売り言葉に買い言葉。くだらないことが原因で、政宗とセックスをすることになった。初めて呑んだ酒の影響もあったのかもしれない。だとしたら全ては政宗のせいだ。政宗自身に指を絡め煽り立てながら、兼続はそう思った。
幼なじみの政宗は高校に入ったのだから酒くらい呑めねばなるまい、とよくわからないことを言いながら、共通の知り合いである孫市からもらった酒を手に兼続の部屋を訪れた。現在の法律では飲酒は二十歳になってから許可されることを兼続は主張したが、臆しているのかと政宗に挑発され、簡単にそれに乗ってしまった。
その日の3日前から、旅行好きの兼続の両親は四国に旅行中で不在だった。
そのまましばらくどちらが多く呑めるか、初めての飲酒であるにもかかわらず呑み比べをするなどして実にくだらないことに騒ぎつつ、政宗が持参してきた酒缶をほとんど空けた頃。
高校生になったのだから。酒をあおって、政宗はそう言った。高校生になったのだから女くらい経験しておけよ、兼続。兼続にはさっぱり理由がわからないが、何やら高校生というくくりにこだわっている政宗に呆れ半分、怒り半分で返した。お前にだっていないだろうが、人の心配をする前に自分の心配をしろ。直江の反論に政宗は笑った。わしは別に女などいらぬ。セックスにもさして興味ないしな。嘘を吐け、単に怖いだけだろ。さきほどの意趣返しも込めてそう返せば、政宗は簡単にこれに乗った。恐れてなどいないわ!なぜ恐れねばならん。
ならば。
押し倒した政宗の身体は、ひどく頼りないものだった。
挑発に挑発を重ね、やけになったように、互いに服を脱がせあい、雄を煽りあった。互いに乱暴な手付きではあったが、アルコールで体温の上がった掌は熱く、また他人の手だということもあって、すぐに上りつめてしまった。
手の中でびくびくと数度震え、政宗が精を吐き出す。他人の同性のものであるというのに、意外に嫌悪感はなかった。ただ、噛み殺された声を聴けなかったことが残念だと思った。
兼続は掌の精液をティッシュで拭い、ゴミ箱に放った。
いつの間に放ったのか兼続自身の意識はなかったが、兼続と同じようにして政宗も小さな手に滴る精液を拭っていた。その手が兼続自身を握ったのかと思うと不思議に気分が高揚した。
圧し掛かり跨ると、政宗と目がかち合った。一度いかせたためか、政宗の隻眼は潤んでいた。
「…本当にやるのか?」
肘で上半身を起こし見詰めてくる政宗の声は微妙に上ずっている。政宗が本当に不安を感じたときの癖だ。
手を伸ばし、冬の間に使用していたハンドクリームを手探りで鞄から取り出そうとしていた兼続は、なんとも言えぬ不思議な気持ちで政宗を眺めた。
恐怖と不安を湛えた瞳。同じ男のものとは思えない柔らかい内股。シーツを強く握り締めている指は、力の込めすぎで白い。日に当たることがない色素の薄い脇腹には、ティッシュで拭いきれなかった、どちらのものともしれない精液が付着していた。
政宗の言葉に、何を今更とも思う一方で、引き返すなら今しかないと警鐘も鳴っている。
「怖いのか?」
兼続の問いに政宗が眉根を吊り上げた。いつも通りの反応だ。
「こっ、怖くなどないわ馬鹿め!」
言葉とは裏腹に、触れた政宗の腿からは僅かに震えが伝わってきていた。震えながら言われても説得力のまるでない言葉だが、兼続は政宗の言葉に甘えることにした。
「そうか。」
鞄から取り出したクリームを掌に大量に取り、指先に丁寧に塗りたくる。政宗が数度、慄くように瞬きをした。
「…いくぞ。」
その言葉に身を強張らせた政宗がそれでも小さく頷いたのを確認して、兼続は中指を政宗の後穴に差し入れた。筋が何本も巻きつくような、締め付けるような感覚。兼続は眉をひそめた。緊張のせいもあるかもしれないが、想像以上に入り口はきつかった。はたして、こんな狭い場所に兼続は入れられるのだろうか。
入り口を丹念になぞりどうにか進めた政宗の中は、蕩けそうなほど甘く、熱かった。違和感があるのか、政宗が小さく喘ぐ。殺しきれなかったそれが抱きしめたときの喘ぎ声に聞こえて、兼続の性欲を煽った。兼続はこのまま先に進みたい欲を必死に押さえ、政宗の中をぐるりとなぞった。無理をして傷付くのは兼続ではなく政宗なのだ。今は少しでも、クリームを政宗に馴染ませないといけない。
しばらくして中指がすんなり行き来できるようになったところで、兼続は指を一本増やした。びくりと政宗が震える。さきほどより息も上がっている。とろりと塗りすぎたクリームが、抜き差しを繰り返す指とともに政宗の後穴からあふれ出した。
ある一点を擦ると、初めて、政宗が苦痛以外の感覚に声を洩らした。ひくりと指を内壁に締め付けられ、兼続も政宗が感じていることを悟る。あまり色事に兼続は詳しくなかったが、おそらく、前立腺というものだろう。そこを重点的にいじり煽りながら、どうにか三本まではすんなり差し込めるようになったところで、兼続は指をすべて引き抜いた。もう大丈夫だろう。引き抜かれる感覚に、鼻から抜けるような声で、政宗がなく。指を惜しむように、政宗の中が絡みついた。
互いに興奮で肌が汗ばんでいた。はあはあと肩で息を吐く。
そこではたとある事実に気づき、兼続は政宗から身を離した。
「か、ねつぐ?」
兼続が立ち上がると、不安の滲んだ瞳で政宗が兼続を見上げていた。けれどその目は初めと異なり、不安だけでなくどこか色も混じっていた。
「ちょっと待て。」
散らばっている酒缶や脱ぎ散らかされている服を避けて、兼続は机の引き出しを開けた。
「あった。」
引き出しの一番奥に、コンドームは納められていた。数週間前に慶次から渡されたものだった。何を思って慶次がこれを兼続に渡したのかはわからないが、まさか政宗相手に使うとは思いも寄らなかっただろう。
「…きさまのような朴念仁でも、持ってるのだな。」
「慶次から寄こされたのだ。私のものではない。」
コンドームを手に引き返してきた兼続を見て呆れたような驚いたような政宗の言葉に、兼続は律儀に返答しつつ、政宗の後穴を解していた間何もしていなかったにもかかわらず未だ十分なほど勃ちあがっている自身に、手早くコンドームを被せた。コンドームを開けるのも装着するもの初めてだったが、案外すんなりいった。
兼続はコンドームの上からクリームを塗りたくると、政宗の後穴に先端を宛がった。ぎくりと政宗が緊張に身を強張らせる。
「大丈夫だ。」
根拠はない言葉と共に安堵させるように政宗の髪を梳き、政宗自身を緩やかに愛撫しながら、兼続は身を進めていった。つぷりと音が立った。
十分に慣らしたそこは、先端で一度つまったが、そこを抜けてしまえば後はさほど問題にならなかった。溶けたクリームの成すいやらしい音が、ひたすらに欲情を煽る中、政宗の狭い蕾はどうにか兼続を全て収めきった。指とは比べ物にならない圧倒的な圧迫感に、政宗が大きく喘ぐ。
抱きしめた政宗の身体は兼続の腕にすっぽりと収まった。思いの外、小さく頼りない身体だ。庇護欲と嗜虐心が同時に兼続を襲った。まるで年端もいかぬ幼子を犯しているような、そんな錯覚を覚えた。
「か、ね、つ、ぐ。」
呼吸に合わせて言葉を紡ぎ、すがりついてくる腕は力ないものだ。一瞬だけ、何を自分は同性の幼なじみとこんなことをしてしまっているのだろう、という後悔にも似た疑問が頭をもたげたが、それもすぐ政宗の中の熱さに忘れてしまった。肩で息つく政宗の呼吸が直接振動となり、兼続自身を締め付け煽る。圧し掛かった政宗の滑らかな肌は吸い付くようで、ぴたりと兼続に馴染んだ。
兼続は政宗の呼吸がある程度納まるのを待ってから、動き出した。最初は緩やかに、次第に速く。クリームのものとも兼続の先走りによるものともわからない濡れた音が、荒い息の満ちた部屋に響き、ベッドのスプリングがギシギシと音を立て、それが尚更に興奮を煽った。もう、もたない。
兼続の腕の中で、政宗がすすり泣くような喘ぎを洩らし、身じろぎする。素直によがる政宗の手は、兼続を頼るように背に回されていた。普段からは考えられない、政宗の弱弱しくも可愛らしい姿がそこにはあった。兼続の理性は呆気なく崩れ去った。兼続は本能のままに政宗の身体を揺すった。
兼続の身体の下では、政宗が悲鳴に近い声でないていた。
何やら無性に寒い。
明け方の寒さに目覚めた兼続は思わず顔を顰めた。部屋は恐ろしいありさまになっていた。急くまま脱ぎ散らかした服はしわくちゃにそこら中に放り出されている。放り投げられたコンドームを包んだティッシュがいくつも、ゴミ箱まで届かず、ゴミ箱付近の床に転がっていた。取り換えたばかりだった白いシーツは皺だらけで、その上精液や汗で汚れていた。しかもアルコール臭い。
両親がいなくて良かった、と思うと同時に、両親が帰ってくるまでに事態を収拾できるだろうかと不安ももたげた。呑みすぎたのも確かにあるが、猛烈に、頭が痛い。汚れたシーツはことによると、新しいものを買わないと駄目かもしれない。
隣では政宗が一人毛布に包まり眠っていた。毛布は、意識を失うまで政宗を苛め続けた兼続が、自責の念から、政宗にかけてやったものだった。しかし、一応二人で使用していた気がするのだが。
それでも奪い取られたからといって文句を言う気になれないのは、呵責の心があるからだろう。きっとそうだ。壁際で丸まっている政宗に近寄ると、あどけない寝顔の政宗の額には汗で束になった髪が張り付いていたので、兼続はそれを掻き分けやった。思いの外、その手付きは優しいものだった。
ふとあることに気づき、兼続は少し迷った後、政宗の小さな唇に初めて口付けた。それは単なるキスであるのに、身体を繋げたときよりもよほど兼続の心を煽った。兼続は火照った頬を隠すように俯き、政宗に身を寄せ抱きしめると、毛布を肩まで引き上げた。
良心の呵責から、きっと自分はこんなことをしているのだ。きっと、きっと。きっと。そうに違いない。
まさかそれが何か他の感情によるものだなんて、兼続は思いたくなかった。
下着の合間から差し入れた指を自身に絡め、兼続は瞼を閉じた。瞼の裏側では大粒の涙を浮かべた政宗が断続的に直江の声を呼んでいた。束になった髪が張り付いた首筋。白い肌は柔らかく、とても同じ男のものとは思えなかった。脳裏の政宗の姿に、兼続の息も上がる。煽る手は一層速さを増し、兼続を頂へと導いた。荒い息。よがる政宗。弱弱しく背に回された、頼りない腕。悲鳴のような喘ぎ声。
「っ、」
肩で息つく。掌に吐き出された精液を見やり、兼続は眉根を寄せた。空しさばかりが募る。兼続は精液を丁寧にティッシュで拭い去ると、目に触れぬようゴミ箱の奥に押し込めた。
先日くだらないやりとりの結果、短慮から兼続は政宗を抱いた。売り言葉に買い言葉だった。
政宗を抱かなければ良かった。それは率直な兼続の感想だった。
あれから、気付けば兼続は政宗のことばかり考えている。
ふいに、私室の扉が開けられた。はっと兼続が視線を向けると、そこには政宗が大きな鞄を手に立っていた。いつものことだったが、母が勝手に兼続の部屋に通したらしい。
「…ノックぐらいしろ。」
少し前まで自慰に耽っていたやましさから兼続がたしなめれば、政宗は眉をひそめた。幼少の頃から、政宗は兼続の部屋に入るときノックなどしなかった。それを今更咎めるとはいかがしたことか。政宗の隻眼はそう問うていたが、すぐさま、ことの次第に気づいたように笑った。
「貴様にも、性欲があったか。」
「う、うるさい。」
ばつの悪い顔で答えれば、政宗はくつくつと笑いながら鞄を壁際に置いた。問えば、今日から父が出張でしばらくいないのだという。子煩悩の政宗の父は、今回も直江家に政宗の世話を頼んだようだ。息子が高校に上がったからといって、安心したりはしない。
しかし、兼続の記憶が確かならば、今夜から兼続の両親は再び旅行に出かけるはずなのだが。いや、だからこそ二人でいろということなのだろう。自分は平静でいられるだろうか。二人きりになる夜を思い、兼続は溜め息を吐いた。そんな兼続を政宗が見ていた。
夜になった。兼続と背中合わせで、政宗が寝ている。政宗が泊まりに来たら狭いベッドで二人身を寄せ眠るのは、幼少時代からの習慣だ。だが、状況が状況だけにどうにも先日のことを思い出してしまい、兼続は息を潜めて、ただ暗闇を見詰めていた。眠れそうにない。
この状況ははたして幾日続くのだろう。そういえば政宗に何日父親が出張でいないのか尋ねるのを忘れていたことに気づいた。明日、聞いてみようか。その前に、高校に上がったのだからもう別々に寝ようと提案した方が早いだろうと思いながらも、兼続はそうしたくなかった。
もぞりと小さく動く政宗に、兼続は身を固くした。なぜ、政宗はこんなに何事もなかったかのように寝ているのだろう。兼続が意識過剰なのだろうか。
「…寝ぬのか?」
ふいにかけられた言葉に、兼続は政宗を振り返った。政宗が静かに天井を見上げていた。
「政宗こそ起きていたのか。」
「…ふん。」
しばらくの沈黙の後、政宗がぽつりと呟いた。
「変わってしまうのだな。…わしも、貴様も。」
寂しそうな声色に、兼続は気付けば政宗を抱き寄せていた。腕の中で小さく身じろぎした政宗と目が合った。
「自業自得だ。」
「そうだな。自業自得じゃ。後も考えず、浅はかであった。」
それ以上政宗が何も紡げられないように、兼続は唇を寄せた。触れた唇は柔らかく蕩けそうなほど甘かった。
部屋の明かりをつけ、ベッドで肘をつき兼続の様子を眺めていた政宗を抱きしめ圧し掛かると、政宗は兼続を制した。
「貴様はでしゃばるな。いつもわしが抱かれてやると思うなよ。」
プライドの高い政宗は先日なすがなされるままでいるしかなかったことが、よほど気にかかっていたらしい。眉間に皺を寄せ真剣な顔で兼続の衣類を脱がし始めた。ボタンで間誤付くので兼続は手を出そうか悩んだが、政宗の様子に黙って眺めていることにした。こんなことを思ってしまうのは不謹慎に違いないのだが、政宗が可愛らしくてたまらなかった。兼続はそんなことを思う自身をいぶかしんだ。
衣類を脱がし終えた政宗の白い指が、赤黒い兼続自身に絡められた。その光景の隠微さに、兼続は無意識のうちにごくりと咽喉を鳴らしていた。しかしそれ以上に、相手が政宗であるということが異様に兼続を煽り立てた。
「政宗、」
「うるさい。黙っておれ。」
束の間躊躇うような沈黙の後、政宗はわいた唾を飲み込むと、小さな唇から覗かせた赤い舌で兼続に触れた。思ったよりも、同性のものを口にしているという嫌悪感は少なかった。けれど若干の不安が、政宗を襲った。それが何に起因するものか定かではないが、政宗は恐れていることを悟らせまいとするように、必死に兼続を口に含み、舌を這わせた。兼続の雄は大きく、政宗の口内には納まりきらなかった。先日、これが己の後穴に全て納められていたなど、到底信じられなかった。
抑え切れなかったように立ち上がる兼続から溢れる先走りの汁が、政宗の唇を濡らす。それは青臭く、苦かった。決して政宗自身にはじらすつもりなど毛頭ないのだが、躊躇いがちの愛撫は物足りず生温かった。
「政宗、」
再度名前を呼ばれ、政宗は面を上げた。快楽に若干頬を染めた兼続が、困ったように、非常に言いにくそうに言った。
「その…くすぐったいのだが。」
「!うるさい。まだ慣れておらんのだ。仕方なかろう。」
「というか…、」
言うなり、兼続は肩を怒らせる政宗を抱き寄せ、何をと思う間も無く、口を塞いだ。何処で覚えたのか政宗がいぶかしむくらい、兼続のキスは上手かった。口蓋を舐め上げられ、先日覚えたばかりの快感が背筋を走る。兼続は政宗の力が抜けたのを確認すると身を離し、告げた。
「…そんなことをされては、我慢が、できない。」
同時に背中越しに尻を撫で上げられ、政宗はうろたえた。兼続の指は、政宗の蕾を探っていた。
「馬鹿め!冗談ではないわ!」
とはいえ、何が冗談ではないのか、政宗自身もわからない。ただ無性に恥ずかしかった。己よりずいぶん体格のいい兼続を抱けるつもりはなかったが、抱かれるつもりもなかった政宗の、胸元から見上げてくる視線に、兼続はゆったりと笑みを返した。笑みに反し、目は据わっていた。
「確かに、冗談ではない。…これは本気だ。」
つぷりと入れられた指先がもたらす圧迫感が、やけに、現状には相応しい気がした。
いつの間に取り出していたのかクリームを中に塗り込められ、その冷たさと圧迫感に政宗は肩をすくめた。クリームはすぐさま中の熱さに溶け出し、濡れた音を立てた。
兼続はそれほど辛抱強く待たなかった。前回繋がったときのあの強烈な甘さが、まだ鮮烈に記憶には残っていた。覚えていた前立腺を急かすように攻め立て、政宗が苦痛以外に声を洩らし始めるとすぐさま、兼続は片腕で政宗を抱き寄せたまま、細い腰を引き寄せると自身を蕾に押し当てた。
「…兼つ、ぐ。」
腕の中で政宗が身をよじり、兼続の名を呼ぶ。その呼びかけにキスで返し、兼続はゆっくりと身を進めていった。既に舌先で十分濡らされていた兼続の雄は、政宗の中にゆっくりと押し込まれていった。
アルコールの力に頼らない脳は、生々しいまでに、兼続で中が埋められていく感覚を政宗に伝えた。何かが満たされていく心持と圧倒的な圧迫感。臓腑を抉るような感覚に、吐き気をもよおす。政宗自身への兼続の愛撫も、大した助けにはならず、ただひたすら、苦しかった。生理的な涙が頬を伝い、兼続の胸元に滴り落ちる。苦しさに眉根を寄せた政宗は少しでも負担を減らそうと、大きく息を吐いた。気持ち悪さに、口の中が乾いていた。
しかしそれにもかかわらず、政宗は決して兼続を拒まなかった。兼続の胸元に置いていた手を力ない動きで秀麗な額に伸ばし、汗で張り付いた前髪を掻き揚げると、引き寄せた。
「か、…つ、ぐ。」
「政宗。」
政宗の望みを察した兼続は、僅かに開けられた唇に己の唇を寄せた。求められるまま、幾度も啄ばむ。あどけない喘ぎがもれた。政宗の無意識の緊張が抜けたことで、兼続自身は一気に入り込んだ。政宗の雄が、兼続の腹に当たって擦れる。衝撃に仰け反った政宗と、兼続の視線が合わさった。
政宗は苦痛に震える口端を吊り上げ、いつもの勝気な笑みを浮かべた。
「ばか、め。」
口癖を吐き出した政宗を口付けで黙らせ、兼続は政宗を一度強く抱きしめると、揺さぶり始めた。
身の上で、政宗の体が振動にあわせて跳ねる。
「政宗…。」
何度も名を呼び、何度も何度も、宥めるように口付けをした。
「さんざん風呂場で考えたのだが、私はどうやら政宗のことが好きらしい。」
政宗の抵抗にあい一人でシャワーを浴びてきた兼続の台詞に、強烈な腰のだるさからベッドの上で倒れていた政宗は胡乱な視線を向けた。
「…今更じゃな。」
「今更か。」
「少なくとも2回やった後では今更すぎるわ、馬鹿め。…貴様もわしも、今更じゃ。」
「…、そうか。」
兼続はふわりと笑い、身を屈めてベッドに未だ横たわる政宗に触れるだけの口付けをした。受け止めた政宗は無言で眉間に皺を寄せていたが、その耳はかすかに赤かった。
政宗はよろよろと立ち上がった。足腰に力が入らないのか入り口で壁にもたれながら、不敵に笑う。
「後始末、わしが戻ってくるまでにしておけよ。べたついた布団で寝る気はない。」
兼続は、あんなに政宗は可愛らしい生き物だっただろうか、と思いながら見送ることしかできなかった。強く抱きしめてやりたいと思った頃には、既に政宗は部屋を出た後だった。惜しいことをしたものである。
そういえばコンドームを着けず事に及びあまつさえ中出ししてしまった事実に兼続が気付くのは、翌日学校から帰ってきてから、貴様のせいで腹が痛くなったわ!と、政宗に思い切り殴られてからのことだ。腰はだるいし腹は痛いし尻も痛いし貴様の付けたキスマークのせいで服は脱げないし、貴様何様のつもりだ!と続けられた。道理で、体育が政宗の大好きな剣道にもかかわらず、壁際で静かに見学していたはずである。
兼続は謝罪の言葉を口にしつつ、政宗を抱き寄せた。しばらくそれでも政宗は喚いていたが、十分も経つ頃には文句も忘れて、ただうかされたように兼続の身体の下でないていた。
案外変わってしまうことも悪くないものだと兼続は思った。
初掲載 2007年4月14日