ストロベリーキス   現代パラレル


 例えばケーキ、ジャム、消しゴム、歯磨き粉、色。あらゆる分野で苺は活躍している、と三成は思う。
 三成は苺が好きだ。甘味が好きで、その中でも一等苺味のものが好きなのだ。毎日忘れず取っている3時のティータイムで、ケーキならば必ず苺のタルトかショートケーキ、ティーには苺ジャム。苺パフェ、苺大福、コンデンスミルクたっぷりの苺、苺シュー、苺ソーダ。
 そうは見えないと若干引かれるが、使用している消しゴムは香り消しゴムで、苺の甘ったるい香りをさせている。そして当然のように、シャープペンシルのてっぺんには苺。勉強の際に長ったらしい前髪を留めるピンも苺付。
 流石に、苺柄の可愛らしいスカートは身に着けなかったが、白いレースの付いたブラウスと共に恋人に宛ててプレゼントした。政宗は若干引いていた。それもそのはず、政宗は男だ。
 しかし、三成は気にしなかった。現に、三成とねねのおねだりに諦めたのか、それも余興だと思ってくれたのか、目の前の政宗はそれを着用している。冬入りに合わせて贈ったストロベリーのコートは少し鮮やかすぎたが、童顔の政宗には良く似合った。第一、今日はクリスマスなのだ。多少派手なくらいが意気を好む政宗の趣味だろう。埋没することを、恋人は何よりも嫌っている。
 低身長が気に喰わないのか、シークレットブーツと見紛うようなブーツのヒールを鳴らし、政宗がさっさと歩きだした。手にはデパ地下の有名ケーキ。これから帰宅して、パーティーなのだ。常に金に困っているような東京での一人暮らしの大学生。折角のバイト代をケーキ代に、と政宗は呆れていたが、年に一度のクリスマスケーキ。三成にとっては望むところだ。
 追いかけて横に並ぶと、息巻いた政宗が何やら小声で吐き捨てていた。
 「何故折角のクリスマス・イヴを家族やら友人と過ごさねばならんのじゃ。普通、そこは、恋人と二人で過ごすであろう!」
 「何だ。怒っていると思ったら、二人きりで過ごしたかったのか?それは悪かったな。」
 「うるさい、馬鹿め!今更謝られたところでどうにもなるまい。」
 冬の外気に鼻先から耳にかけて赤く染まっている。それは悪かった、と再び謝罪して、三成は思った。
 例えばケーキ、ジャム、消しゴム、歯磨き粉。あらゆる分野に苺関連のものがある。しかし、苺な人間というものはいない。これまでの20年、三成はそれが不満だった。苺色のグロスはある。マニキュアもある。ヘアカラーも、口臭剤もある。それなのに何故、苺のような人はいないのだろう。
 そう思っていた。
 「慶次、幸村やおねね様、ァ千代に左近は百歩譲ってやるとしよう。しかしあの兼続の馬鹿まで来るそうではないか!」
 怒りに蜂蜜の瞳が普段より輝きを増し、コンデンスミルクの肌上に赤が走った。ストロベリーだ。怒った政宗を見るたび、あるいは二人きりのときでも良い。三成は政宗を美味しそうだと思う。実際そんなことはないとわかっているが、食べたら苺の味がしそうだ。
 「悪かったな。」
 三度謝って、もっと熟れた色にするべく、三成は甘そうな頬に口付けを落とした。











初掲載 2007年12月24日