カノンとミロが付き合い始めてから1年が過ぎた。
これほど、有意義に過ごせた1年は初めてだった。カノンは幸せを噛み締めながら、アフロディーテからもらった薔薇を花瓶に活けた。天蠍宮での同棲も順調で、現状事実婚、入籍も間近と言われるカノンとミロである。
実は今日、カノンはミロに思いきってプロポーズする気だった。
双魚宮の薔薇をアテナへの供物と捉えるアフロディーテからうまいこと巻き上げられたのも、そのことを匂わせたからだ。
アフロディーテは年甲斐もなく頬を緩めまくるカノンを一瞥し、それでも、可愛い弟分の幸せが気にかかるのか、微笑を湛えて薔薇を分けてくれたのだった。
思えば、道のりは険しかった。
聖戦から足掛け4年。まさか、ミロを口説き落とすまでに3年もかかるとは思わなかった。決して諦めるつもりはなかったものの、心が挫けかけたことは1度や2度ではない。
情にほだされやすいミロはカノンが本気で迫れば流されてくれるだろう。
そう判断したのは正しかった。問題は、ミロの周囲の牽制が激しすぎたことだ。とりわけ、サガとカミュ、ムウの三巨頭にはどれほど辛酸を舐めさせられたことか。冥界でラダマンティスと共倒れを狙うよりも骨が折れた。
付き合ってからも、数々の困難がカノンを待ち受けていた。
カノンと出来上がると、ムウは敗北を悟ったのか、讒言を止めた。もしかすると殊勝に、水を差すのも悪いと思ったのかもしれない。カノンがこういうのも変な話だが、ミロが幸せなのは火を見るより明らかだった。
しかし、反対に、サガと追及の手はますます激しくなり、カミュもシベリアから引き上げて来て事あるごとに邪魔してくるようになった。
あの二人に、どれだけ恋人たちの憩いのひと時を奪われたことか。
だが、その労苦の日々も今日で終わるのである。入籍してしまえば、新婚生活に突入できる。文句を言われる筋合いもない。めくるめく快楽の日々が今から待ちきれないくらいだった。
カノンは相好を崩して、ミロの帰りを待ちわびた。
このときのカノンは、アフロディーテからカノンの決心を伝え聞いた兄と恋人の親友が嫌なタッグを組み、決意も新たに、理路整然とした作戦でカノンのプロポーズ大作戦を邪魔してくるなど知る由もなかった。
初掲載 2013年2月24日