間奏   ※死にネタ


 「長政さまが死んでしまったのは市のせい…この罪の重さに、息ができない…。」
 床に伏すやつれたお市を見て、濃姫は顔を曇らせる。義妹は己が懐妊していたことを、夫を失くした衝撃のあまり流産するまで知らなかった。夫の子を誰よりも欲する女である濃姫には、さめざめと泣くお市にかける言葉がない。縋るべき夫も、生きる頼みにする子すら無くしたお市は、ぼんやりと部屋から外を眺める。薄暗い和室だ。この部屋には、時折、濃姫を初めとして、蘭丸や勝家が見舞いに来る。信長はお市に失望したのか、訪れる気配も無い。まるで、子供の頃に連れ戻されたかのような気がする。
 どすどすと廊下を歩き、部屋に近づく音がある。お市は焦点の定まらない泣き腫らした目を、その音の方へと向ける。久方ぶりに現れた信長は、お市の澱んだ目を蔑むように一瞥し、告げる。
 「戦だ。市、貴様も連れて行く。」
 「しかし、上総介様…まだ、お市には。」
 お市のことを気遣い、濃姫は口を挟む。しかし。
 「余の言うことが聞けぬのか。」
 最愛の夫にぎろりと睨まれたため、ひどく狼狽して否定する。夫に額づく濃姫をぼんやりと眺めるお市は、為す術もなく、対武田へと参戦させられる。










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初掲載 2009年5月16日