1:見知らぬ国と人々について
2:おねだり
3:鬼ごっこ 起
4:鬼ごっこ 結
5:十分に幸せ
6:閑話休題
丘の上に立ち、リベアは額に滲んだ汗を拭った。ここからはオウビスカが良く見える。お父さんやレナが築いた国。リベアは口内で小さく呟いた。そして、これからは私が生きる国。
資金はたっぷりとはいえないまでも、元手になる程度はあった。リタリーの店で稼いだ給金、そして、リタリーからもらった餞別だ。リベアはこの資金を元に、小さな小屋でも借りて住もうと思っていた。住いが決まるまでしばらく城にいれば良い。いったん心を許したものにはどこまでも尽くすヨードは、何かとリベアを気にかけてくれたが、リベアはその誘いを丁重に断った。ヨードには悪いが、リベアにはリベアの考えがあったのだ。
だから、リベアは自分で資金を稼ぎ、今度は相談役としてではなく、ただの移住者としてこの土地に戻ってきた。もっとも、ヨードには何かあったら相談に乗ると話してあるし、住いが決まったら連絡するとも言ってある。頼りないなりに必死なヨードのことも、不安がりながらも宰相に信頼を寄せるディネスのことも、リベアは大好きだった。自分の面影を見出すからかもしれない。
甘えてばかりいても、頼られてばかりいても、いけない。それじゃ、あのころの二の舞だ。だって私には私の、彼らには彼らの生きる道があるんだし。うん、と誰にともなく頷き、リベアは呟いた。
「それに、私がいると迷惑かけちゃうしね。」
小さな独り言を拾い上げて、その迷惑の張本人であるリベアの相棒が顔をしかめた。
「何がだよ、相棒?迷惑ぅ〜?誰だ、んなこと言うやつは。相棒の代わりに、オレが殴ってきてやる。」
「そんなことしなくて良いよ、ギグ。」
ギグは何か言いかけたが、その言葉を結局は飲み下すと、不機嫌そうな表情を貼りつけたまま、リベアの持つトランクをひったくった。中身のないトランクは剣より軽かった。
「面倒臭えなあ、んでわざわざこんな暑い中徒歩なんだよ、相棒!空を飛びゃ良いだろ!?暑いったらありゃしねえぜ!大体、なんで、蟻んこの住んでるここなんだ?スパイ野郎の店にいりゃ良かったじゃねえか。」
「リタリーの料理が懐かしい?」
「ばっ、んなことねえよ!」
「大丈夫だよ。レシピ、覚えてきたから。」
リベアはくすぐったそうに笑った。その様子に毒気を抜かれたのか、ギグが呆れたように肩を落とし、溜め息をついた。
旅の間は固い表情でいることが多かったリベアは、この一年で、ひどく明るくなった。まるで、そこらの女みたいだ、とギグは内心思う。ったく、この超抜無敵なギグ様の相棒だってのによー、んな腑抜けた面しやがって。しかし、ギグ自身、その胸中が苦いのか、甘いのかはわからない。
さやさやと風が頬を撫でる中、戦時中と変わらない真っ直ぐな瞳で、リベアは語った。
「私もね、リタリーみたいに、自分の夢を諦めないで追いかけようと思ったんだ。もう、平和だからね。」
ギグは眉をひそめた。そういえば、リベアとは長い間同体だったが、将来の話に関して何か耳にしたことはない。過去の話も、あまり知らない。ギグは遅まきながらに気づいた事実に、機嫌を害した。リベアのことでギグが知っていたのは、共に戦った現在(いま)、だけだった。それでも、忙殺されて駆け抜けてしまうだけのときは、終戦と同時に過ぎ去ったこともわかっていたので、ギグは不満半分興味半分で問いかけた。
「平和〜?……って、そもそも相棒の夢ってなんだよ?」
「お嫁さんになることだよ。」
目を丸くしたギグが言葉も失ったことを確認すると、リベアは再び小さく笑い、丘を下り始めた。慌てて、ギグがトランクを手に追いかけてくる。
「ま、待てよ、相棒!」
動揺しすぎて空を飛ぶことすら忘れたギグを待つため、リベアは少しだけ歩調を遅くして、丘の下を見下ろした。堂々と聳え立つ城を取り囲む壁、その中にすっぽり収められた家々と、それらを中心にして広がるホタポタ畑。
「お父さんやレナが築いた国。」
リベアは、今度は声に出して呟いてみた。うん、この方がなんかしっくりくる。頷き、リベアはゆっくりその言葉を舌先で転がした。
「これからは……私が、生きる国。」
リベアは目を眇めて、再び頷いた。そう、ここが私の生きる場所。それはとても甘い響きだった。
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迷いの森と呼ばれる森が人々を迷わせたのは、すでに昔のこと。今ではイードの術も解け、森はただの薄気味悪い森だ。少なくとも、死臭や鉄臭さを感じる場所ではない。
鼻先を掠めた懐かしい香りに、ギグはわずかに顔をしかめた。相棒の機嫌が悪いと、知ってはいたが…これは、予想以上だ。生理前なのだろうか。ギグは失礼なことを考えた。けれど、同体だったころ、生理中に機嫌が悪くなるのはもっぱらギグで、それに振り回されたのがリベアと周囲だった。
それでも、とギグは、何があったのかおびえて身を隠すデスブロスやドゥラゴスたちに同情しながら、考え続けた。それでも、相棒は、月に一回情緒不安定になる時期があった。つまり、こりゃ、あれか。
ギグが空を飛んで探すまでもなかった。異臭の中心地。ラスキュランが長年眠り、レナが殺されることになった場所に、リベアはいた。ギグは、リベアが剣を手にしている姿を久しぶりに見た。そして、リベアの目を通してではなく、自分の目でその光景を見たのはこれがはじめてだと気づいた。これマジで相棒か、とふといぶかしんだ。血にまみれ、普段は温かみに満ちている瞳に何の感情も映さないリベアは無慈悲な死を思わせた。ヴィジランスの与える情けに満ちた死でもなく、ギグがかつて与えた暴力としての死でもなく、ただ、奪い去るだけの死を。
それまで、ギグはそんなリベアを見たことがなかった。ギグが知っていたのは、小春日和のように暖かい人間としての相棒か、嵐のように根こそぎ払う世界を喰らう者としての相棒だった。けれど、現実はギグの記憶を裏切り、ひどく傷ついた目で破壊を望む女を捉えた。そのことに、ギグはひどく狼狽した。そうだ。どうして今まで気がつかなかったのだろう。ギグは自分の節穴な目をなじった。目の前にいるのは一個の女だった。
「…どうした、相棒。今日はご機嫌斜めじゃねーか。」
搾り出すように、ギグがどうにかそれだけ言うと、ようやく、リベアは視線をギグへと向けた。その目は常のように真っ直ぐだった。真っ直ぐ、滅びに向かっていた。
「なんか気に食わねーことでもあったのか?」
神経を逆撫でしないよう注意深く近づくギグに、リベアは剣についた血を振り払った。
「別に。……ただ、」
「ただ?」
「ただ、本当の敵は自分自身だって、改めて思い知っただけだよ。」
それ以上、ギグは問いかけなかった。問えば、何かとんでもなく厄介な地雷を踏みそうな気がしてならなかった。リベアは薄く笑った。
「ねえ、ギグ。おいでよ。イイコトしよう。」
「イイコト、だ〜?」
「うん。ギグなら、壊れないでくれるよね。女にしてくれた点だけは、ベルビウス様に感謝してるんだ。男だったら、壊しちゃうそう。」
つまり、相棒がこんな状態なのかベルビウスのばばあのせいか。心中、ギグはこんな状況に身を置く羽目になった元凶を呪った。ギグは、リベアが、世界を救う、ただそれだけのために生み出された世界を喰らう者としての立場を恨んでいることを知っていた。相棒にそんな生き方を強いらせた神々の勝手さは、ギグからしても腹が立った。けれど、ギグには不可解なことに、リベアはそんな風に神々を恨む自分をとても恥じていた。全部、自分が悪いのだ、とリベアは言う。んなわけあるか、とギグは思う。そう、ふざけてるのはばばあどもの方だ。その点だけは、癪だが、レナとギグの意見は一致する。
どうして、レナに似なかったのだろう。前世で兄妹だったというが、似ていないにもほどがある。ギグはうなった。普段あっけらかんとしているように見えて、この相棒は内に溜め込む癖がある。それを、同じ体に住んでいたときは吐き出させていたが、「二人」になった今はその息抜きもさせられない。つまり、相棒のこの状況はオレのせいでもあるのか。ギグは、今までホタポタにかまけてばかりでリベアの異変に気づかなかった己に呪いの矛先を変えた。
そんなギグの眉間に寄ったしわがおかしいのか、リベアは手を伸べて、指先で撫ぜた。
「ギグは、嫌?」
「……んなことねぇけど、相棒の不機嫌に振り回されるのはごめんだぜ。どうせ、気まぐれだろ?」
「そんなことないよ。」
リベアは笑った。その目は、淵まで絶望で満たされていた。
「今は、ギグを感じていたいな。独りは寂しいよ。」
自分が世界を喰らう者であることを、かつてのリベアは知らなかった。それでも、自らが人々と同質ではないことを、所詮は異質の存在であることを、どこかで知っていた。どこかはわからない。でも、自分は他人とは違う。どこかが。
その孤独を埋めたのが、ギグだった。埋められたのは、ギグだけだった。なのに、どうして、ギグは離れちゃったんだろう。リベアは首をかしげて、目の前の相棒を見上げた。
「どうしてだろうね。やっと手に入れた平和なのに…壊したくて壊したくてたまらない。ギグと離れたせいかな。」
ギグが息を呑んだ。リベアはねだった。
「何でなんだろう。ねえ、ギグ、答えてよ。教えて?全部あげるから、ギグの全部、私にちょうだい。感じさせて。」
「喰らわせて。」
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「疫病神、お主、相談役に何をしたのである!」
会って早々オウビスカの宰相に非難されたギグは、クッション越しにくヨードを睨みつけてから、視線をそらした。
森での一件から半月が経った。やってしまったものはしょうがない。以前のように相棒と接しようとするギグの努力の甲斐もむなしく、追いかけても追いかけても、リベアに逃げられる。以前のように接するどころではない。そもそも、話をすることすらできない。よう、相棒。この一言すらかけ終わらない内に、リベアに逃げられる。さすがは世界を喰らう者、取り付くしまもない。そういう経緯を経て現在、ギグは、あまりにも家に居づらいので城へ避難している。
ふてくされているギグは、力いっぱいクッションを抱え込んだ。
「うるせぇよ、蟻んこが。されたのはオレ様の方だっつーの。」
そうだ、喰われたのはオレ様の方じゃねえか。ギグは不機嫌に顔をしかめた。確かに、誘われるまま相棒に手を出したのは悪かった。でも、据え膳喰わぬは男の恥っつーだろ?!大体、やっぱありゃ相棒がごっそり持ち逃げしてったじゃねえかよ!
ヨードには、ギグがなにをぶつぶつ呟いているのか聞こえなかった。けれど、最初こそ抱きしめられていたものの、やがて引き伸ばされ、最後には羽毛を宙に舞わせる代物に成り果てたクッションから、ギグの消沈が怒りへ移行した様を見て取り、ヨードは踵を返して逃げようとした。ギグはそんなヨードの首根っこを引っつかみ、ぐっとこぶしを握り締め、立ち上がった。
「そうだ、このままじゃ男が廃る!そうと決まれば、金稼ぎだ、金稼ぎ!蟻んこ、てめーを使ってやらあ!感謝すんだな!!」
「ぬおおおお、何かよくはわからぬが、後生だから止めるのである〜!」
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「あー、面倒臭えなぁ!だから、オレが相棒を幸せにしてやるっつってんだよ!オレ以外に、相棒は何がいるんだよ?それで十分だろ?!だから、相棒をオレにくれよ。」
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「あいつの結婚式を挙げるのは、わたしだと決めていたのに、よくも予定より早くあげやがったものですね。外に出たお前。一生恨んでやります。」
あまりの悔しさに、この日のためにリタリーが工夫を凝らして作り上げたホタポタ料理すら喉を通らないありさまのわたしに対して、外に出たお前はくつくつ笑いました。
「そりゃ良い。じゃあ、一生恨んでろ。てめえが覚えてられるんならなぁ?」
「うるさいです!もう封印は解けました!馬鹿にするのも大概にするのです、外に出たお前!」
わたしの反論も聞く耳持たず、外に出たお前は投げやりに手を振り、それで話は終わりだと告げました。その様子はあまりにも大人びていたので、わたしは思わず文句を飲み干しました。なんだか、食ってかかったわたしが馬鹿みたいに思えたのです。
この日のお前はとても綺麗でした。誰が知らずとも幼馴染であるわたしは知っているのですが、大きなおしりから視線をそらさせることが目的である大きく開いた胸元は、今日も健在でした。別に、安産型なだけなのだし、大きすぎるわけでもないのだから、気にすることもないと思うのです。でも、お前はそんなところを気にしていました。だからって、胸元をはだければ良いってわけでもないと思うんですけど、こればっかりは言っても無駄でした。でも、最近は、誰のためかは知りませんけど、ちょっと控えたようだと噂に聞いています。良いことです。
お前は白い花嫁装束に良くあう愛らしい白い貝殻のイヤリングを耳に、白いホタポタの花を髪につけていました。外に出たお前から贈られたとお前があまりにも嬉しそうに告げるので、わたしはその言葉を否定することすらできませんでした。外に出たお前が?まさか!でも、考えてみれば、外に出たはお前にだけは優しかったのです。それに、ホタポタ狂でした。
まあ、そんなわけで、ちょっと胸元が開きすぎているような気がするのを流せば、全体的によくまとまっている花嫁姿でした。オウビスカの女王が細心の注意を払って贈った衣装なのですから、それも当然なのでしょうけど、わたしはお前が綺麗なのを見て、心のそこから嬉しくなったのです。
わたしはお前の夢がお嫁さんで、お前の理想がネイであることを知っていました。それでも、その夢を手伝うことはできませんでした。だって、お前にはなさねばならない義務があったのです。それを押し付けたのはわたしたちの傲慢かもしれませんけど、お前にしかできなかったのです。無意識のわたしを含め里のものは全員、そのことを知っていました。
だから、お前が花嫁衣裳で幸せそうな姿を見て、本当に、胸が詰まりました。
ふいに黙り込んだわたしの様子を怪訝に思ったのか、外に出たお前が眉をひそめてから、わたしが凝視している先へと眼を向けました。そして、それがお前であることを知ると、苦虫を噛み潰したような顔で言い訳しました。
「本当はこんな面倒臭ぇことしたくなかったんだけどよ。相棒の夢が夢だろ?じゃ、相棒のオレ様としちゃ、やるしかねえじゃねえかよ。」
その後の外に出たの文句はもごもごと口内で溶けて消えました。どうも、わたしの笑みにノックアウトされたようです。どんなにごまかそうとしても、わたしは知っているのです。外に出たお前は、お前にだけは優しくて、甘くて、だからきっと、あいつを幸せにしてくれるのであろうことを。
今にも泣きそうなことを察したのか、外に出たお前がやや及び腰になったので、わたしは得意げに教えてやりました。
「ふふん、わたしはとっくに気づいていました。外に出たお前は、あいつにだけは優しいのです。」
「うるせぇよ、馬鹿1号。」
「ば、馬鹿馬鹿いうなです。いらつきます。わたしが馬鹿1号なら、お前は元祖馬鹿です!」
断言してやると、外に出たお前は哀れみの眼でわたしを一瞥しました。
「…自分で馬鹿だってことを認めてんのかよ。」
「う、うるさいです!」
また、そんな顔をするのです。わたしは文句を飲み込んで、再びお前へ視線を固定させている外に出たお前を睨みつけました。幸せなら幸せで良いじゃないですか。そうです。わたしだって、諸手を挙げて応援して、やります。でも、なら、なんでこんなに胸が痛むのでしょう。無性に泣きたくなるのでしょう。
わたしは知っていたのです。本当は、知っていました。知らない、なんて、嘘です。知りたくなかっただけです。わかりたくなかっただけです。
お前に無理を押し付けたわたしたちは、本来であれば、お前のこの幸せを祝ってやれる立場ではありませんでした。お前の幸せを祝福してやれるのは、お前と同じく何も知らないで利用され続け、苦難の道を一緒に歩いた外に出たお前だけでした。でも、そんなの、幼馴染のわたしは悔しいではありませんか。お前がわたしたち里のものを愛していて、同時に憎んでいて、そんな己の心を悲しんでいて、たとえようもなくやりきれない思いでいることはわかります。そんなのわたしたちだって同じなのです、と言える立場ではないかもしれませんけど。でも、わたしたちに何ができたというのです。お前に、希望を託す以外に。わたしはお前とともに旅を続けました。それでも、わたしが追いかけたのはお前の背だけでした。わたしの前にはお前の背があり、わたしはそれを必死で追い求めたのです。決して、辿りつけないと無意識のうちに知りながらも、隣にあろうと、隣にありたいと、必死で。あがいて、もがいて、それでも、わたしの指先は空を切りました。
泣きたくなりながらも、わたしは、手を伸ばし続けたのに――。
わたしはまぶたを伏せて、こぶしを握り締めました。
ベルビウス様の姿はありません。メイリーンやガデウスやネイの姿も。わたしだけです。手紙のやり取りをしていたわたしだけが、この場所に、いるのです。わたしは小さく唇を噛みました。
「あいつに、たまには里に帰ってくるよう伝えるのです。ベルビウス様がさびしがっていると。」
女王に盛んに話しかけられているお前が、外に出たお前の視線に気づいたのか、軽く手を振りました。外に出たお前はお前に手を振り返しながら、わたしの方を見もせずに答えました。
「…相棒が、行くっつったらな。」
そのときにはすでに、わたしも外に出たお前も知っていたのです。お前の心はすでにこの地にあり、里ははるか遠くに位置してしまったことを。お前の中で、里は、決して美しくはない思い出として眠ることでしょう。そして、それがお前にとって一番良いことでしょう。わたしも外に出たお前もそれを知っていました。だから、これはわたしの勝手です。
お前が幸せになったことを祝ってやりたいのに、お前の幸せを恨みたくてたまりません。お前の幸せが、わたしのそばに、里の中にないからです。昔から手の届かなかったお前は、もう、決して届かないかなたへと行ってしまいました。お前とともに歩めるのは、わたしではなく、外に出たお前でした。
「幸せになりなさい。幸せにしなさい。絶対です。失敗したら、その首根っこへし折ってやります。」
わたしが言うと、外に出たお前は鷹揚に頷きました。
「絶対絶対、…絶対です。」
お前は誰よりも幸せになりなさい。だって、こんなの、お前の幸せを祝ってやれないなんて、あまりにも寂しいじゃありませんか。
「…馬鹿は難しいこと考えんな。てめぇは一生馬鹿のままでいろ。」
「ば、馬鹿馬鹿言うなです!……ひぐっ。」
涙がこぼれました。外に出たお前がしかめ面でわたしの髪を掻き混ぜました。
わたしは、お前とベルビウス様がいれば他に何もいりませんでした。でも、お前は違いました。お前にはわたししかいないと、わたしは勝手にも、かたく信じていたのに。
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ファンクスの代わりに飼われることとなった、犬並みの嗅覚を持つレビン。
「オレ様に、相棒に、フィーヌにこいつ…。そのうち、ヌトラの野郎も来やがりそうだな。」
「それは……、さすがに遠慮するかな。」
「……俺も。」
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初掲載 2008年11月ごろ
正式掲載 2009年2月14日