第五話   現代パラレル


 それから伊達と直江の仲は何も進展せず、伊達の学校の終業式が過ぎ、春休みになり。とはいえ短い春休みのこと、くのいち(と、セットで付いてきたなんだかんだで仲の良いらしい三成)に振り回されて呆気なく終了し、新学期に。伊達は3年生になり、仕事のできる直江も職場でのレベルが上がり(ちょっぴり昇進?)。
 たまり場にはくのいちという新メンバーが入り浸るようになり、勉強のできる伊達も今更受験がどうのこうので焦ることもなく。それに対して一方、直江は昇進したから来ることが少なくなったし、孫市は雇われ店長に昇進してたまり場以外では会えないことが多くなる。
 直江と伊達は以前からしていたメールを今もしていて、たまに会ったり泊まったりしてるのだけれど、何が進展しわわけでもなく、ただ以前以上に人目のないところでは伊達が甘えて直江が甘やかすようになった感じ。身体的接触が増えたというか、猫がすごいなついてくれたような。直江の背中にもたれて、背中合わせで本を読んだりするのがお気に入り。
 酒の方は孫市や左近が厳重に目を光らせているので、伊達が呑まされることもなく、慶次なんかは「あれだけ強いんだ。一緒に呑みたいねえ。」とか言うんだけど、そのたびに孫市に睨まれるか、左近に「まだ止めてくださいよ。」と呆れられるか。
 そうこうしていると伊達が2年間つとめた生徒会長を辞めて、それこそたまり場に入り浸るように。
 そしてある日、成実のバンドのライブが行われるらしく、直江は成実に誘われたこともあって、伊達と見に行くことに。ちょっと距離があるから、直江のバイクに乗って。
 成実(ボーカル)はヘビーな曲を歌うので、バンドのメンバーはどういう伝手で知り合ったのかおじさんばっか、そして見物人もおじさんが多い。従って、年齢的に、直江よりむしろ伊達が浮く。
 すさまじい熱気の中成実のバンドの演奏が終わり(超有名なバンドの前振りだった。)、ものすごいテンションが高い成実に感想を告げて、その場を出て。
 伊達はいつの間に成実がああいう歳のずいぶん離れた知り合い(30代後半とか。)を作って、バンドを作って活動していたんだろう、しかも超歌うまいし、とただただびっくりしてるんだけど、直江に「政宗も知り合いが年上ばかりだろう。」と言われて、そういえばそうかと納得するんだけど、なんかまだ完全に納得しかねるものがある。従兄弟ゆえかもしれない。それは、成実の方でも、修学旅行の時直江のことで伊達に対して感じていたものと同じではあるけれど。
 夜遅かったこともあって、その夜は、伊達が直江のマンションに泊まることがすでに決まっていて。)


 ともかく直江のバイクに乗って二人で帰り道を走っていたのだけれど、伊達の様子に、せっかくの週末だしちょっと寄り道しようかと直江は提案して、海へ。
 海は伊達の生地の東北とも、直江の出身の越後とも違うものだった。ざざーんと波の音をBGMに、夜の海を眺めていたけれど、直江の隣に座り肩口にもたれかかっていた伊達が直江の頬を触る。すわ何事か、とハテナマークを頭に浮かべる直江の、頬を、伊達はぐぐぐーっと両手で左右に引っ張るのだった。
 わけがわからず戸惑う直江に、「おぬしも大概鈍いの。」と両手を頬から離し、伊達は再び海の方へと顔を向けてしまう。何が不満なのか唇がちょっと尖ってる。本気で理由がわからず問う直江に、伊達は呆れたような、でもどこかほっとしたような様子で一言。「雰囲気を読まんか。…勇気を出してわしがせっかく甘えとるのに。」
 直江がか わ い い !と思ってぎゅうぅうっと伊達を抱きしめると(それだけだとこれまで同様展開が進まないので、)、ぎゅうぎゅう抱きしめられていた伊達が直江の両腕を押しのけて肩口から顔を出し、直江の頭を軽く叩く。「馬鹿め。」そして伊達が額を直江の額につけてちょっと見つめた(というほど、時間は長くないけれど)後、ちゅっと唇を奪うのだった。(そして私は案の定書いてて恥ずかしいのだった。)
 唇が離れてあわあわしている直江の様子に、伊達は小首を傾げて、ちょっと拗ねたような呆れたような様子で首元に顔を埋めてくる。そしてぎゅうっと直江を抱きしめるのだった。
 ぎゅっと抱きしめて気が済んだのか、伊達は直江から離れて立ち上がると、「もう海にも飽いた。帰るぞ。」と呼びかけるのだった。(あれ?独善的っていうか攻め攻めしい伊達?!)あれだ。ぎゅって直江の袖を引っ張って言えば、攻めらしさが幾許か相殺されるのではないだろうか…。自信ないけど。
 その後、未だ座っている直江を置いてさっさとバイクの方へと歩き出してしまった伊達に、直江は最初ぽかーんとしてるんだけど、状況をようやく理解して、表面上は何事もなかったかのような平静さで立ち上がる。立ち上がって、伊達の方へと歩き出す。しかし直江が落ち着き払っているのは表面上だけのことなので、内心は動揺してる。
 伊達はいつも以上の早足でさっさと歩いていたのだけれど、コンパスの長さの差もあるし、直江がそれ以上に早歩きだったこともあって、追いつかれてしまう。隣に来た直江の姿を視界の端に留めて(直江は優しいから、伊達の右側には立たない。道路で伊達が車線側のとき以外は。そういうときは直江が右に立つんだ。ので、このときも右側にわざわざ回って追いついてきた。)、むっ、と恥ずかしさやら焦りやらを感じるんだけど。直江の方を見ようとしたところに、直江が屈みこんでキスして。何されたのか一瞬わからなくて、それでも動揺のあまり立ち止まる伊達を、直江は頭を撫でて追い越して、バイクの方へ行ってしまう。
 ちょっと間が空いてから、伊達は正気に返って、かあーっと顔を赤くして、直江の後を走って追いかけるのだった。するのはいいけど、されるのは照れるというか恥ずかしいというかな伊達。(あれ?それって攻め…?)
 直江に追いついたら伊達はぎゅっと背中から抱きしめて、「馬鹿め馬鹿め。」と抱きついたまま歩きながら小さく呟くんだけど、その様子を本当に可愛いなあと思って内心もうどうしようもない直江。
 そうやって交互にキスしあえば良いよ。意地とラブで。


 海の後は、コンビニに寄り道しつつ、直江のマンションに帰った伊達と直江。コンビニでは違ったものの、伊達はずっと背中に張り付いて離れてくれないまま。そのまま階段を上って部屋にたどり着き、鍵を開けるために立ち止まってカチャカチャやってるところで、流石に直江が張り付いてる伊達を振り返る。
 「…政宗、いつまで張り付いてるんだ?」
 伊達は背中に貼り付けた頭をぐりぐりさせて、顔を見せようとしないのだった。直江は少し困ってしまって、眉尻を下げて、どうしたんだろう…とか考える。
 「政宗?」
 体調でも悪いんだろうかとか、ちょっと見当違いなことを思いながら直江がまじまじと見つめると、伊達の耳が赤い。
 そういえば、コンビニでは直江がバイクのキーをはずしてるうちに颯爽と店内に入って、レジでは「わしが払うから直江はさっさとエンジンかけとかんか!」とか言って追い出して、言われたとおりエンジンかけてると伊達が走り寄ってきて、さっさと直江の後ろに乗って背中にしがみついて。
 ずっと恥ずかしくて顔赤くてそれを見られたくない伊達なのだった。
 気づいた直江はゆるむ頬を押さえきれず、でも無理矢理どうにかしかめ面らしい顔…と本人が思ってるだけでやっぱり頬がゆるんでるんだけど、まあともかく伊達の頭をくしゃって撫でて、部屋に入る。明かりを点けるため手探りでスイッチを探っていると、背中の伊達がばっと離れて室内に走り去ってしまう。
 ちょっとびっくりして直江の手がお留守になってると、リビングの明かりがぱっと点いて、やっぱりびっくりしてそのまま立ちつくしてると。「何をしておる!」と伊達に怒られるのだった。
 内心首をかしげつつリビングに向かうと、伊達がソファに座って足をぶらぶらさせながらテレビをつけて深夜番組を見ている。伊達は無理矢理テレビで、さきほどまでの(青春の?)恥ずかしさを忘れようというのだった。
 ちょうど終わりそうな番組に、ふっと、その番組の後何が放送されるのか。女の子大好きな孫市なんかと呑んでたときに見たのを思い出して、子ども(伊達)の衛生上よくない!と直江はチャンネルを変えようとするんだけど、伊達に不審そうな目で見られて変えられない。伊達が先に見てることもあって断りなしにチャンネルを変えられるような無神経な直江でもないし、かといって「何か見たい番組でもあるのか?」と伊達に聞かれたけれどそういうわけでもなく、言葉を濁しているうちに、番組が終わり。ちょっとエッチな番組へ…。
 「…。」
 直江がどうしてチャンネルを変えようとしていたのか悟った伊達と、悟られた直江とで気まずい雰囲気に。今更チャンネルを変えるのもわざとらしいというか、放送内容を気にしすぎな感じもして、そのまま。鑑賞。
 沈黙が重い。そしてウブな伊達の頬と耳が赤い。
 直江はコンビニの袋を持っていたこともあって、「政宗、これ、どうする?」とか雰囲気を打破するために伊達に買ったものを飲食するか聞いて、伊達も「あ、ああ。」とかちょっとどもり(?)つつも答える。
 直江が冷蔵庫の中もあさってリビングに戻ると、流石にチャンネルは変えられていたのだけれど、やっぱりちょっと沈黙が重い雰囲気。直江もどうしたら良いのか正直わからなくて、必死に頭を回転させていると、先に伊達が口を開いた…と思ったら、「直江もああいうのを見るのか。」。どういう返答をしたらいいのかわからず、ちょっとつまると、「あの番組が始まると知っていたから、チャンネルを変えようとしたのであろう。」とか言われてしまって、「いや、…確かにあの番組があることは知っていたが。あれはさいがたちと呑んだときに見て知っていただけで。」と柄にもなく言い訳をするのだった。直江は自分でも、健全な男として別に見たって問題ないんじゃ、とか、なんで言い訳をしてるんだ私は、とか思うんだけど。当然伊達の方も思ってるわけで。


 伊達はちょっとの沈黙の後。直江が気分を落ち着かせるために飲み物を飲んでる最中に、直江の顔を真っ向から見つめて、一言。「兼続は、」初めての名前呼びに、名で呼ばれたからだとはわからないものの違和感を感じて直江が面を上げると同時に、続きの爆弾投下。「わしを抱きたいとは思わないのか?」
 思わずむせる直江。飲み物が気管に入ったのだった。いったい何事だ?!と思って、一息ついてから伊達の方を見やると、伊達が内心の動揺もあらわに、けれどなるべく自制しつつ、「き、キスをするのは、そういうことなのだろう。違うのか?」。


 実は伊達、春休みはくのいちに振り回されて過ごしたのだけれど、その中で数回、くのいちのアパートに引きずり込まれたのだった。当然、女の子の部屋なので男一人(伊達)だけじゃなくて、他にも、三成や真田といった人もいたけど。三成がいれば当然のように酒盛りが始まり、三成真田くのいち伊達、それは一人呑めない伊達は後始末に奔走させられるメンバー構成なのだった。頼みの綱の左近は海外に所用で出かけていて(未だに左近の仕事考えてない…。コンサルタントか作家か…。)、孫市も忙しくてそんな店を抜けられないし。
 そんなこんなで、伊達が空き缶や空いた瓶や皿を内心うんざりしながら、それでも慣れた手つきで(慣れざるをえない)片づけていると、小さいテーブル脇の、可愛らしいカーテンで隠された本棚からなんか薄っぺらい本がちょっぴり飛び出てのぞいてる。くのいちとしては、手がすぐ届く位置に本棚を置いて、でも見られるとまずい(とは流石に思ってる)からカーテンで覆って隠したわけだけれど。まあ、閉まり切れてなかったので、中身が見えちゃってるのだった。
 伊達は自分の心の殻が分厚いこともあって、他人のプライバシーも重んじる傾向にあるので、普段ならそんなことはしないのだけれど。しかも、曲がりなりにも女の子の部屋だし。しかし今回は、呑み会で迷惑をさんざんかけられたこともあって、伊達はその薄っぺらい本を見てしまったのだ。
 あまりにもあまりな内容に、目が離せない伊達。
 薄っぺらいその本は俗に言う「同人誌」というやつで、くのいちが稲姫から借りてたホモ本なのだけれど、甘ったるくエロありの内容。嫉妬の末なぜか突如エロに突入してしまい言葉攻めでエロの後はなぜかしこりも忘れて仲直りしているストーリー展開に、んなわけあるか!、と伊達は理不尽なものを感じつつ、でも恋愛ってそういうものなのか…?と動揺を隠しきれない。
 そして、動揺のあまり固まっていた伊達が、ハッ!と視線に気づいたときには時すでに遅し。寝そべったくのいちがにやにやしながら伊達を見ていた。「伊達ちゃん、そういうの興味あるの?」んー?と首をかしげながらにやにや問われて、「そっ、そんなわけあるはずなかろう!」と思わず大声を出して否定してしまう伊達に、「今深夜だよー。声が大きいぃ、っていうか動揺してる?どもってるし☆」語るに落ちるとはこのことを指すのだよキミ☆、とか言って変なキャラになってるくのいちが、さささ、と伊達に近づいてがしっと、かがみ込んでいた伊達の腕をつかむ。ちょっと貞子みたいになってるくのいちの様子に内心恐怖を感じてる伊達に気づかず、くのいちが酒臭い息を伊達の耳元で吐くのだ。「こんなのが気になるってことは、まだ、伊達ちゃんは直江さんと未体験ー?」
 衝撃の発言にびくりと肩をふるわせ、「な、な、な、な、」とどもりまくる伊達に、くのいちがうふふふと酔っぱらい的な笑みを浮かべ、「是非もなし☆初やつよの、よいよい。気になるならば、好きなだけ資料を持ってゆくがよい。貸してあげるから☆あ、それは借り物だから駄目だけど。」
 絶句してる伊達に、これでしょあれでしょ、とくのいちが同人商業漫画小説織り交ぜて書籍を何冊か選んで手渡す。その辺りでようやく動揺から立ち直った伊達が、「くのいち、貴様、何を言うておる!わしと直江はそのような仲ではないわ!」と叫ぶと、「そんな今更隠さなくったって大丈夫だから☆」と、くのいちはにやにや笑うのだった。


 その後、いっこうに話を聞かないくのいちを問いつめた結果、どうやらくのいちと仲が良い三成がくのいちに何か吹き込んだらしいことが判明。伊達はぐうすか寝ている三成を(真田はもう、このメンツならくのいちの貞操とかは無問題だって悟ったので、三成と伊達に後を任せて、ふらふらしながら先に引き上げた。とはいえ、アパートの隣の部屋だけど。)睨みつけるしかない。貴 様 の せ い か … !みたいな。
 そして、酔っぱらっているのでぐだぐだ聞きたくないあれやこれを語り始めてしまったくのいちに、伊達は顔を赤くしたり青くしたり白くしたりしながら、朝を迎えるのだった。
 「…なんだ。お前ら、夜通し話してたのか…。仲がいいな。」
 とかって8時頃ようやく起きた三成には言われるんだけど、伊達はおまえだけには言われたくないと思いながら、ようよう重い腰を上げてくのいちの部屋を引き上げる…もとい逃げる。
 でも去り際に、くのいちに「じゃあ頑張ってね☆」とか言われて、くのいちに他意はないし、最初はすごい痛いとかつけないと腹下すとか病気に気をつけてだとかそういうエロ関係で別に欲しくもない情報を夜通し吹き込まれたりで、くのいちなりの親切心からやっていることもわかってしまったので、伊達は小さい声で礼を告げて帰る。大量の本を借りた紙袋に詰め込んで。
 くのいちは優しいので他人にはこのことは話さない…けど、腐女子仲間というか先輩の稲姫には話す。まあ、内輪が知らないから、優しいんだな。くのいちは。(でもこれが元で、伊達のことはしばらくネタにされちゃうけど。稲姫との間で。)












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初掲載 2007年前期