直江は中流よりちょっと上の家柄に生まれ、父母がお堅い職業で、しつけもよろしくお堅い人生を歩んできた。高校は公立の、とても頭が良い進学校に通っていた。
ある日、裏道辺りでかつあげに会っている同じ学校の高校生を助けようとして返り討ちに会い、そこを上杉謙信に助けられる。以来、謙信を慕って後をちょくちょく追うようになり、謙信が大型バイクに乗っていたので、乗るようになる。この辺りから、護身のため、人を守るため、武闘も始めるのだった。
段々、あこがれだけではなく普通にバイクに乗るのが好きになり、一人で、峠でバイクをかっ飛ばすようになる。そのすさまじい速さに、噂が噂を呼び、やっぱり走り屋の慶次が挑戦しにはるばるその峠までやってくる。
慶次は直江に感心して、以来、日常でも一緒によくいるようになった。
その後、直江は大学進学で上京して、そこで検事というお堅い職業に就くのだった。
ここまでが、伊達と出会うまでの経歴。
伊達は旧華族(士族でも可)の、とりあえず家柄が古い格式張った家に生まれるのだけれど、病で目を患った後は母にも疎まれ…ここら辺は史実通り。
金持ちばかり通う有名私立高校1年に在籍している伊達は、剣道の試合か何かで知り合った2つ年上の真田と仲がいい。真田は公立高校に通う3年生。
伊達は頭がいいから、3年としては頭の良い部類に入る真田と同じだけ勉強ができて、1年の勉強でも同学年の友だちでも物足りない。はっきり言ってしまえば、学校でシンパはいても友だちいない。本人もつんつんしてるし、老成してるというかああいえばこういうので(一言多いというか、言い負かすというか。)、教師に遠巻きにされてる。それでも同じ学校の三成(3年)とは、真田つながりでそれなりに仲は良い。三成も勉強とかできすぎてて、逆に友だちいない。でも三成には秀吉とかねねとか校長先生陣がいる。
そんな中、伊達の年の離れた親友である孫市がバイトをしている店に、慶次がはまって入り浸るようになり、慶次が直江を連れてくる。とうてい馬が合うとは思えない破天荒な慶次(フリーター)と直江が知り合いで、しかもとても仲が良いので伊達はびっくりしてしまうのだった。
最初は年齢差もあって敬遠していた伊達と直江だけれど、あることがきっかけで仲良くなる。
たまり場(バイトで、孫市が夜はバーテンしてる昼喫茶店で夜バーの店)に行ったら、バイトの孫市の他は、直江と伊達以外誰もいなかったし、その上雨だったので、直江が一人暮らししてるマンションに伊達を招いた。伊達も家にちょっと母が実家から帰ってきてて帰りづらかったし、でも孫市にそろそろバーの客が増えてきて子どもには衛生上悪いからって帰るよう言われて、嫌そうなんだけど帰りたくないって言えない伊達の様子を直江が気づいたのだ。やさしい直江。
直江の部屋はすさまじくきれいで、イメージどおりだった。
道程で、雨でぬれたから伊達はシャワーや衣類も直江から借りた後、最初は伊達もさして話したことのない直江といて居心地悪かったけれど、意外に直江と馬が合い、話がどんどん盛り上がっていき、そこで、直江が大型バイクに乗ることが判明した。意外な趣味に、伊達はびっくりする。
その日はとりあえずそんなことをつらつら話して、雨がやんだころ、母も帰った頃合を見計らい伊達は帰宅する。伊達の母は伊達家が大嫌いだから、長居はしない。すぐ帰る。
それ以来苦手意識を取り払って、伊達と直江はよく話すようになる。
ある日、伊達が熱出して学校を早退することになり、学校の先生から孫市に連絡がいく。孫市は伊達の保護者代わりで、伊達が弱音を吐いたり頼ったりするのは孫市か片倉だけなのだけれど、同居している片倉は色々と忙しいことが多いので、緊急時の連絡先は孫市になっている。しかし最近バイト先での地位が上がって忙しくなっていた孫市は迎えに行けそうもないので、たまたま店に来ていた直江に代わりに迎えに行ってもらえないかと頼む。直江は休暇だったこともあるし、その日はバイクではなく仕事用の小型車で来ていたこともあって、伊達を迎えにいく。
伊達の家まで送り届けようとすると、伊達は熱が出てることもあって弱気になっているので、本音をぽつりと洩らしてしまう。
「…帰りとうない。」
駄々をこねるので、直江が自分のマンションに連れていきベッドも貸して、介抱してあげる。手を握って付きっきりで傍にいると、寝言で伊達が
「母上…。」
と呟いて、ぽろっと涙をこぼしたので、家の事情をさっぱり知らない直江は知らないなりに胸がしめつけられてしまう。
起きた後、何があったのかとか記憶が定かでない伊達も、毛布かぶっただけの直江が隣で手をつないでてくれて、自分はなんか直江のベッド占領して寝てるし、はっとしてしまう。もうびっくり。すさまじくプライドの高い伊達にしてはありえない勢いで謝って家に帰ろうとするんだけど、そのひょうしにまだ全快してないからくらりときてよろけて、直江に
「まだ全快していないのだから無理はするな。」
とベッドに寝かされ直して、しかも
「食欲あるなら、粥を作るから食べるがよい。」
などと言われて、更には伊達が口には出さないけど本当は家に帰りたくない心情まで見抜かれてるらしく(伊達は洩らしたことを覚えてない。)、いたれりつくせりで…。
(ああはずかしいわしは…!)
と、伊達は内心悶える。
この後、風邪の件もあって、今まで実家に一人で住んでいた伊達は、以前から話の出ていた従兄弟の伊達成実宅に引き取られる。
それから、互いが互いに意識し出すようになる。
直江は伊達が寝言で泣きながら言ってた「母上…。」という台詞がすごい気に掛かっていて、一方伊達の方は、あれだけいたれりつくせりな迷惑をかけてしまうと直江を意識しない方が難しい。
敏い三成は何か二人の関係(様子)が変わったことに気づくけれど、何があったのかはわからない。たまり場である孫市のバイト先の常連である左近も敏すぎるから、
「これは…、面白いことになりそうですねえ。」
と内心思っている。
そんな微妙に意識しあっている関係が持続し、文化祭の時期へ。
一応クラスのつきあいというものもあって、しかも後期にもなると三成と入れ替わるようにして生徒会に在籍したこともあって、忙しい伊達はたまり場に来るどころではない。長い間顔を見ないものだから、直江は口に出さないけれど伊達がどうしてるのか気になって仕方がない。それを察した三成や左近が、うまいこと直江に伊達の情報をあげる。
現状としては、三成は推薦ですでに受験終わっていて、部活に身を入れていた真田は現在本気で受験勉強中であんまりたまり場に来ない。
そして、いつの間にこの二人タッグを組んだのか、三成と左近の奸計で直江は伊達と三成の学校の文化祭に行くことになる。真田に、孫市や前田も誘って、みんなで行った。
生徒会長としてがんばってる伊達を見かけて、つい、直江は声をかけそびれてしまう。自分が知ってる伊達じゃない気がしたのだ。しかも、久しぶりだから何んて話しかけたらいいかわからないし、生徒会長な伊達が格好良くて声をかけるのをためらったとでも言えばいいのだろうか。
伊達もこの頃になると入学当初ほどつんつんしてないし、カリスマだけは無駄に持ち合わせていて、だからこそ今までは声をかけづらいタイプの生徒だったので、生徒会長に抜擢されたのも無理はなかった。伊達は確かに友だちはいないけど、部下やシンパは大勢いた。
そんな直江の様子を、実はひそかに三成と左近が見つめていた。
実は左近が、文化祭に現在進行形で直江が来てる事実を伊達にメールで知らせていた。
「なぜ来てることを知らせん。というか、来ておるならば声をかければよいではないか。」
伊達の問いに、直江は返答しそびれてしまう。
伊達の仕事を前生徒会長の三成が勝手に引き受け、伊達を直江と一緒に送り出してしまう。無理矢理生徒会室から追い出す。生徒会の仕事をなぜかやらされるのは左近で、三成は校長夫妻と談笑してるだけなのだけれど。
真田とかは普通にそんな事態が進行中だなどと知らないで、校内歩き回っている。
伊達と直江は一通り校内を回るけれど、伊達が目立ってしょうがない。しかも、伊達は嫌になるほどもう見回ってるし、直江も直江で色々思うところがあるので、あまり楽しくない。
なので、
「もう帰って来ずともよい。というかもう来るな。」
と三成に理不尽な命令をされたこともあって(生徒会長が不在の文化祭って!でも豊臣校長夫妻だから、大丈夫。)、学校を抜け出した。伊達がバイクに乗りたいと言うので、二人でツーリングすることに。
直江はその日から3連休だったので、
「どうせ明後日まで休みだ。どこか遠いところでも行きたい場所があれば、連れて行くが。」
「…。ならば直江の故郷が見てみたい。」
ということで、二人は直江の故郷へ向かうことになる。
急遽、越後へ。
ずいぶんかかったけれど、直江の故郷に到着して、母校や観光名所などを見て回る。
途中で伊達が携帯で居候先の成実宅や、孫市などに連絡を入れる。気づけば直江も伊達も消えていて、連絡来たと思ったら
「今どこにいんだよ?」
「…今どこかは知らぬが。とりあえず越後に向かっておる。」
と言われ、孫市たち三人はさぞかしびっくりしたに違いない。
「戻ってきたことを告げずに去るのは失礼だ。」
という直江の言葉で、直江の恩人だという謙信に挨拶しに行くと、
「そうか。伊達の…」
と伊達の家の事情が、謙信によってちょっとだけ漏れたので、直江ははっとする。謙信は寺の住職で、伊達ともつながりがあった上に、伊達家は上流階級内では色々と有名なのだった。
色々と知りたいことはあるけれどまさか家庭の事情を伊達本人に聞けるわけもなく、だからといって、本人のあずかり知らぬところで人様(謙信)に勝手に聞くのも悪いと思う直江は、色々と煩悶してしまう。一方伊達も、少し謙信から漏れたことで直江の反応を気にしているので、帰り道は二人とも少し無口になるのだった。
越後の後、直江のマンションに着き、夜も遅くなってしまったし、成実宅にも今日は帰らないことを連絡していたので、伊達は直江宅に泊まることにする。
布団も敷いて二人で潜り込んだところで、直江が、とうとう意を決して、伊達本人に家庭の事情とか尋ねると、すでに尋ねられることを覚悟していた伊達はいろいろ話してくれた。
淡々と感情を押し殺した声で、まるで他人事のように、病で片目を失ったこと、以来母に疎まれたこと、父が死んだことなど。
衝撃的すぎる内容に直江は言葉を失い、またそれが言葉で取り繕えることでもないことを本能的に悟って、伊達の手をぎゅっと安心させるように握りしめた。手を握られた伊達は熱を出して直江のマンションに泊まったときのことを思い出し、変な安心感というかうれしさというかで、思わず泣きそうになる。
文化祭も終わり、伊達の忙しい時期も過ぎ、また以前通りのたまり場で会ったりする仲になる。
そんな中、直江が風邪を引いて寝込んでしまう。
2日前から寝込んでいるその情報を前田が左近に、左近が三成に、三成が伊達に伝え、週末、伊達がお返しとばかりに世話を焼きにマンションに突撃する。それこそ、直江にいたれりつくせりし返す。
食糧の入ったスーパーの袋片手に伊達がチャイムを鳴らすと、中からいかにも男の一人暮らしといった感じで、スウェット上下でよれよれした直江が出てくる。伊達は内心びっくりしつつ、おもしろがるし喜んでしまう。まるでモデルルームのように綺麗に片付いている直江のマンションを、生活感がなさすぎると思っていたから。
踏み入れた部屋はぐちゃぐちゃしていて、直江が本気でへばっているのが伺える。伊達はやっぱり内心でびっくりしたりおもしろがったりしながら、直江に食事を取ったか尋ねると、キッチンはぐちゃぐちゃにもかかわらず、後ろめたそうな声で、
「…レトルトの、粥なら。」
と返事が来る。伊達は本当にびっくりしながら、とりあえず背後を所在なげにうろたえながらうろうろしてる直江に、
「…とりあえず直江は寝ておれ。後ろでうろちょろされても、できることはないし、火事にしたりもせんし、食えんような代物も作らんから。」
と、ベッドに追い返して、粥を作って食べさせたり、部屋の掃除をしたりした。
「何がそんなに嬉しい?」
と、直江が粥を食べてる間やたら嬉しそうな伊達の様子の理由を尋ねる。それは当然、伊達が風邪引いたときのの恩返しができたからという理由もあるけれど、直江がへにゃへにゃで駄目駄目だからっていうのも理由には挙げられる。直江は体調悪くなると、駄目男化するのだ。そんな意外な一面を見れて、伊達は純粋に嬉しかった。
直江は現在駄目男なので、返答しないで沈黙を守る伊達の真意がわからないけれど、伊達が嬉しそうなので、
(…可愛いな。こんな顔も出来るのか。)
などと考えてしまい、その思考の不自然さにすら気づかない。
つい手を伸ばして、直江は伊達の頭をなでてしまう。なぜ頭をなでられてるのか理解不能な伊達は、それでも直江が風邪を引いてることもあって好き勝手させてあげる。しかし、直江がひたすらなで続けるのを止めず収拾がつきそうにないので、
「何がしたいんじゃお主は。」
と苦笑して止めさせ、
「何か欲しいものはあるか?あるならば言うがよい。」
と、直江に要望を聞く。直江は、
「…傍にいてくれ。」
と伊達に言う。伊達も体調が悪くなると心細くなる気持ちはよくわかるので、隣にいて、手を握っていてほしいとか言われたから握って、そのまま夜を明かす。
そして、朝。
体調がよくなり脱駄目男化した直江は、びっくりしてしまう。
(…何があった!?)
と一瞬思ってから、幸か不幸か伊達と違って完璧に記憶が残っているので、看病疲れですやすやとベッドの上で腕組んで顔を埋めて寝ている伊達の頭を見つめながら、柔らかそうな髪だなあとか思ったりして、恋を自覚する。
傍にいてくれというあの願望は、風邪だから出た言葉ではなかった。
直江は伊達への想いに気付いた。しかしだからといって何があるわけではなく、むしろ比較的堅実な人生を歩んできたこともあって、自分の伊達に対する感情の正体に気づいただけで納得して済ましてしまう。直江自身別に同性愛に偏見があるわけではないけれど、伊達を困らせることがあってはいけないと思ったことと、それが何なのか正体がわからず気になっていた事柄が判明してすっきりしてしまったことが理由には挙げられる。
一方それ以降、伊達はじっと手のひらを見つめることが多くなる。ときおり、突然孫市や慶次の手を、
「寄こせ。」
と言って取って、ぎゅって握りしめ、なぜか不満そうに首を傾げたりするようになる。
「そりゃ、いったい、なんの意味があるんだい?学校ででも流行ってんのかい?」
孫市も慶次も首を傾げつつ理由を尋ねると、伊達は言葉を濁して答えようとはしない。まさか握りしめた直江の手は温かくてすごい安心したから、他の人でもそうなのかなと試して、そうではなかったから不思議がってました、なんて伊達には言えるはずもない。
しかし、伊達の奇行に、異様に敏い三成や左近が気づく。
このころになると学年も一つあがって、三成は近くの超絶有名私立大学、真田は地元ではあるけれど少し距離がある堅実有名国立大学あたりに進学している。
大学生活をエンジョイしているものの友人が新しくできたわけでもない三成は、講義の関係で以前以上にたまり場に来るようになり、常連の左近と以前以上に親交を深めていたらしく、左近と示し合わせて伊達にちょっかいを出す。
「文化祭、頃、からですかね。伊達さんがこういうことをしだしたのは。」
伊達との会話で、内容を直江関連に持って行き、
「最近よくいろんな人と手をつないだりしてますけど、何かあったんですか?その日、直江さんと。」
と探りを入れる。伊達が思わずぎくりとすると、
(やっぱり直江さんと何かあったのか!)
と、得心を得た左近と三成が内心にやりとして、その様子に、伊達も二人におもしろがられてることに気づく。
伊達が警戒してまるで猫みたいに毛を逆立ててると、そこに、真田と直江が登場する。真田は大学で部活もしてるから久しぶりのたまり場登場なのだけれど、たまたま、直江と会ったから一緒に来た。
「…何かあったのか?」
と、伊達と左近三成の様子に、直江が不思議に思って尋ねると、
「なんでもない!」
と、伊達に即座に否定される。しかし、そこに、慶次と孫市が無自覚の爆弾投下する。
「なんか最近手を握りたがるんだよ、こいつ。でさあ、その話が…。」
伊達はまだ直江への感情に自覚があるわけでもないし、直江も自分の恋心を自覚した時点で満足してしまっているので、
「だから何?」
という話題ではある。しかしそれでもそれなりに、伊達は伊達で直江が契機でそんなことをしているわけなので、恥ずかしさに照れてわあわあ台詞を遮る。なんで遮られたのかわからず慶次や孫市が首を傾げるものの、それでその話題が終わった。
初掲載 2007年前期