時は封神時代。主の命であったとはいえ殺生を犯した身。仙界に戻ることも出来ず、妲妃は世界を放浪する。やがて遠呂智に出会い、妲妃は妖として生きていくことになる。揺らがぬ遠呂智に、自分にはないものを見出した。
遠呂智が死んだ後、妲妃は日本へ向かう。政宗や慶次はどうしているのだろうか。遠呂智が予言したとおり、本当に、遠呂智や己のことを覚えているのだろうか。時代が違うため、会えたら良いが、会えねば別にそれでも良いと思った。
日本に向かった妲妃は、出会った男と恋に落ちる。男は時の帝であった。やがて妲妃は、男がかつて愛した男の生れ変りであることに気付く。何故出会ってしまったのだろう。何故、また惹かれあってしまったのだろう。妲妃は心中、自身を男の前世に差し向けた元主を呪う。妹たちに助けを乞う。そしてどうにもならない現実に、妲妃は己が変質してしまう前に、男を破滅させて全てを終わらせようとする。男によって傷付けられるくらいならば、男を傷付けて傷付く方がましだった。しかし、妲妃は陰陽師らによって阻まれ失敗する。手傷を負わされた妲妃は、逃げ去るように都を出て行く。
傷付いた妲妃は石に身を寄せ、長いときを過ごす。半死半生の中、夢うつつに謳っては、男の生れ変りとの再会を無自覚に願った。歌声に呼び寄せられた鳥や獣や人が死に、その数が無視できなくなった頃、一人の人間が訪れる。石を撫ぜる優しいその者の掌に、うとうと眠っていた妲妃は目を覚ます。その人間は政宗だった。
「随分久しぶりじゃない、政宗さん。」
はたして政宗は己のことを覚えているのだろうかと思いながら、妲妃は瞼を閉じて、掌の熱を感じる。温かい掌。私はずっとこの温かさを恐れて、逃げて生きてきた。
「そうじゃな。随分久しい再会じゃ。」
「覚えてたんだ。」
「忘れないで。そう言ったのはお主であろう。」
「そうね。」
撫でられていたらうとうとしてきた。政宗が言う。
「…もう寝たらどうじゃ。主を待つ者もいよう。」
優しい声。それも良いかもしれないと妲妃は思った。これだけ待っても来ないんだもの。きっと、先に向こうで待ってるんだわ。
「そうね。そうするわ。」
妲妃は言って瞼を閉じた。最初からそうすれば良かった。己の性は傾国。妲妃は元主を軽んじた男を破滅させるため、そういう風に作られた。幸せを望むならば、この生は終えねばならなかった。温かい光。待ち侘びたあの人。差し伸べられた、懐かしい手。妲妃は花のような笑みを浮かべて、手を差し出す。
「…やっと会えた、ずっと待ってたんだから。」
そういえば、と妲妃は思う。そういえば、政宗らは幸せになれたのかどうか、尋ねるのを忘れていた。まあ、遠呂智様の言う通り幸せなのだろう、きっと。
そして、暗転。
初掲載 2007年8月
改訂 2008年12月7日