じゃじゃ馬ならし   R18


 寝心地が悪い。床の固さに眉根をひそめて、政宗はゆっくり目蓋を開けた。見慣れない部屋だ。数度瞬きする内に頭は次第に明瞭になり、政宗はばっと身を起こした。そうだ。長谷堂で上杉に負けたのだ。
 捕虜にされたのだろうか。跡がつかぬよう布を巻かれた上からきつく縄で後ろ手にまとめられた手首を一瞥し、政宗は周囲を見回した。見慣れない部屋だ。しかし牢の類という訳でもない。何を考えているのだろうと政宗は上杉の参謀を思い浮かべ、思い切り顔を引き攣らせた。あれは理解出来る男ではない。理解したいとも思わない。あれはただの変態だ。
 脳裏に幼少期のことが甦り、政宗はぶんぶん頭を振った。思い出したくない、忘れたい記憶の数々だ。なかったことに出来たならとどれだけ悔やんだことだろう。性交の意味も知らぬまま性交を実施で仕込まれ続け、意味を知らなかったがゆえに自分も兼続と楽しんでしまった。お陰で、そろそろ女に戻り婿を取ってはと提案されても、わしは男じゃと突っ撥ねねばならぬ現状である。
 ふっと、その時ようやく、政宗は己の格好に思い至った。怪我のため身体が重くわからなかったが、鎧が外されているようだ。治療のためか、見れば胸元も広く開いている。常はきつく巻いたさらしが外されているせいで、上着越しに乳房が目立って見えた。これでは、このまま外に飛び出して逃げる訳にも行かない。せめて上着を羽織らねばと、手首を拘束する縄を揺すり少しでも緩めようとしながら脱出することを思っていると、がらりと音を立て戸が開かれた。
 「目が覚めたか。」
 「貴様…!」
 「そういきり立つな。」
 兼続はそう言い、政宗の元へと歩み寄った。政宗は思わず身を竦めた。その目を、かつて見た覚えがあった。まだ何も知らなかった頃だ。あの頃の目だ。
 それは欲情している目だった。
 「逃げるな。逃げ場などないだろう。大体、何故逃げようとする。」
 「煩いっ!出会い頭に欲情しておる変態を前に逃げるなという方がおかしいであろう!」
 兼続が後ずさる政宗の足首を掴んで引き寄せ、政宗は床に背から転んだ。圧し掛かり見下ろしてくる兼続の目は据わっている。
 兼続は溜め息混じりに言った。
 「政宗、お前が不義だから仕方ないだろう。私がどれだけ待ったと思っている。もう三年だ。その上再会したと思えば、私を避けて…。あれは不義だぞ。」
 「っ、わしの恥の歴史を掘り起こすな!あれはなかったことじゃ!貴様のせいでわしがどれだけ煩悶したことか…!」
 「契りを交わしたのに、まだそう言うか…。ではやはり仕方がない。せめて合意の下でしたかったが、」
 やばいと政宗が本能的に身を捩らせると、それを許すまいと兼続が腰を押さつけた。
 「子を孕めばそのような口も叩けまい。」
 その言葉に政宗が目を見開き、本気で暴れて抵抗しだした。
 政宗の趣味は健康管理だ。そもそも幼少期罹った痘瘡が元で始まったそれも、何も知らぬまま兼続と犯したことの意味を知らされて以降は、不安から処女膜や妊娠へ関心が移った。勿論、周囲に悟られるような軽率な真似はしなかった。しかしそれでも、健康管理の一環として侍女の体温を計る中で、政宗は寝起きの体温が上がる日が存在することを知った。そして更に調査を重ね、その日に妊娠する割合が高いこともわかってきた。
 今日、政宗はその日だった。
 「躾のなっていない足だな。」
 溜め息混じりに兼続は言って、蹴りつけて来る足をそれぞれ膝で縫い止めた。股を開く形になった上、後ろ手に縛られた腕が背を反らせ乳房を強調させる。眦に主を走らせる政宗の元々開いた胸元から覗く白い谷間に、兼続がねとりと舌を這わせた。
 「や、止めよ!嫌じゃっ!貴様の義は人の意志を尊重せんのか?!」
 「勿論、尊重している。こうされるのが好きだっただろう?」
 「っ。」
 覚えのある感覚だ。政宗は身を竦め、這い寄る快感を流そうと尽くした。胎に生じた快感が背筋を駆け上り、脳へと至る。思わずふるりと身を震わせた政宗の様子に、機嫌を良くした兼続が笑い、胸元を割り開いた。ぷるんと零れ出た乳房は兼続の掌に納まりきるほど小さい。まだ十五、育ち盛りなのだ。これから大きくなるだろうと期待を寄せて唇を這わせ、性急に下穿きの合間へ手を滑り込ませた。あれから三年、もう三年も経った。これ以上、待てそうにない。
 勝手知ったる肢体だったが、長い歳月を感じさせるには十分なほど発育していた。以前は片鱗もなかった恥毛を指先で撫ぜ指を進めながら、兼続は乳首を柔く噛んだ。びくと政宗が身を震わせる。昔からそうだった。政宗は胸を弄られることに弱かった。幼い頃は、触って欲しいと政宗から兼続にせがんだものだ。変わらぬ事実に気を良くしてそのまま乳首を甘噛みしながら、兼続は掌を秘部へ下ろした。
 「何だ。もう濡れているのではないか。身体は正直なものだな。」
 「ふざけるなっ!」
 意に介さずそのまま掌を這わせ、つぷりと中指を秘部に埋め込んだ。身を沈めるにはまだまだ早いが、湿ったそこは蜜を纏って心地良い温もりを伝えた。兼続は小さく溜め息を吐いた。
 「気持ちが良いのに、何故拒む。昔の政宗は喜んで私を咥え込んだではないか――ここに。」
 言って覚えのある一点を強く擦ると、政宗が甘く身を震わせた。きつく噛まれた唇から洩れ出ぬ声に、兼続は僅かに顔を顰めた。
 「我慢せず声を上げれば良い。無理に押さえつけるなど、不義だぞ。」
 「っさい!ぁ…っん。」
 人差し指を更に差し込み、薬指も増やし、動きを乱して掻き混ぜたが、中々政宗は声を上げようとしない。それに不満は覚えるものの、眦と耳朶を桃色に染め上げ押し寄せる快楽にじっと耐え忍ぶ政宗の姿は扇情的で、かえって兼続を煽るものがある。雄に熱が集まるのを感じ、兼続は政宗の目元に滲んだ涙を舌先で掬った。幼少の頃のように、明け透けに求められるのも男として満足出来たが、これはこれで大変宜しい。
 そのまま頬から首筋へ降り、鎖骨をなぞるように口付けながら、兼続は政宗を煽っていった。歓喜に打ち震え細かにひくつく膣は更に水分を増し、今では内股を滴り落ちた雫が衣類をしとどに濡らしている。強く緩急をつけて擦り上げると、政宗が身体を反らして息を呑んだ。
 「未だ声を出さないつもりか。」
 呆れ交じりに溜め息をこぼし、言葉もなく身を震わせる政宗から指を引き抜く際に、物欲しそうに膣が纏わりついた。未だ若いのだ。あれほど教え込んだ快楽に打ち勝てるはずもない。身体は何処までも正直なものだと、兼続は思わず苦笑した。
 「政宗もこれくらい正直になれば良いものを。お前の、ここは、私をようく覚えているぞ。覚えているか?欲しい欲しいとねだっては、その代わりにと、私に舌を這わせたものだな。濡らさねば挿らぬからと丁寧にしゃぶらせて、それでも結局、お前は私を収め切れなかった。」
 「…っ!」
 涙に潤んだ瞳できっと睨み付けられて、兼続は満面の笑みを浮かべた。羞恥に頬が赤く染まっている。もう双方共に無理だろうと思い、兼続は下穿きから雄を取り出した。怒張したそれは三年前より質量を増し、色も赤黒くなっている。それを目にして思わず身を引く政宗の腰を押さえつけ、兼続は政宗に口付けを落とした。政宗の足を押さえるのを止め、下穿きを勢い良く脱がせて高々と足を抱え上げた。
 「ゃめ、っ。」
 反論を流し兼続がぐっと自身を押し付け、詰まる先端に構わず捻じ込むようにして身を進めると、心地良い熱が身を包んだ。些かきつい気もするが、元々小柄であるし、政宗が不義を犯していなければ三年ぶりなのだ。それも致し方あるまいと、息を吐かずに全て収めきった。
 「成長したものだな…。見ろ、全部収め切ったではないか。」
 深く繋がった場所を見せ付けるよう前のめりになるが、返事はない。身の下で、政宗が肩で喘ぐように大きく息を吐いている。額に浮かんだ汗を拭い顔を覗き込むと、そこには無理矢理挿れられた苦痛だけではなく、快楽も確かに存在していた。結合部を見ぬよう意識的に逸らされた目はとろんと溶けて、はあはあと荒い息を吐く半開きの唇からは紅い舌先が覗いている。
 「快楽に弱いのは、相変わらずか。淫らな身体だな。」
 そうしたのは自分だがと兼続は心中密かに笑って、政宗の顎を掴み仰向かせた。ちらりと見えた犬歯を舐め上げるように舌を差し入れ、思うまま口内を蹂躙する。ぬるりと舌先を絡めれば、大きく開かせた唇からつと涎が零れ落ちた。同時に、きゅうと締まり更に水気を増した胎に、兼続は焦らすためゆっくり腰を引いた。わざと良い点には触れず動けば、鼻先から抜ける息を洩らし、政宗が微かに腰を揺らす。自覚は無いのだろうが、身体は何処までも快に貪欲だ。
 そのままじらし続け乞わせるのも一興だったが、兼続自身が持ちそうにない。兼続は腰を打ちつけ始めた。濡れたいやらしい音が室内に響き渡り、否応なしに耳に入るそれに政宗は羞恥に身悶えた。しかし、羞恥を感じれば感じるほど身体は快楽を覚え、それを認めまいと再び唇を噛んで声を殺すほど、政宗は情欲に犯されていった。火照りきった身体は熱く、施される愛撫に蕩けそうだ。
 政宗の目から大粒の涙が零れ落ちた。じんと子宮が熱を孕み、疼いて辛い。
 「んぁ、」
 一度口を開けば、急き切ったように喘ぎ声が洩れ出た。もう、無理だった。政宗は嬌声を上げながら、兼続のもたらす衝撃に合わせて身をくねらせた。
 兼続が笑った。
 「…くっ、行くぞ。」
 「っ、ぁだ、め。」
 中に出されては、妊娠してしまう。意識の端に引っ掛かっていたなけなしの理性で告げた抵抗を、兼続は気にせず中に吐き出した。
 胎内に熱い奔流を感じて、一瞬、政宗の意識が遠ざかり真っ白になった。


 ――やって、しまった。
 快楽の熱が引き僅かに正気に返った政宗は、己のしたことに思わず悔し涙を零した。あれほど嫌う男に腰を振り、よがりついて求めてしまった。その上中出しまでされて、これで妊娠でもしようものなら部下たちに合わせる顔がない。
 しゃくりあげて泣き続ける政宗の汗で張り付いた前髪を掻き揚げ、兼続が額に口付けを落とした。
 「何も泣く必要はない。全て愛だ。」
 言う間にも掌が腰をまさぐっている。未だ埋め込まれたままの兼続の雄が、ぐっと硬さを増したのがわかり、政宗は僅かに身を捩った。一度ではもしかしたら受胎しないで済むかもしれないが、数が増えればそれだけ妊娠の危険性は増す。性交云々以前に、早く、逃げねば。
 それでも、久しぶりの情欲に弛緩した身体は重く、政宗の命に従おうとしない。
 兼続は微かに眉根を寄せて、まさぐっていた政宗の腰を見やった。
 「末広がりの八だけ、子供は欲しかったが…。こんな折れそうに細い腰では無理かもしれんな。壊れてしまう…もう少し太らねば。」
 言いながら骨盤を掌でなぞり、兼続は大きく溜め息をこぼすと、政宗を抱き寄せ引き起こした。相対する形で胡坐を掻いた上に乗せられ、先以上に結合が深まり、政宗が苦しさに喘ぐのも構わず、尻を両手で抱え兼続は再び揺動を始めた。中に残る精液と重力の関係で、滑りが良く律動も早い。一度絶頂に達していたせいで敏感になった身体は弱く、すぐさま火がつき快に流された。
 「…政宗、期待しているぞ!」
 本気で勘弁して欲しい、と好き勝手蹂躙されながら、政宗は時折飛ぶ意識の合間に思った。











初掲載 2007年10月29日