彼はまるで雷のよう。光り輝き、強く、激しく周りを照らす。
まさに、その手に宿す紋章に相応しい人。
そして、私が愛した美しい蒼。
「あんたが解放軍リーダーなのか?」
私は初め、酷く不遜で嫌な青年だと思った。彼の口調には、私がリーダーであることへの不満が表れていた。
今ならば困惑の表情だったのだと理解できるけれど、その時の私には不満の表情としか取れなかった。大抵の人間が、女である私がリーダーであることに難色を示したこともあって、多少懐疑的になっていたこともあったのかもしれない。
「そうよ。女がリーダーではおかしい?」
「いや…。」
予想に反し、まだ名を知りもしなかった彼は私の質問に違うと答え、そして困ったように、今ではすっかり定着したあの青いバンダナを指先で掻いた。
「では、何が不満なのかしら?」
追求する私の言葉に、彼はしばし黙ってから、こう答えたのだ。
「あんたみたいな美人が、リーダーだなんて予想してなかったんだよ。」
この言葉に今度は私が絶句した。その「美人」という言葉は、今まで揶揄にこそ使われはしたが、純粋な褒め言葉として使用されたのは初めてだった。もっとも、この後仲間になったビクトールも同じことを言い、その時私は絶句するよりも先に笑ってしまったけれど。
立ち尽くす私に、彼は不審そうな顔をしていた。けれど、唐突に叫ぶと私を脇へ突き飛ばした。ついですぐさま金属がぶつかり合う高い音が響き、私は命を救われたことをようやく悟った。
私を守るようにしてハンフリーが太刀を構え、彼は野放しにされるようにして2,3人の刺客と戦っていた。
「ハンフリー!」
私は守ってもらっておきながら彼を危険な目にあわせていることに耐えられず、ハンフリーの名を呼んだ。
「…大丈夫だ。」
彼はもう囲まれてしまっているのに、どうして大丈夫だなどと言えるの。そう私が叫ぼうとしたとき、閃光が走り、空気が電気を帯びた。
そして大きな爆音が。
「…片付いたようだな。」
ハンフリーの言葉すら聞こえないほど、私は彼に目を奪われていた。砂埃にまみれ、返り血を浴び、けれど存在は清純な彼の後姿。
これが後に青雷のフリックと呼ばれる、彼と私の初めての出会いだった。
フリックは悲しみと復讐に囚われていた私に、多くのことを思い出させてくれた。私が危険に陥ると身を挺して守り、また私が悲しみに泣いているときは肩を抱いてくれた。
気が付けば私は、彼のことを愛していた。
「オデッサさんっ!」
私の脇腹からは止め処無く血が流れ、生還することは難しいと悟ってしまった。その事実を理解し、死期を悟った私の行動は一つしかなかった。
「私の遺体は、見付からないように流してちょうだい。」
私の身体を支える、幼い少年の顔が変わった。正直、幼い少年にこんなことを頼むのは心苦しかった。でも、リーダーである私に他の選択肢は許されていなかった。
「…解放軍の…指揮に、関わるわ。」
血の味のする唇を、精一杯動かして私は頼んだ。死して逝く者から、これからを生きる者へ最後の頼みとして、必死に言葉を紡いだ。
「ねぇ、……お願い。」
残してしまう彼のことが気懸かりだった。彼には、私のように復讐を果たすためだけに生きて欲しくなかった。砂埃にまみれ返り血を浴び、けれど存在は清純な、美しい人。貴方だけには美しいままで居てもらいたいと願う私はずるいのかしら。
「私の…最後の願いを…どうか。コレ、を…。」
冷たくなって巧く動かない指先で、イヤリングを外し彼に渡すと、少年は私を抱きしめ、そして私の託した願いを聞き届けてくれた。少年の瞳から落ちた涙が私の頬を流れた。少年の顔を見上げるようにして精一杯微笑んだ。
「ありが、とう……。私…の、ために…泣いてくれ、る…のね…。」
別れは辛いけれど、だからといって貴方と出会った事を後悔したりしない。貴方を悲しませてしまうことが気懸かりだけど。ごめんなさい。そして、ありがとう。私は欲張りだから、貴方が私のために涙してくれることすら嬉しいの。
愛しい人―――
貴方に会えて、良かった。
初掲載 2004年11月27日
改訂 2007年9月24日