1:究極の二者択一(ヨードED)
2:ひよこ鑑定士あらわる(ギグ×女主人公)
3:ギグ・リターンズ1(ギグED)
4:ギグ・リターンズ2(ギグED)
「会ったのはさっきのが初めてだけど……死を統べる神は毎日のように来るのね。知らなかったわ。」
イードも疲れるわけだわ、と、いつもふらふらしていて頼りがいのない宰相に同情を向けながら、ディネスは後ろのリベアを振り仰いだ。
「きっと死を統べる神は、相談役に会いに来てるのね。」
「……そうかな?」
「そうよ。だってさっきも相談役に、相棒はイードの味方するのかよ!なんて言って、いじけてたじゃない。それに、」
慌てて口をつぐんだディネスに、リベアは首をかしげた。
「それに?」
「な、何でもないわ!」
(それに、あれは相棒としてではなくって異性としての好きだと思うのなんて言ったら……、相談役に出て行かれちゃったら……。イードだけになっちゃったら、この国、どうなるの?い、言えるわけないっ!)
ディネスは話を逸らすべく、リベアが手に持っているホタポタの箱に話題を向けた。
「そ、そういえば、相談役。それはどうしたの?イードに頼まれたの?さっきも、箱が足りないっておろおろしてたし。」
「?ああ……ううん、これは違うよ。ギグにあげようと思って。どうせ今頃、拗ねてるだろうし。」
「……………………そう、なの。」
「?うん。」
墓穴を掘ったディネスは、相談役を結婚退職させるのと毎日のように死を統べる神に商品持って行かれるのとどっちがマシなのかしら、と混乱する頭でそろばんを弾いた。
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「おっ?おおっ?おおおっ!?」
起きて早々目を丸くして叫んだギグに、リベアは重い瞼をこすった。
「うるさいなあ、ギグ……。昨日は遅かったんだから、もうちょっと寝かせてよ……。」
しかし、その夜更かしの原因であるギグは一切聴く耳持たない様子で、リベアの肩を揺さぶった。
「あああ、相棒っ?!そっ、そりゃ何だっ?!」
「?何が?」
「だ、だから……!っ!ま、まさかフィーヌのヤツ、オレに惚れてて……それで、オレ様と幸せに暮らしている相棒を呪ってるんじゃ……。」
一人ぶつぶつ言い始めたギグに、一方的に振り回され放り出されたリベアの、寝不足でもともと切れやすくなっていた堪忍袋の緒が切れた。
リベアは目を据わらせ、低い声で尋ねた。
「……だから、何が?」
そこで、リベアははたと気づいて、ギグの熱視線の先を追った。
「……?これ。」
そこで、再びリベアははたと気づく。
「そういえば、この半年きてないよ、ギグ。これって、呪いとかじゃなくって、単なる妊娠じゃないの?」
「って、気づくの遅ぇよ相棒!つわりとかなかったのかよ!魂宿るまで気づかなかったのかよ?!」
「……ギグには言われたくないよ。何、フィーヌの呪いって?」
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ギグは超抜無敵な男である。なんてったって、死を統べる者なのだ。神様なのだ。その上、世界を喰らう者な相棒までいるのだ。正直、相棒のことは相棒ではなく、こ・い・び・と、と言いたいところだが、体を共有しているときに恋人でいられるはずもなかったので、恋人未満の関係である。
なにせ、そういうわけで、超抜無敵でない理由が見当たらないギグなのだが……。
「まさか、この超抜無敵なオレ様が……あの蟻んこヨードと同じ扱いを受けるたあな……やってくれるぜ、相棒……。」
たそがれながらも、お供え物であるホタポタを頬張るギグに、リベアが苦笑交じりに言った。
「私は信じてたよ。」
「つったって……、じゃあ、なんで墓があるんだよ?!これ、明らかにオレ様の墓じゃねえか!ギグって書いてあるし!ホタポタが備えてあるし!んだよこの花!」
「やったのはダネットだよ。あれから、落ち込んで大変だったんだから。毎日お供え物してくれて……愛されてるね、ギグ。」
「……相棒はしなかったのかよ、愛がねえんじゃねーの?」
墓を建てられれば墓を建てられたで怒り、お供え物をしなければしないで拗ねるギグに、リベアは首をかしげた。
「だって、信じてたから。ギグは戻ってくるって。」
「相棒……!」
その言葉に、ギグは思わず感極まって、リベアをきつく抱き締めた。腕の中で、苦しいよ、と小さく笑い声がした。
「おかえり、ギグ。」
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「へ?何ですか外に出たお前、この手は。」
「何って、幻のホタポタ寄こせっつーんだよ。ちゃんと約束どおり帰ってきただろーが。」
祭司の勉強をしていたダネットは、ギグが差し出した手を叩き落した。
「外に出たお前は帰って来るのが遅すぎです。どれだけお前が哀しんだと思っているのですか。しかも、嘘までついて……そんな嘘つきにくれてやるような幻のホタポタはありません!勿体ないから、ぜ〜んぶわたしが食べてしまいましたっ!」
「はあ?!ざけてんじゃねえぞセプーメス!」
血相を変えたギグを無視して、ダネットは続けた。
「でも、外に出たお前がそこまでホタポタに執着するならば仕方ありません。これは本当は極秘情報なのですが……外に出たお前は知っていますか?黄金のホタポタ伝説を!」
「おっ、黄金のホタポタ伝説だ〜?なんだよ、その、いかにも眉唾モノな伝説は……。」
リベアが口を挿んだ。
「本当は、ギグのためにダネットが取りに行こうとして調べてたんだよ。」
「お、お前!ばらすんじゃありませんっ!!」
「ギグの墓に備えるためだけど。」
「……その、最後の一言が余計っつーか、引っ掛かるっつーか……。まあいい。で?その伝説がどうかしたのかよ?」
ギグに催促されて、しぶしぶ、ダネットは秘密を口外することにした。きっと、ギグは黄金のホタポタ伝説を追い求めて、里を出るに違いない。これでギグが里から出て行ってくれれば勉強が再開できる、などとダネットは思った。
ダネットとしては、ギグに永遠に会えないのは嫌だが、ずっと一緒にいられても迷惑だった。なにせ、ダネットも彼女の幼なじみのリベアも、一応、年頃の乙女なのだ。ギグはまがりなりにも神様ではあるが、見た目も年齢層も明らかに年頃の男。そんなものと一緒にいて噂でも立とうものなら、嫁の貰い手がない……かもしれない。だから、黄金のホタポタを求めて旅している最中、たまに、帰って来て顔を見せるくらいで丁度いい。
「実は、リタリーから仕入れてきた伝説なのですが……。」
まさか、ギグが幼なじみまで連れ去っていってしまうなど、このときのダネットは知る由もなかった。
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初掲載 2008年9月15日