政宗は決して眠りが深い方ではない。どちらかといえば浅い方である。だが久しぶりの安眠はかつてないほどの快眠をもたらした。
ぐっすり眠りをむさぼりすっきりした頭で目覚めた政宗は、目覚めて早々固まった。
なぜ、隣で兼続が眠っているのか。隣…いや、隣というよりその腕の中に自分はすっぽり納まっている。もがいてみるが、憎らしいことに政宗より太く重い腕は、外れそうにない。
(わしは抱き枕ではないわ!というかここはどこじゃ。)
慌てて見回した部屋は、昨日、政宗が与えられたばかりの新しい部屋だった。ではなぜ、こいつはここにいる。
起こすべきか、触らぬ神にたたりなしの精神に則って放置しておくか。
政宗は目頭を押さえた。考えるまでもない選択だ。ここに寝られては邪魔だし、何より部屋を移った意味がない。正直、泣きたい。
政宗は大きく息を吸い込んだ。
「起きろ馬鹿めがあああああああああああああ!!!」
「まったく散々な目にあった。あの起こし方は不義だぞ!」
「馬鹿め!それはわしの台詞じゃ!大体不義も何も勝手に人様の寝室に忍び込んだ貴様の方が不義であろう!」
きゃんきゃん喚きながら朝議に登場した政宗の台詞に何があったのか悟った関平は、正直、反応に困った。日ノ本には男色が普通に存在していると耳にしていたし、最初から勘違いした兼続の扱いに政宗が困っている諸事情も理解してはいたが。こう、どこか居た堪れない話を早朝からされては、反応に困るというものである。
しかし関平の隣にいた信長は一切気にした様子もなく、兼続に言った。
「ふ。失敗した、か。」
「うむ!」
「おことも手際が悪いのう。あれだけわしたちが教えたじゃろう?なあ、信長公。」
「ふ。是非もなし。」
一瞬、会議室が静まり返った。
「って、貴様らが余計な入れ知恵したのか馬鹿めが!」
キレのいい突っ込みを入れた政宗に、ただひたすら関平が感心している間に、信玄が信長にこそりと耳打ちした。
「怒られちゃったの。」
「ふ。是非もなし。」
「まあまた次回があるじ」
「って聞こえておるわ馬鹿めええええええ!」
政宗が大きく振りかぶる。
絶叫とともに殴られたのはなぜか兼続だったが、兼続以外誰一人として、それに異議を唱えなかった。
「信長はんと信玄はん、面白そなことして。今度はうちも混ぜて欲しいわあ。」
「…。」
政宗はぜえぜえ肩で息ついて、阿国の呟きに気付いた様子はない。関平は政宗のためにも、その言葉を聞かなかったことにした。
これ以上友人の心労を増やしたくないものである。
初掲載 2007年4月9日
改訂 2008年11月30日