段菊が丘に群生しているのが見えた。さやさやと風にそよいで揺れている。
曇天の灰と死覇装の黒で構成された葬儀から出てきたばかりの私の目には、酷くそれが美しい様に映った。
いつもならば流してしまう風景に足を止め、じっと見つめる。
そういえば、段菊は乱菊とも言うことを思い出した。
遺体の部下であった女性は、上司を失いそれでも尚美しかった。
「雛森くん、君幼馴染が居たよね。確か…何と言ったかな?」
ふと思い出したように隊長が書類から顔を上げて言い、私は突然の質問に首を傾げつつも答えた。
「日番谷…冬獅郎、ですけど?」
「そうか。」
隊長は何かを納得したようで、再び書類に視線を戻した。
「シロちゃんがどうかしたんですか?」
「ふふ…まだ、秘密だよ。」
そのうちわかるだろう、と続けられた言葉に謎をかけられている気がした。それでも敬愛する隊長の言葉に私はただ黙って頷く。
それから一週間後。
私は、日番谷くんが十番隊隊長に任命されたことを知った。
十番隊隊長が亡くなったのは夏のことだった。丁度今のように、段菊が美しい時期のことだった。
「藍染、隊長。」
あの日のように曇った空は灰色だった。
「たい、ちょ。」
白い壁に赤が滴っている。私は何を目にしているのだろう。真っ白になっていく頭で思った。
「あ。」
藍染隊長が。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
藍染隊長が刀で貫かれ、壁に貼り付けられていた。
乱菊さんは美しかった。艶やかに光り、その様は天上で輝く星のようだった。
私もいつか乱菊さんのようになりたいと願った。
それでも隊長を失ってなお生き続けるなど、弱い私には出来ないとも思っていた。
事実、私は出来そうにない。
隊長は太陽だった。世界に一つしかない、私の生を照らす存在だった。
隊長が居なければ私の世界はたちまちに熱を失い、凍って砕ける。決して生き続けることなど出来はしない。
震える手を叱咤し掴んだ飛梅を構え、私は日番谷くんに対峙した。
乱菊さんの大切な隊長。私の幼なじみ。
藍染隊長を殺めた者。
私の世界を凍らせ、冬をもたらした張本人。
「…あたしもう…どうしたらいいかわかんないよ…。」
日番谷くんの背中でかたりと氷輪丸が音を立てた。
春はもう戻らない。永遠の冬に営みは続けられない。死ぬしか道は残されていない。
「シロちゃん。」
死への道連れに、私は日番谷くんを選んだ。
日番谷くんなら、私を拒まないで許してくれる気がした。私から藍染隊長を奪ったことが許せなかった。
ただ藍染隊長の言葉を信じた。妄信的に。
もう私にはそれしか残されていなかった。
「ああああああああああああああ!!!」
空はあの日のように灰色で、私の死覇装も黒かった。
私は叫んで、日番谷くんへと刀を振り下ろした。