第六話   現代パラレル


 その後、家に帰った後、くのいちから借りた本を人目につかないように隠すんだけど、どうも気になってしまって、ちらちら隠している方を見てしまう。で、そんな気になってる自分に気づいてハッとして、必死に別のことに意識をそらそうとしてみたり、でも結局くのいちから借りた本に意識が向いてしまったり。
 そんなのを夜頃まで続けた結果、伊達はみんなが寝静まった頃、ごくり、と息を呑んで決死の覚悟で本を見ることを決意する。とりあえず一番上にあった本をぺらりとめくってみると、それは友情みたいな恋愛ものであたりさわりのない内容。実は、くのいちが伊達の性格を読んで、上から下に行くに従ってだんだんハードになっていくように袋に入れておいたのだった。なんだ、こんなものなのか。と、くのいちのエロの際の注意事項なんかですごい怖じ気づいていた伊達はほっとして、次の本へと進む。
 翌朝、月曜日。二日連続の寝不足に目の下に隈ができてる伊達の様子に、成実がびっくりする。しかも何でかよくわかんないけど、憔悴してるし。伊達は、くのいちから借りた本を全部読んでしまったのだ。成実や、教室で会った愛とか猫とかもびっくりしたので、伊達に何があったのか聞くんだけど「別に…大差ない。」との返事だけ。
 その日、伊達は寄り道せずまっすぐ家に帰って昼寝したんだけど、昼寝しちゃったもんだから夜眠れなくて、また夜読んでしまうのだ。で、色々考え込んでしまって、悩んだ末、文明の機器ネットを利用。当然、履歴は消去。
 まあ、何はともあれ、伊達は意図せず、男同士のあれやこれを知ってしまったのだった。直江と会わないでいた期間中に。


 そういうわけで、伊達はすっごい直江とのことを真剣に悩んで、色々考えた末自分は抱かれる方なんだろうなとか思ったりして、本当にしょうもないことまで考え込んで。
 海に行ったときは、最初は成実のことでちょっとしんみりしてたからそんなでもなかったんだけど。結局数回借りることになったくのいちのホモ本の中で似たようなシチュエーションがあったことを思い出してしまったら、もう、駄目だった。内心したたかに動揺しつつ、それでも、いや直江はそんなことは…とか思い、その反動で、いやわしはでも直江のことが好きなのだからやはり直江も男だしそういうのを望んでいるんじゃないか…とか思って。で、実際じゃあどうなのかちょっと直江に甘えてみたらノーリアクションで、伊達は内心ちょっぴり何事もないことに対して失望したりしてしまい、いやいやいや!とそんなことを感じた自分を知覚して自分を否定し。
 最終的には直江の唇を奪い、奪ってやったわ!とか変な達成感と、やっぱり直江の方は友情のちょっと延長上みたいな感じでこれを認識してるだけで恋愛から来るものじゃなかったんだ、とか思いつつ伊達は早歩きで、やっぱり恥ずかしいから直江から離れたんだけど。自分の思い過ごしだった(しかも抱かれる覚悟までしてた)恥ずかしさやいたたまれなさから、耳も熱いし。
 そこに、直江が後から追いかけてきて唇を奪い返したものだから、伊達はそりゃもう大変なことに。かあああとなって頭が真っ白で空転し、なんでなんで、とそんなよくわかんない問いかけが脳内を駆けめぐり、気づいたときには駆け寄って抱きついてた。


 伊達は直江に問いかけた後、二の句を告げない直江の様子にはっとして自己嫌悪に陥る。しまった、わし、先走りすぎた…!というか、勝手に暴走して勝手に覚悟して何してんだ…!と本気で落ち込んで、自分を責めて、うつむく。「…すまん、愚かなことを言うた。忘れてくれ。」
 もういっそ少女漫画的展開(読まないからよくは知らないけど)で、伊達が直江のマンションを走り出ようとするのでいいんじゃないか。うん。今思いついた。
 そんな伊達の腕をとっさにつかんで引き留める直江に、伊達がどうか手を放してくれるよう頼むんだけど、直江は断る。「なぜ…、わしのことは放っておいてくれ!」ともう恥ずかしさと自己嫌悪とでやけっぱちになってる伊達は叫ぶんだけど、直江が抱き寄せてるんだ。腕を引き寄せて。うん、それでいこう。
 「情けなどいらぬ…!勝手に勘違いしてすまなんだ、頼むから、わしを放っておいてくれ…。」
 伊達は本気で泣きそうで、直江の腕の中で震えてるんだけど、「放っておけるわけがないだろう。」と直江が伊達の様子について言う。そうすると、伊達が自分は色々直江との友情を恋愛と取り違えてキスしてたんだとか、それは勘違いじゃなくて正解なんだけど、勘違いしていたと思いこんでいる伊達は直江に訴える。で、キスしたいとか思った自分を浅ましいと思うとかそういうどんどん自己嫌悪というか自己誹謗の方向へ発言は向かっていき。
 直江がそのこうるさい口を黙らせればいいよ。口で。
 で、伊達が全部勘違いだったと勘違いできないくらいディープなのをかまして、そんなの初めての高校生伊達は腰砕けというかへろへろになってしまうのだ。そんで、自分で自分をけなしてるうちに耐えきれずにとうとう泣いちゃったのか、それともあまりのキスの巧さに泣いちゃったのかわかんないけど、伊達の目には涙が浮かんでいるんだけど、ひたすらびっくりしてる様子の伊達を真っ正面から見つめて、直江が「私は友情でキスなどしたりしない。私が慶次や幸村たちとしているところを見たことがあるか?」と尋ねる。言ってる間にもちょっと想像しちゃったのか顔をしかめてる直江の問いに、伊達は首をゆるく振る。でも人前でそんなキスしたりしないだろうし、自分たちだって人前ではしたことはないとも皮肉な伊達は思うんだけど、素直な伊達は直江の言うことを信じるのだった。


 納得したようすの伊達の様子に一安心した直江は、伊達をぎゅっと抱きしめて、そんなまさか勘違いされてたなんてどうしようと思ったけどわかってくれて良かった、みたいなことを言うのだ。伊達のことを大切にしたいと思ってたから、それが優柔不断な態度に取れたのは本当にすまないと思う、とか最終的には、伊達のことは抱きたいと思ってるみたいな暴露も。伊達はじっと直江の腕の中でそれを聞いてるんだけど、そんな直江の発言に「悪いのは、わしの方だ。」ということで互いに自分の方がより悪いみたいな主張合戦になってしまい、最終的には、不毛なことで言い合っていることに気づいて、顔を見合わせて吹き出してしまう。
 笑ってそれまでの暗い空気が払拭された今度は、その反動かあるいは互いの気持ちがわかったからか両方か、なんかどこか居心地が悪いというかどこか甘ったるいというか、そんな雰囲気が二人の間に漂うのだった。
 そして、伏し目がちの伊達が直江の名を呼んでぎゅっと腕をつかんで、直江が抱きたいならわしはみたいな決意を告げて、直江が伊達の様子と発言に「政宗…、」と、それに応えてようと顔を近づけ…
 そして、
 直江の携帯が鳴る。深夜なのに。
 しばしの沈黙、ふいに落ちる気まずさ。携帯はそれでも鳴り続けている。微妙な雰囲気にまず初めに伊達が「…兼続、携帯が鳴っておるぞ。」と言って、直江が内心しぶしぶながらも伊達から離れて携帯へ。
 慶次からだった。
 慶次は最近遠呂智とかいう友人ができたらしくて、直江が伊達と仲がいいこともあってしばらくそっちと交流を深めていたのだけれど、それは置いといて。遠呂智のいる地方から久しぶりにアパートに帰ってきたら、叔父夫婦にアパートを占拠されていたのだった。なんか色々しでかしてるだけに、今度は叔父夫婦が何が理由で慶次を叱るためにアパートにいるんだか(大家さんもいつものことなので、叔父夫婦は慶次の部屋に素通りさせるのだ。叔父夫婦は大家さんに挨拶とかもきっちりしてるし。菓子折持って。)わかんなくて、それでも帰るに帰れないしというか帰りたくないし、直江のマンションに久しぶりに泊めてもらおうと思って電話をしたのだった。直江が伊達と親交を深める前はちょくちょくあった光景なのだけれど、流石に、このタイミングで電話が来ると直江も多少なりともイラッと来る。
 でも伊達は慶次のことが好きなので、すっかりさっきまでのことを忘れたようなテンションで「慶次が来るのか!」と嬉しそう。なおさらそれが直江的には納得いかないというか、不満というか、微妙な気持ちにさせるものなんだけど。伊達が賛成してるし親友が困ってるんだから直江が反対することもできず、慶次が直江のマンションに来ることになるのだった。


 慶次が来ることが決まってうきうき色々準備してる伊達の様子にひっそり直江がため息を吐いてると、支度し終わった伊達が直江の方に来て、正面でいったん立ち止まってから、ぎゅっと抱きつくのだった。「ま、また次にな!」と、意気込んでるんだか怖がってるんだかな様子の伊達に、直江はぽんぽんと背中を叩いてやって、まあ無理はしなくていいけどみたいなことを告げる。すると、伊達は無理などしておらんわ、と直江をちょっと睨みつけて(図星…?)、じゃあわしが18になったら!と期日を決める。伊達が記念日を大切にするとかそういうタイプでもないことを承知していた直江が、何でわざわざ18の誕生日なのか尋ねると、伊達は色々することがあるからと言うのだった。とはいえ、じゃあ何を色々するのか聞いても、伊達は教えてくれなかったけれど。
 慶次が来て、3人で…というか慶次と慶次に懐いてる伊達でおしゃべりして。直江がちょっとふてくされてるのには慶次も内心首をかしげたりしつつ。夜が更けていくのだった。











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初掲載 2007年前期