分の心配を否定してもらいたかった直江は、何度か伊達に電話やメールをする。しかし、やはりいっこうに連絡がつかない。
 直江は携帯を握りしめて、じっと液晶画面を見つめることしかできなかった。


 一方そのころ、伊達は生命の危機に瀕していた。
 妲妃の高級マンションは人気のない住宅地にある。その人気のない場所に入った途端、後ろから、手には包丁を握り締めた董卓が現れた。
 「あれほど貢いだのに、一度も抱かせないとはなんじゃあ!」
 と、キャバクラを追い出された後どうやら更に呑んだらしい董卓は、董卓らしい不満の叫びを口にしながら、襲い掛かってくる。酔っ払っているので、自分が何しでかしているのかわかっていない。
 董卓としては、妲妃を包丁で脅してマンションに入れさせて抱いてしまうつもりだった。しかし、あいにくと妲妃だけではなく伊達もいたというか、いつものごつい護衛(慶次)ではなく、まだ子どもらしさの残っている童顔の伊達だからこそ、凶行に踏み切ってしまったというか。


 伊達は酔っているとはいえ、もともと男気あふれる男だし、その上、妲妃が伊達の後ろに逃げ込んだということもあって、董卓と対峙することになる。
 「貴様ァ、邪魔をするかあ!」
 と、酔っている董卓は伊達に斬りかかる。当然避けられるだろうと董卓はどこかで信じていたし、また、伊達も家柄ゆえ色々な武術をしてたことから避けることもできたけれど、悪女とはいえこのような状況にあったことがなかった妲妃が怖がって伊達に強くしがみついたので、逃げるわけにもいかず、凶刃を受けることになる。利き腕と体をかばって、左腕に防御創。
 斬りつけてしまった側の董卓もびっくりして、斬りつけたことで、逆に引くに引けなくなった。妲妃は妲妃で血にびっくりして泣き出してしまい、混乱と恐怖の極みで、携帯で通報とかどころではない。
 伊達は逆に酒が入ってることもあってか冷静で、
 (これだけ綺麗に切れれば、縫合すれば傷跡も残らぬな…。すぐ治るであろう。)
 などと考えてる。


 引くに引けない上混乱した董卓が、伊達に再び斬りつけようとした腕を捕らえ締め上げたのが、呂布だった。
 呂布は董卓の下で働いている人間なのだけれど、董卓のことが好きではない。それは、董卓邸で働いてる家政婦のちょうせんと呂布が付き合っているにもかかわらず、董卓がちょうせんにモーションかけていたからなのだった。一度、呂布が董卓をきつく締め上げて以来そのようなこともなくなったものの、呂布は董卓の行為を未だに根に持っている。
 董卓はその鬱憤を晴らすためにキャバクラ通いが以前以上にひどくなり、そこで出会った妲妃に入れ込んだところ、異国相手の貿易ならばまだしも女関係に関しては見る目のまるでないので、いいカモにされてしまった。そのうえ、今日などは、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに悪し様に言われ、董卓は怒り心頭だった。
 たまたま、董卓邸の台所も任されているちょうせんが呂布のための夜食を作ろうとしたところ、包丁が一本なくなってることに気づき、
 「あら、どうしたのかしら?…まさか…。いえ、でも。…さんざん呑んでらしたし、」
 ということで嫌な予感を覚え、呂布に董卓を探してくれるように頼んだのだった。呂布はちょうせんの願いということもあり無碍にもできず、ちょうせんを夜遅くに一人で家に置いておくことは不安だったけれど、嫌々ながら董卓捜索に乗り出した。
 刃傷沙汰ならば最近さんざん貢いでいた妲妃関係だろうと思ったので、呂布は仲が良い遠呂智から妲妃のマンションの場所を聞き向かったところ、案の定、という有様だった。
 しかし、董卓に斬りつけられていたのは妲妃ではなく、呂布からみたら子どもに他ならない伊達で、しかもどうやら妲妃を庇っての名誉の怪我らしく、
 「遠呂智と慶次…それに本多以外にも、俺の関心を得るものがいたか…。」
 などと感心しつつ、助けに入ったのだ。


 董卓は呂布に取り押さえられ、その後、
 「何をぼさぼさしている!早く通報しろ!」
 呂布の一喝でどうにか正気を取り戻した妲妃が警察と病院に通報した。伊達は病院に搬送され、董卓はお縄になる。
 血でまみれ、その上警官か誰かが踏んでしまったらしく、伊達の携帯は使用不可能になっていたので、直江がどれだけ連絡をつけようとも連絡がつかなかった。
 すっぱり斬られていたので、伊達の予想通り、傷の縫合はかえって楽だった。呑んでいたため麻酔は効かなかったけれど、伊達も酔っ払っているし我慢強い子なので、痛いなどとは言わなかった。


 まさかこんな日に限ってこんな大事になるなどとは思わないで、軽々しく護衛を任せてしまった慶次や、妲妃から連絡を受けた遠呂智、保護者代わりの片倉が青い顔して飛んできた。
 遠呂智は伊達や片倉に詫び、妲妃が伊達にしがみついておいおい泣き、呂布や大学病院の夜勤でいた徳川先生に褒められ、落ち着いてきた頃にノンキャリアの刑事:島津から調書取られたりと、その夜はとても大変なのだった。


 翌朝。保護者の間で、
 「すまない…俺が悪かった。」
 「いや、慶次は悪くない。私が悪いのだ。」
 と、伊達が寝ている間中、罪のなすりつけあいの逆が行われていた。
 伊達が起きると、伊達を気遣ってそのような責任争いは鳴りを潜め、周囲の様子を伊達は少しいぶかしんだものの、
 「?携帯が壊れたゆえ、買いに行ってくる。」
 と、新しい携帯を作るために携帯ショップへ向かうことを告げる。昨夜からずっと青い顔をしている妲妃が、罪滅ぼしの意味もあって、
 「わ、私も行く!行かせて!」
 と、一緒についてきた。伊達は妲妃の気持ちも考慮してその願いを受け入れたけれど、他の面々もついてきたいというのを、
 「そのように大勢ついてこられても邪魔なだけじゃ。いらん。だいたい、たかが手を切っただけではないか。そんな大事にとってどうする、馬鹿め。だいたい、わしはもう成人した立派な大人だぞ!」
 と、追い払う。しかし、遠呂智がついてくるというのは、伊達も遠呂智には心酔していて強く出れないこともあって、拒めなかった。
 携帯ショップの店員:小喬に、
 (この3人ってえ、どんな関係なの?すっごい気になる!)
 と、好奇の視線を向けられながらも、新しい携帯を作り終えた。電話番号とメアドは以前どおりで最新機種。お金は、妲妃が
 「私に払わせて…!お願い!」
 と言うので、伊達は払ってもらうことにした。


 たまり場の前まで遠呂智と妲妃に送ってもらった伊達は、
 「携帯が壊れてデータが全て消えた。すまんが、教えろ。」
 と、みんなに電話番号とメールアドレスを送ってもらう。その際に、当然包帯巻いてる左腕が目立って、
 「…政宗。それ、どうしたんだよ?」
 と詰問された。昨夜のことを知らされた孫市は、まだ伊達のことを子どもだと思っているので、本気で心配した。左近やくのいちも、
 「それで、大丈夫だったかんですか?」
 と、心配して、くのいちはそれでも、
 「でも。伊達ちゃん女の子救けて怪我するなんて、かっこーいいじゃん。そんじょそこらの人にはマネできないっていうか、男前が上がったね!」
 と褒めた。


 説明書の入った携帯ショップの紙袋は携帯を買ったことがばればれなので、伊達がそれを嫌がっていると、その様子を察した孫市が、
 「なあ。これ使ったらどうだ?その袋、モロバレだろ?携帯新しくしたの。」
 と、昼間喫茶店で売ってるクッキーや茶葉といった商品を入れる黒い紙袋をくれる。普段は、伊達が孫市から食べ物をもたされるときに使用する袋なので、そこに携帯を入れるのは少し違和感があったものの、伊達は喜ぶ。


 夜になったものの、1週間ほどバイトは、伊達は大事を取って休みということになっていた。
 伊達は手持ちぶさたな上、直江から直接電話番号やメールアドレスは聞こうとも思っていたので、
 (…久しぶりに会いたいしな。)
 と思っていたこともあり、直江が仕事が終わった頃に直江のマンションへ向かった。


 直江はマンションにいた。伊達がマンションのチャイムを鳴らしたところ、出てきた直江は顔が強張っていた。
 躁鬱が激しい直江は軽い二日酔いに悩まされつつも、昨夜のことを仕事中も真剣に悩み続けた。直江には、伊達がもともと同性愛嗜好の気があるとは思えない。直江もだけれど、伊達も本当はノンケなのだろう。それがわかっていたからこそ、伊達が異性を好きになり、直江の知らないうちに恋人にしていたのだろうかと思った。
 考えてみれば、最近、夜忙しそうで様子もおかしかった。てっきり学校のゼミ関連だろうと思っていたけれど、あれは直江の勘違いだったに違いない。直江は信頼が裏切られたようで、悲しかったし、腹が立った。最終的には、浮気にしろ本気にしろ、男らしい伊達はすっぱり直江のことを切り捨てるだろうという結論に至り、更に直江は鬱思考になっていった。
 色々悩み続け、連絡を取ろうとしても取れなかったことも考慮に入れて、もしかして直接別れを告げられないだけで、すでに着信拒否などをされていて、伊達的には関係を清算したつもりなのだろうか。そういえば、最近全然あっていない。


 そんな、仕事から帰ってきて、
 (…もう…、世界は終わった…。)
 などと思ってるときに伊達がやって来たので、直江は内心激しく動揺する。
 信頼を裏切られたという悲しみや怒りと、あんなのを見られたのに来るのかという憎悪と、それでも伊達のことが好きなつらさや情けなさなど、色々な悪感情が直江を苛める。
 「…、何故…今更来た。」
 辛うじて絞り出せたのはそんな問いかけの言葉で、伊達は意味がわからず首を傾げる。その様子に、
 「…まだ白を切るのか!」
 と、直江は伊達をマンションに引き込んで、勘違いゆえになじった。
 伊達はなぜ、直江がこんなに腹を立てているのかわからず、アルバイトを黙っていたことが原因なのかと思い、謝罪の言葉を口にする。しかし、いまだに直江の誕生日にサプライズをしたい伊達は、直江の誕生日プレゼントを買うためにバイトしていたこと、慶次の紹介でバイトしてることは説明しなかった。そのため、直江に更に勘違いされてしまう。昨夜の胸を押し付けるように腕を絡めていた女(妲妃)の様子が強烈に印象に残っていた直江は、伊達が金を稼ぐために身体を売っていたと思った。
 勘違いしている直江としては、
 (…そんな不義なことをしてまで金が欲しいのか!)
 と思ってしまうし、そういう反感が念頭にあるため、伊達が怪我をした理由などを説明されても、
 (そのような汚い金のために怪我をするなど!)
 といったところ。
 伊達は伊達で、直江には説明していないものの直江のためにバイトしてるわけで、かつ、
 (…確かに…。怪我をしたのはわしの不注意ゆえかもしれぬ。だが、そこまでなじられねばならぬことなのか…?)
 と思い、更に、勘違いしている直江がバイトのことを悪し様に言ったので怒る。


 言葉が足りないために互いの真意が悟れぬまま、だからこそ、
 (わしと兼続の心は…いつの間にかこれほどまでにすれ違ってしまっておったのか…。)
 と悲しさを覚えながら、直江と伊達は言い争う。
 最終的には、直江が伊達を手荒く抱く。力に屈するようで嫌だし何よりそんな直江との行為が嫌だったので伊達が本気で抵抗したところ、直江は伊達が女に義理立てていて自分からもう心が完全に離れてしまったのだと勘違いして、それゆえに、本当に手荒い行為になってしまう。伊達は直江が怖かったり悔しかったり悲しかったり痛かったりと、本気で泣く。


 (色々R-18的な展開があるのだけれど。私には当然そんなの書けないのだ!)


 行為が終わった後。伊達は取るものも取らず服だけ羽織り、暴力に踏み切った直江と、屈するしかできないし信じてもらえない自分自身に対して強く悔しさを覚えぼろぼろ涙をこぼしながら、直江のマンションを飛び出る。


 伊達は大学進学と同時に、叔父家から出て一人暮らしを始めた。けれど、直江との思い出のある家に帰るのも、一人きりでいるのも耐えられず、家には帰ろうとはしない。
 一人ではいたくないけれど、誰にもこんな姿を見られたくないという思いから、人目を避けてどんどん人気のない道へ入り込んでいき、迷子になってることには気づかないで走り続け、気づけば知らない場所にいた。
 「…どこじゃ…、ここは。」
 直江のマンションに財布も携帯も置いてきてしまっているので、伊達は連絡の取りようや移動手段がない。しかし、まだ早朝だったこともあり民家で電話を借りたり道を聞いたりすることはできないし、できたとしても、プライドの高い伊達はそのような真似はしたくない。
 「……情け、ない。これが今のわしか。」
 伊達は自分が情けなくなり、それと同じくらい悔さを覚え、更には心身ともに疲労していることもあり、見つけた遊歩道の休憩所に座り込む。それまでは走るようにして歩き続けていたからそうでもなかったけれど、いったん足を止めると、涙が溢れて止まらない。伊達はそれをまた、
 「…っ、情け、ない!」
 と思いながら、鼻を啜るしかなかった。みっともないし情けないので泣きたくなどないのに、涙が止まらず、それがなおさら伊達のプライドを刺激した。


 涙が止まらないのが嫌で伊達が目を強くこすっていると、すんすんという鳴き声とともに何か見慣れない姿があったので近づいてきた祝融と星彩の二人に発見される。祝融と星彩は毎朝この遊歩道を、同じ荘に住む女二人でマラソンしてるのだ。
 実は星彩はくのいちの友だちで、星彩とくのいちと稲姫と尚香の4人で、サークルやゼミの関係上いつも一緒にいる。この4人の間では、ずいぶん昔から伊達と直江のことが話題持ちきりで、そういう理由から、星彩は伊達の外見を知っていた。
 「…伊達政宗。なんでこんなところにいるの?」
 星彩は伊達本人にこそあったことがないものの、伊達の人となりは非常に詳しかった。なので、泣いている伊達を一目見て、悔し泣きに違いないと悟った。その上、伊達は釦の跳んでしまっているシャツを辛うじて引っ掛けただけ、という様子で、腐女子入っている星彩は本能的に、
 (…きっと男に襲われて貞操が…。いえ、直江兼続と喧嘩してひどい目にあったのかしら…。)
 と、正解も含まれている妄想を展開して、
 (…ともかく。私が伊達政宗を保護しなくては。)
 と、勝手に決めるのだった。


 伊達は声をかけてきた女のうちの一人が、自分のことを知っていて、その上、
 「私は星彩。くのいちの知り合いよ。」
 などと言うので、泣いてることをばれないように必死に目をこすり、それでも目許が赤いだろうから俯いて、
 「そ、そうか。くのいち、の、知り合いか。」
 と返すものの、嗚咽で言葉が途切れ途切れだし、鼻水すすってるので、泣いていることはばればれなのだった。
 「どうしたんだい。泣いてるのかい?」
 祝融が姉御気質を発揮してずばり尋ねてくるので、伊達は引くに引けなくなって、
 「な、っ、泣いてなどおらんわ!」
 と答えるものの、
 「泣いてるじゃない。」
 と冷静に星彩に返され、
 「泣いてなどおらん!」
 「…じゃあ、そういうことにしてあげるわ。」
 「そういうことではなく泣いてないのだ!」
 「わかったわかった。そういうことでいいからさ。アンタ、政宗だっけ?ともかく、おいでよ。こんなとこでそんなかっこじゃ、いくらなんでも寒いだろ?」
 「…!だから泣いてなど…!」
 「はいはい。」
 いつの間にか星彩と祝融の住む荘に保護されることが決定している上に、星彩と言い争っていたら伊達は涙が止まっていた。女二人がかりで言い負かされたけれど。


 引きずられるようにして連れてこられた、もとい、たどり着いた蜀荘は、蜀という名の中小企業の社宅なのだ。そこで、
 「小汚いから入浴して、着替えて。ほら、」
 と、星彩に命令されて、身包み剥がされて、
 「初対面の男に対する対応ではないであろう!」
 「いいのよ。私はあなたのこと知ってるし。それに、」
 「それに?」
 「政宗、男って感じしないわ。」
 「!」
 反論を許されず、無理矢理風呂に放り込まれる。完全に男だと認識されていない。初対面だとも認識されていない。
 祝融が旦那の着替えを持ってきてはみたものの、予想通りサイズが全然合わないので、星彩が、社宅の小さな庭で早朝鍛錬していた幼なじみの関平から服を借りて、サイズがそれでも大きかったけれどともかく着せる。
 なぜ伊達の服がズタボロでその上泣いていたのかは、星彩も祝融も優しいので聞かないでくれる。


 その後、伊達は朝食のご相伴に預かることになる。食卓では社宅の住人全員で食べるのが慣習らしくて、蜀の人たち全員から一気に自己紹介され、伊達はうろたえるけれど、必死にどうにか全員の名前を覚えはする。
 人懐っこい社長の劉備に頭を撫で回されたり、姜維に興味津々の様子で、
 「うわあ!伊達政宗殿だ!剣道の試合見てますよ、ね、趙雲殿!伊達殿って、今どこの学校に通ってらっしゃるんですか?!」
 「…姜維、もうちょっと静かにしてくんねえか?お前の声はきんきん響く…。」
 「張飛殿、また深酒ですか。はい、味噌汁。孔明様もどうぞ。政宗殿もお代わりどうですか?成長盛りなのだから、足りないでしょう。」
 「え、あ。いや。ありがたいがもう」
 「そんな!小さいのだから食べなければいけませんよ。はい、お代わり。」
 「す、すまぬ。」
 (…って、聞いておいて拒否権はないのか!)
 予想外にもほどがあるほど歓待されて、大変な目に会う。別にそれは辛い類の大変さではなくて、伊達の傷ついた心を癒す類の大変さだったけれど、どちらにせよ大変なことに変わりはない。それでもずいぶん嬉しい大変さだけれども。


 その後。昼過ぎまで、魏延や姜維に構われたり、同じ年頃の関平に話しかけられたり、実は剣道の大会で見知ってた趙雲と親交を深めたりしているうちに、伊達は疲れていたこともあり寝てしまう。なので、月英が男衆を使って、日干ししたばかりの布団に寝かす。
 みんな、伊達のことを10歳くらいの子どもだと思ってる節がある。


 伊達は心身ともに疲労が蓄積していたようで、蜀荘の温かさに触れたことで気が抜けたのか、夕方から熱を出す。うなされてる伊達の様子を、本気で心配するのは魏延だった。
 「イノチ、タイセツニスル…。(違!)」
 伊達のことを気に入っている魏延と姜維、人も面倒見も良い関平の3人で伊達の様子を見たりしている最中に、星彩はくのいちにメールをする。
 「伊達政宗は預かった。返して欲しかったら、直江兼続を寄越しなさい。…熱出して具合悪そうなの。」
 誘拐したから返して欲しくば、みたいな文面だったけれど、星彩とつきあいの長いくのいちは行間を正しく読みとり、くのいちから直江に連絡が行く。


 直江はといえば、昼間。伊達に乱暴を働いてしまったことを後悔したり、それでもやはり腹は立っていたり、それ以上に傷ついていたりした。
 そんな風にして暗い雰囲気を漂わせながらも、伊達が忘れ物をしていったのでたまり場へ向かうことにする。直接渡すだけの勇気はないし、どうせまた着信拒否をされて連絡はつかないんだろう、と自虐的になっている。


 伊達の忘れていったものを手に直江がたまり場に着くと、孫市が直江の持っている荷物に目ざとく気づき、
 「あれ?政宗、携帯忘れてったのか?」
 と尋ねる。直江が持ってる店の袋に伊達の新携帯が入っていることを、直江は知らなかったので、
 「携帯…?」
 と、一見してわかるところに携帯などあるだろうか、と首を傾げる。いつも孫市が伊達に土産を持たせる店の袋に新携帯は入れられていたので、直江は気づかなかったのだ。
 「何だ、携帯とは?」
 初耳の事柄を孫市に尋ねれば、孫市がカウンター席に着いてた慶次をじとっと睨んで、伊達が手を怪我した経緯と携帯の故障の話とを説明する。
 直江は怪我のことは一応耳にしてはいたものの、そのときは本当に怒り心頭で悪い情報としか受け取れなかったし、携帯の件は知らなかったのでびっくりする。その上、伊達のバイト先を慶次が斡旋した事実を知り、更にびっくりする。結論から言えば、全部自分の勝手な勘違いだったと知らされ、直江は愕然としてしまう。
 そんな直江の様子を怒っていると勘違いしたのか、慶次が
 「兼続…、本当に済まねえ!俺がついていながら政宗を危ない目に合わせちまって。面目ない!政宗もバイト探してたからみたいだし、普段はそんな危険なことないもんだから…いや、言い訳はしないさ。腹に据えかねるなら、俺を殴ってくれ!!」
 と、言う。結局今回は特殊なケースで、いつも慶次の仕事場でこんな危険なことがあるわけではない。
 「政宗がバイトを探していた…?」
 伊達がバイトをしたがっていた理由を知らない直江は、
 「何故バイトなど…。政宗はそんなことをしなくても、金はあるだろう。」
 と、半ば放心状態でおそるおそる尋ねる。孫市と、そこにいたけど口出ししないで様子を見てた左近が、直江の様子からなにやら不穏なものを感じ取って、顔を見合わせた後説明する。
 「そりゃ何でって。直江さんの誕生日プレゼントを、自分で働いたお金で買って贈りたいからだって話でしたけどねえ。」
 直江は本気で青ざめ、その様子に周囲はそれこそ何かあったらしいと悟る。


 直江は必死に伊達と連絡を取ろうとするけれど、伊達は一人暮らししているアパートにも帰っていないし、携帯はここにあるし、知り合いに軒並み連絡してみたけれど知らないと返事が来て、躁鬱激しい直江は、
 (…もしかして政宗は私があのようなことをしたことを苦に思って…自殺…)
 と、極端な想像まで巡らせて、顔色がとても悪い。


 直江の伊達捜索を孫市なども手伝っているところに、すでに連絡を受けていたくのいちから、直江は伊達の居場所を教えられたのだった。


 くのいちから連絡をもらった直江は、自分の小型車ですぐさま蜀荘へと駆けつけた。
 蜀荘では、伊達が熱出して寝ていた。すさまじい勢いで登場した直江の様子にびっくりしたのは関平と趙雲だけで、星彩は、
 (この様子だと…政宗は直江兼続との恋愛のいざこざで、こんな状態になってるのかしら。…喧嘩?)
 と、ますます己の妄想に対する確信を深めていく。
 他の面子は大らかというか、直江の様子を伊達が熱を出していると聞いて慌てて駆けつけたのだと無意識に信じ込み、全然気にしない。諸葛亮や月英は内心直江の慌てぶりを気に留めるものの、
 (…おや?)
 と、片眉を上げる程度しか、表面上には出さない。
 自己紹介や挨拶もそこそこに直江は伊達をお姫様抱きして、深々と篤く礼をして帰る。
 直江に抱きかかえられたとき、蜀荘のみんなの介抱もあって納まりかけてはいたものの、依然としてうなされてた伊達の表情が和らぎ、眉間のしわが緩んだので、それまで星彩は伊達がズタボロな様子で泣いてたことや今うなされていることや自分の妄想から、
 (直江兼続に…、本当に政宗を引き渡しても大丈夫なのかしら…?)
 と内心思っていたけれど、
 (…これなら大丈夫そうね。)
 と考えを改める。
 伊達は無意識でも、あんな扱いをされても、やはり直江が近くにいると安心するのだった。


 直江は伊達を後部座席に横たえて、蜀荘のみんなに重ね重ね礼を告げて去っていく。


 直江と伊達が去っていった後、蜀荘のみんなは人が良いので玄関先でそれを見送っていたけれど、夕食を取ることにする。
 夕食の席で、それまで事態を静観していた諸葛亮が、
 「ところで政宗君を引き取りに来た…直江さんですか。あの方は一体?」
 と婉曲的に尋ねて、星彩が
 「直江さんは政宗の旦那様です。」
 と直接的に答える。実直で常識人の趙雲と関平が思わず吹くけれど、月英は、
 「まあ、そうなのですか。」
 と、謎が解けてすっきりしているし、殿は、
 「そうかそうか。」
 とにこにこ笑っている。蜀荘のみんなはどこか少し感性が一般人とは違うのだった。だからこそ、一般人の趙雲や関平はそんな蜀荘の人々に惹かれるのだ。
 関平は実は、蜀荘に住んではいるものの蜀の社員というわけでもなく、派出所で警官をしている。そのため、検事の直江とは会話こそしたことがないものの、一方的には見知っていた。なので、
 (法廷ではあんなに真面目で格好良い人が…。)
 と少しショックを受けて、
 (こ、これからどういう目で見ていけば…!)
 と、内心悩むものの、基本やはり関平も蜀荘の住人らしく人が良いので、気にしない。


 伊達を引き取ってきた直江は、伊達の処遇に迷う。
 あんなことしてしまった自分のマンションに、はたして伊達を連れて行って良いものか。まだ怒っているのではないか。直江も、それだけのことを伊達に対してしてしまった自覚がある。しかし。
 と、際限なく迷い悩み、結局、自分のマンションに連れて帰る。


 伊達を部屋に運んでる最中、部屋の前にたどり着いた辺りでうつらうつらしてた伊達がぼんやり目覚めて、玄関開けた時点で覚醒する。
 (…直、江?)
 なぜ自分が直江に抱きかかえられているのか現状がさっぱりわからないけれど、伊達はやはり直江が近くにいると安心するので、
 (わしは…。いや、そんな些末別にどうでもよい。直江がいてくれれば。)
 と、全部許すのだった。
 しかし、勝手に勘違いして暴走して乱暴して伊達を泣かして熱まで出させた直江の方にしてみればそんなはずもなく、伊達を布団に寝かせた辺りで伊達が目覚めたことに気づいたので、
 「政宗!謝って済むことではないが…っ、本当にすまん…!!」
 と、フローリングに額をこすりつける勢いで潔く土下座する。
 本気で心の底から直江に謝罪され、それまでの経緯も誤解も全てひっくるめて、直江が傍にいてくれれば安心するというそれだけのことですでに許していた伊達は、
 (……。何してんじゃこやつは…?)
 と思いつつことの成り行きを伺っていたけれど、その後直江の陳謝の言葉を聞いて事情を悟り、一つため息をつく。
 (お綺麗な兼続はつむじまで綺麗じゃの。)
 などとのろけみたいなことをぼんやり思いながら、ぼんやりと土下座してる直江の頭を眺めてる場合では、どうやらないようだ。
 直江の誕生日にびっくりさせようと画策してたことまですっかりばれているらしいことが判明したので、伊達は、
 (これまでの苦労は…一体何であったのであろう。)
 と遠い目で思いつつ、それでも、
 (ま、何にせよ誤解が解けて良かった、か。)
 と思い、直江に、
 「そんな謝罪の言葉よりも、…他にすべきことがあるであろう。」
 と言うのだった。
 恥じ入って死にたい勢いの直江は、伊達が命じるならば切腹でも何でもするつもりだったけれど、
 「別れて欲しい。」
 と言われたら生きていけない心地で、
 「他に…すべきこと?」
 と尋ねる。思考が昼頃まですさまじく暗い方向に突っ走っていたし、今も状況を楽観視できるような心持ちでもないので、直江は悲観的になっている。伊達は青い顔をしている直江の様子に、
 (また何か変な誤解をしておるな…こやつ。)
 と呆れながらも直江を手招いて呼び、小さい声で耳元に囁いた。
 「謝罪はどうでもよい。そんなものなど犬にでも食わせてやれ。それより、…抱きしめんか馬鹿め。」
 ぎゅっと伊達が先に直江の首に腕を回したので、それだけでそれまでの想いを跡形もなく消し飛ばされた直江は本気で嬉しくなって、泣きそうな勢いで強く伊達を抱きしめる。
 「って苦しいわ!」
 直江の抱きしめる力が強すぎて苦しいので伊達が怒るけれど、それも口先だけの言葉だった。


 「ともかく、傍におれ。隣で寝よ。それでちゃらにしてくれるわ。…抱きしめるのを忘れるなよ。」
 などと、伊達は直江をますます嬉しがらせるだけの台詞を吐いて、直江にぎゅっとされたまま眠りにつくのだった。


 翌朝5時頃に、伊達は昨日昼間からずっと寝てたこともあって目が覚める。
 熱もすっかり引いているし、自分は夏休みだから別にいいものの直江はそうでもないことを重々承知していたので、法廷の仕事も入っていないし伊達のことを心配して有給を取ろうとする直江を、半ば無理矢理追い出すようにして職場に向かわせた。
 「馬鹿め!こんなことで有給取るくらいならば、どこか旅行にでも行くことにするからその際に有給取らんか。肝心の時に有休切れてましたなどと、洒落にならんではないか。」
 それはどこか旅行にでも行こうという伊達の誘いだった。


 昨夜。直江は、
 「政宗はまだ学生だろう。そんな高価なものは、無理して買わなくてもいい。政宗からもらえるのであれば、私は何でも嬉しい。」
 と、年相応の贈り物で良いと告げて、
 「それに…政宗のことを信じきれず、疑った私など。何ももらう資格はない。」
 と、頭を垂れた。
 確かに伊達が直江に贈ろうとしていたバイクのパーツはすごく高価なもので、だからこそ、ずいぶん早い時期から高給バイトをしていたわけなのだけれど、そうすると伊達としては、突如予期せぬ大金が転がり込んできたようなものというか、お金が余ってしまう。
 「政宗が働いて得たお金だ。自分自身のために使えばいい。」
 (…何のために今まで頑張ってバイトしてきたんだと思っとるんじゃ。)
 直江の言葉に伊達は少し不満を覚える。
 (…まあ。塞翁が馬で、あのバイト先は辞める気はせんがな。)


 最終的に、妥協案で伊達が心中必死に考えて思いついて打ち出したのが旅行で、
 (わしと兼続の二人で金を使えばよいだけではないか!)
 という結論だった。伊達は自分一人のためだけに金を使う気にはなれないし、かといって直江だけのために使うのは拒まれてしまったので、そうするより他ない。
 直江はそんな伊達の心中つゆ知らず、単に旅行に行こうと誘われたことが嬉しい。その上、それまでさんざん色々と悲観視していたことを考慮にあげれば目も当てられないほどの喜びようで、
 「…っ政宗!」
 と、伊達をぎゅっと抱きしめて、
 「ああ。…絶対に、行こう!」
 と約束して、浮かれ気分のままに伊達にお出かけのちゅうをした後、意気揚々と職場に向かった。
 「………。」
 伊達はしばらく呆気にとられたように玄関に立ちつくしてたものの、直江の出勤車のエンジン音が遠ざかって聞こえなくなった後はっと我に返って、口元に手を当てながら赤い耳をして玄関の扉を閉めるのだった。
 「あ、あんなに浮かれおって…馬鹿め!」











初掲載 2007年前期