いつもここから 第二話


 「なんなんじゃあやつらは!愛だの義だの正義だの!馬鹿か!」
 憤りも露わに叫びながら進む政宗の銃には血がついている。「それが噂の貴君の愛で改心した恋人か!」という馬超の台詞を耳にした政宗が、肯定しようとした兼続をぶちのめした際に付着した血である。刀ではないので、政宗の気が晴れれば、と関平は止めなかった。
 関平は、血だらけで倒れ伏した兼続を思い出し、次に「正義は…。…愛とは獰猛なものなのだな。貴君も頑張れよ。」という馬超の慰めを思い出し、最後に青筋を浮かべている政宗を見やった。
 「なんというか…政宗は案外、普通の人なのか。」
 関平の言葉に、政宗は振り返った。
 「なにがじゃ!」
 「いや。なんというか。そう思ったまでで。」
 「あの電波に比べたら誰もが普通であろう!」
 ぎりぎりと歯軋りをして、政宗は唸った。
 「…馬鹿めが!」
 その声が震えていて今にも泣き出しそうな事実に、関平は気付いていたが黙っていた。
 政宗が日ノ本の人間を基調として作られた反乱軍に無理矢理組み込まれてから、二ヶ月が過ぎた。その二ヶ月の間に日ノ本軍が遠呂智を倒したりもしたが、それは置いておいて。
 それから。
 寝る場所も食事場所も何もかもが、政宗は兼続と一緒なのである。
 それには理由がある。みなは、遠呂智との決着後「闘争…。」と呟いたきりふらりと姿を消した謙信が、一応兼続のストッパー役になっていた事実を思い知らされた。思い知らされたが相手をするのは面倒臭いので、兼続を誰かに押し付けることに決めた。その人間が、政宗だった。
 辛うじて人のいい関平や小喬は、それでも政宗を助けてくれるのだが。
 「正直…しんどい。」
 せめて寝室くらいは別々にして欲しかった。ていうか、なんで呉相手の戦に負けたのに、ここにいるのだろう。なぜ、あの戦に兼続は出ていやがったのだろう。
 政宗は鼻を啜った。本気で泣きそうだった。


 「それで、どうにかならないかだって?」
 「はい。見ていて…こういってはなんですけど。外見が幼いこともあってか、本当不憫でならないんです。」
 「まあ、俺もそう思わなくもないけどさ。」
 だからといって兼続の相手をする気になれない凌統は頭を掻き、とりあえず提案した。
 「黄忠のじいさんとか、錦馬超とか、」
 「両方ともむしろ直江殿と意気投合してしまって、政宗が疲れただけで終りました。」
 「同じ戦国組で武田の」
 「むしろ状況を面白がって、信長殿と賭けてます。」
 「阿く」
 「うちもあんな恋してみたいわあ。両方ともうち好みで格好ええ人とかあいらし人やんに。えろうもったいないことしたわあ。と残念がってます。」
 意外に似ていた阿国の物真似に感心しつつ、それでもあの二人に巻き込まれたくない凌統は、まだまだ提案してみた。


 「…じゃあせめてさ。」


 「ということで、どうだ?」
 日当たりのいい部屋は少々小さいながらも、居心地のよさそうな空間をかもし出している。
 凌統の提案したのは、「せめて部屋だけでも別にしてやったらいいんじゃない?」という当たり障りのないものではあったが、寝ても覚めても兼続と一緒にいてうんざりしていた政宗にとっては、伊達の天下よりも嬉しい提案だった。
 「…っ!でかしたぞ関平!やるではないか!凌統貴様もだ、ただのタレ目ではなかったのだな!」
 「まあね。その、タレ目ってのは一言余裕だけど。」
 喜びも露わに室内を点検する政宗に、関平がほっと息を吐いた。
 「喜んでもらえて良かった。」
 「馬鹿め!今までで最高の贈りものじゃ!」
 まさか部屋が別々にされた事実を知った兼続が、信長と信玄の入れ知恵で夜這いという更に変な方向に思いを馳せて実行するなどと。
 まだそのときの大はしゃぎな政宗は、知らなかった。










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初掲載 2007年4月8日