「あれで政宗も実はお子様だからなあ。殿様やってても、男の中じゃ最年少だろ?元々愛情には疎いし、ひたむきな恋なんざ今まで知らないで生きてきたわけし。」
何より、家庭内環境が最悪で愛憎表裏一体が普通だったこともある。
「いやあまあ良かった良かった。一件落着だな。」
そんな風にうんうん頷く孫市の咽喉元には、矛の切っ先が着けられている。矛の持ち主は星彩だ。
隣には、目許を布で押さえて号泣している小十郎がいる。たぶんうれし泣きだろう。伊達は基本主馬鹿なのだ。政宗の幼少期を知っているから、尚更、政宗の幸せを願うのかもしれない。
目を細めて星彩が言った。
「…それだけで説明をしたつもり?」
「つっても、俺にもわかんねえし。いっそ当人に訊いてくれよっ!」
とうとうたまらず、孫市は叫んだ。
あの夜、はたして何があったのか。
孫市の想像にすぎないが、幸村がしどろもどろの様子で政宗を慰め、自分も政宗様のことが好きなので嬉しいですとか何とか真摯な態度で告げたのだろう。幸村は実直で奥手で、おぼこというよりへたれな男だ。しかし、そんなところが政宗には丁度良くもある。
したがって、何があったとも思えないのだが。
現実問題として目の前には、目が合い、嬉しそうにはにかむ幸村と、思わず視線を落とす政宗がいた。政宗の耳は僅かに赤い。初々しすぎて砂を吐きそうなくらいだ。手が触れ合ったら、一体どれだけ政宗は赤くなるのだろうか。確かにこれでは、どのような顔で幸村に会えば良いのかわからず会わなかったという政宗の証言も真実味を増してくる。これほど予想外なまでに増して、決して嬉しいものでもないのだが。
恋する乙女でもあるまいしと思った矢先、星彩が矛の切っ先を引いた。
「…柄じゃないけど。見ていたら、恋がしたくなったわ。」
「星彩、」
「何よ。」
眉間にしわを寄せた星彩の手を取り、孫市は真剣な顔で言った。
「恋はするもんじゃなくて、落ちるもんだぜ。どうせなら俺と」
矛で、薙ぎ倒された。
初掲載 2007年12月10日