第一印象は正しく最悪なものだった。
副隊長就任前夜思い煩って眠れず、若干寝不足気味で隊長の元へ向かった私に、言うに事欠いて隊長は可愛いね君、と言った。
噂には聞いていたもののそれが真実であるなどとは露も思わなかった私の、隊長格への夢は脆くも数秒で崩れ去ったのだった。
真央霊術院時代から親しくしている乱菊の上司が亡くなったと訃報を受けたのは昨夜のことだった。
十番隊隊長は長らく床に就いていた。私はそれを知っていたから、「とうとう亡くなられたの」と報告しに来た四番隊隊員に返した。
とうとう。いや、やっと、という形容が相応しいようにも思われた。
死神を続けるのに困難な怪我を負い、亡くなるまでに足掛け二年。隊長に相応しい者が居ないための据え置きとはいえ、あまりに長すぎる期間だ。
それは副隊長である乱菊が、隊長としての仕事もこなした期間をも表していた。
翌日。私は派手な格好を控えた隊長とともに、その男の葬儀に訪れた。
乱菊はひっそりと棺の脇に佇んでいた。隣には山本総隊長の姿も見られる。隊長が二人へ挨拶をするというので、副隊長である私も当然のように付いていった。
ふと、場違いなほど若い少年が山本総隊長の横に居ることに気付いた。目を見張るような銀髪の、美しい少年だった。
「日番谷冬獅郎です。」
名乗って頭を下げた少年に、これが噂の天才児なのかと私は思った。
現在真央霊術院に在籍している少年は、護廷十三隊のみならず鬼道衆や隠密機動でも噂されるほどの異例の強さを誇っていた。今年の春に最短記録で卒業した後、すぐさま一番隊の席官入りを果たすという話も既に出ている。
だから山本総隊長が連れているのだろう。私はそう思った。
「七緒ちゃん、あの子覚えておいた方が良いよ。」
棺に花を添える際になって、隊長が言った。
隊長の言葉を怪訝に思い視線の先を見ると、山本総隊長が先ほどの少年に献花を手渡しているところだった。未だ死神ではなく、所属が決定していないためだろうか。花は、遺体の率いた十番隊を象徴する白百合だった。
「先生も面白いこと考えるよね。」
隊長の台詞の意味が全然わからなかった。
私の様子に気付かぬ素振りで隊長が言葉を重ね、笑った。
「楽しみだなあ、あの組み合わせ。」
あれから時は流れ、再び、夏になった。天気はあの日のように曇天で、そんな折に、十番隊新隊長が決まったと、雀部副隊長から報告を受けた。
「未だ内々の決定ではありますが。」
一呼吸置き緊張した面持ちで言葉を続けようとする雀部副隊長を遮り、隊長が言った。
「一番隊の秘蔵っ子?」
「はい。山本総隊長は、そのように、と。」
女に弱く軽薄な言動が目立つが、その実思慮深く、誰よりも真実を見通すことに隊長が長けていると知ったのはもう大分前のことになる。こんな人が隊長だなんて、と、内心軽蔑と憤慨を抱いていた私はそのとき酷く驚いたのだった。
「卒業前から決定してたんでしょ?去年の葬儀にも来てたし。」
「…何もかも見通しですか。」
雀部副隊長困ったように笑みを浮かべ、「隊長承認のために一番隊隊首室へ午後三時頃に来るようにの命です。」、と告げると退室していった。
私は誇らしい気持ちでいっぱいになりながら、その想いをひた隠し、表面上は腹を立てている風に見せ問いかけた。
「京楽隊長。全てお見通しだったのなら、何故言ってくださらないのですか?」
「知らない方が、知ったとき面白いでしょ?……あれ…もしかして……七緒ちゃん怒っちゃった?」
ああ。あんなにも嫌っていたのに、今はこんなに愛おしく思うだなんて。
情けなく眉尻を下げ必死に謝罪してくる隊長の姿に、私は堪えきれずに吹き出した。