幸福がそんなにみじめなものなら、幸福から私を救って下さい。
ジャン・ジロドウ『間奏曲』
1:始まり (戦国無双2 / 小田原攻め)
2:矛盾 (無双OROCHI)
3:認識 (無双OROCHI / 街亭の戦い直前)
4:同類 (OROCHI再臨 / 長坂の戦い)
5:刹那 (OROCHI再臨 / 長坂の戦い後)
6:最期 (OROCHI再臨 / 決戦)
7:未来 (??? / 蛇足)
何と暗い眼をすることか。初対峙したとき、三成は政宗に危惧を抱いた。その眼には寂寥が浮かび、苦痛や絶望が行き場を失い彷徨っていた。丁度、実弟を失くしたばかりだという。三成は、己の命を危うくする存在などいない方が楽であろうに、と思う一方、あの毒殺未遂は狂言ではなかったのか、と驚きに打たれた。無論、政宗は完璧に己の心のうちを隠していた。だが、三成が政宗の憔悴し、しょげきった様子に気づいたのは、己も同様の想いであったからかもしれない。三成は功に焦り、そして、忍城の水攻めで玉砕したことで、意気消沈していた。
政宗から目を離せない様子の三成のことを、周囲は、警戒心の表れと解したようだった。違う、と三成はどれだけ声高に言いたかったことか。違う、警戒ではない。これは―――。
三成はその日、恋に落ちた。
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政宗は遠呂智に抱かれたいと思っている。それゆえに、他の男に身を委ねている。求めるものを知りながら、求めるがゆえに、別のものを掴む。これほど滑稽な話があるだろうか。
一度、三成はそのことに触れたことがあった。
政宗の厭う夏が過ぎ、秋に至った頃のことだった。政宗は幾度も重ねられた唇を、まるでそうすることで漏らした喘ぎも消せるかのように乱暴に拭い、三成を睥睨した。
「三成、貴様は男も女も囲わぬのか。」
他の男も女も、という形でないのは、己が実質的には三成の愛人に納まっている事実を、政宗が認識しないためだ。三成は、政宗が遠呂智に抱かれるための練習相手として、あるいは妲妃の言によれば踏み台として、この地位を手にしている。政宗がこの滑稽な現状を理解したが最後、三成は愛人に指一本触れられないだろう。この奇妙な逢瀬は、前提を覆すものでありながら、前提なしにはありえないのだ。込み上げる可笑しさから、三成は皮肉に口端を吊り上げた。
「必要ない。そういう政宗はどうなのだ。他に、必要なのか?」
「遠呂智以外、わしには毛頭必要ないわ。」
遠呂智のために、遠呂智以外に身を委ねる。それは矛盾だ。だが、肝心の政宗は、その矛盾にはどうも気づいていないらしい。三成は、政宗ほどの男が、と不思議に思った。二日と空けず忍んで来る男の心情をいぶかしみながらも、盲目である政宗は、真実に気づけない。
そんな政宗を、そして、そんな政宗に惹かれている己の愚行を、三成は胸中で密かに嗤った。怪訝そうに政宗が見やったが、三成はまったく気に留めなかった。政宗の大きく乱れた裾へと手を差し込み、太股を撫ぜると、腰を引き寄せ、膝の上へ乗せた。
「来い、政宗。遠呂智のために、上達したいのだろう?」
言っておきながら、三成は、これほど白々しい言葉があるだろうかと思った。遠呂智のために、と建前を述べながら、己は愛人を己の好むように仕立てているのだ。そこには、鬱屈した感情も生じたが、三成は目を逸らして見ないよう努めた。三成は政宗のことを欲していた。それは愛と呼ぶには歪で執着じみていたが、確かに三成は、欲していたのだ。だから、相伴に与る身である三成が、その矛盾を指摘することはなかった。おそらく、これからもないだろう。
そう。政宗が瞼を伏せている限り、この妄執は叶えられるのだ。
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蜀軍との戦を眼前に控えた政宗は、ふと、向こうの渡り廊下からこちらを見詰めている三成に気づいた。
三成の眼差しを受けて、政宗は身体を強張らせた。恐怖から、掌はじとりと汗で湿った。今更でしかない。だが、今更ながら、政宗は己の失態を悟った。今まで可能性が過ぎるたび、きつく目を閉ざして逃げてきた事実だ。三成は己以外誰も抱かない。誰にも妥協しない。しかし、何故、政宗にはそれらを許すのか。
わかりたくなかった。
初めは、「行為」を知らぬがゆえの「行為」でしかなかった。「行為」を知るための練習相手が、三成だった。遠呂智のため、そう、全ては遠呂智のためでしかなかった―――本来は。
遠呂智のためだと言い聞かせてみても、最早、それはどうにも止めようがなかった。「行為」を知るための「行為」であったにもかかわらず、三成に抱かれれば抱かれるほど、遠呂智と己がそうしている光景が描けなくなった。脳裏を過ぎるのは、三成の指や唇や声や髪だった。眼差しだった。
三成のあの細い指が政宗の髪を梳き、あの薄い唇が己のそれを甘噛みし、あの切羽詰ったような掠れ声が己の名を呼び、あの錦糸のような淡い色の髪の毛が己の首筋を掠めるのを、無意識のうちに政宗は求めていた。何より、あの、強烈に胸の内を告げ、政宗の心を震わせる眼差し。何故今まで気づかなかったのかと、政宗は己の盲目を詰った。あれは、恋をするもの特有の目ではないか。ひたと見据えられて、ようやく、政宗も認めざるをえなくなった。
だがもう、全て、手遅れだ。今では打ち水を待つ夏の道の如く、政宗の肌は三成に渇き切っている。熱い掌で肌をまさぐられ、甘く揺さぶられることを求めている。政宗は緊張に唾を飲み下し、三成の眼差しから逃げるように踵を返した。
そしてそのまま、戻ってこなかった。
渇くものが肌だけではないと事実を飲み下すには、あまりにも、それは政宗にとって重すぎた。
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「妲妃、貴様も馬鹿じゃな。」
政宗の言葉に、妲妃は小さく笑い声を立てた。おそらく政宗は、妲妃が政宗を騙して三成に抱かせていた件を話しているのだろう。遠呂智に抱かれたいが、方法がわからない。呻く政宗に、ならば三成に教えを乞えば良い、と提案したのは妲妃だが、まんまと信じる政宗も政宗だ。己が遠呂智を独占し、ついでに、政宗に焦がれる三成の離反を防ぐための策とはいえ、まさか、騙されるとは思わなかった。
妲妃は二人が奇妙な執着―――もしこう言って差し支えないのであれば愛情―――を育てていく様を長らく見ていた。その結果、政宗が現実を認め難いあまり蜀に降り、遠呂智軍に繋ぎ止める枷がなくなったことで三成も離反した事実を知っていた。それゆえ、遠呂智が落命した過去を重く受け止めていた。
だが、妲妃は笑った。笑うことが出来た。
「馬鹿…、そうかもね。そのせいで遠呂智様を一度失っちゃったもの。馬鹿なのよね、私ってば。」
決して戦況は良いものとは言えない。敵方の火計の成功、司馬イの敗北がそれに拍車をかけた。しかし、妲妃にはそれらなどどうでも良かった。ただ、楽しかった。嬉しかった。
「でも、良いのよ。だから今、政宗さんは、ここにいてくれるんでしょ?」
妲妃の笑顔に、政宗は呆れ返った様子で鼻を鳴らした。だが、妲妃は誤魔化されなかった。その眼に寂寥が、絶望が覗いていることを、最早見逃そうはずもなかった。
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三成が一年半ぶりに政宗と再会したのは、長坂付近の森でのことだった。高台から戦況を窺っていた三成は、政宗が単騎駆けて行く姿を捉えた。そのあまりの無防備は、どこか、崖の上で目隠し鬼をする幼子のような危うさを覚えさせた。そして、三成は政宗が絶望している事実を察した。
政宗は三成を見ても、何も問わなかった。何故、ここにいるのか。何を求めているのか。何一つ問うでもなく、三成をねめつけた。
三成は政宗が幸村に惹かれていることを知っていた。政宗が夏を厭う原因が幸村であることも知っていた。だが、だからといって、幸村に嫉妬することはなかった。政宗が惹かれているのは、大阪で没した幸村なのだ。今、この世界にいる幸村ではない。そしてまた、三成は、政宗のその想いが色を交えたものはないと知っていた。己が手放したものを未だ所持している存在への羨望、嫉妬。それが、政宗の幸村に対する想いだった。
しかし、今になって、三成は幸村が妬ましかった。政宗の憔悴は、絶望は、遠呂智と幸村によって生み出されたものだ。そこに、三成の入り込む隙はない。
「愛している、政宗。」
三成は政宗に伝えたかった。遠呂智や幸村ではない。何者でもない、眼前の己こそが、政宗を愛しているのだと伝えたかった。嫉妬も相俟って些か乱暴な手付きで強く抱きしめた三成を、政宗は嗤った。
「はっ、馬鹿め。わしの無知を散々弄び続けた貴様が、今更、わしに愛を説くのか。」
脇腹に押し当てられた塊と小さな金属音に、三成は、銃を突きつけられたことを悟った。今、政宗が引き金を引き、撃鉄が鳴れば、呆気なく己の命は尽きる。だが、三成は意に介さず、政宗に頭を摺り寄せた。政宗によって尽きるならば、この生も、そう悪くはないものに思えたのだ。
「わしのために死ねるか。」
三成は当然のように答えた。
「お前がそれを、俺に求めるのならば。」
沈黙が降りた。その間三成は良いように、政宗の耳朶を甘噛みし、頬骨へと唇を這わせていた。久しぶりの政宗の肌は、火計の用いられた戦場ゆえだろうか、埃と灰と太陽の匂いがした。
政宗は何か物思う様子で、抵抗を示すでもなく、三成の好きなようにさせていた。三成は政宗に口付け、抱き寄せ、時に舌で舐め上げた。だが、それらの行為は、久しぶりの欲望に身を焦がす者のそれというより、ただ真摯に主へ愛情を示す犬のそれだ。政宗もそれに気づいたのだろうか。しばらくしてから、三成に突きつけていた銃口を離した。
政宗は言った。
「来い、三成。今ひとたび、わしを喰らわせてやる。」
勿論、三成に否やはなかった。
三成は無粋な甲冑を取り除き、襟ぐりを留める紐を抜き取ると、性急に政宗を木の幹へ押し付けた。何処からか蜩の音がしたが、それも、三成の気を散らすには至らなかった。三成は政宗の頬に手を添えて、首を傾げて唇を合わせた。歯列をなぞり、舌を絡めると、教えたとおりに反応を返しながら、政宗が三成の首に腕を回した。そんな恋人のような当たり障りのない行為が、三成には無性に喜ばしかった。
「貴様のせいで、わしは、知った。」
糸を引き垂れた唾液を気にも留めず、口付けの後に、政宗は呟いた。晩夏とはいえ強烈な日差しに、政宗の伏せられた睫が濃い影を落としていた。そのため眼に浮かぶ腹積もりが読めず、三成は政宗の顔を覗き込もうとしたが、強く首を引き寄せられて断念せざるを得なかった。三成はその唇を貪りながら、政宗の片足を掴み抱え込んだ。促すように、政宗が三成の腰帯を解き、その中に手を差し入れた。見えないながらも、久しぶりの政宗の手つきに三成のそれは硬さを増した。耐え切れず政宗へそれを押し付けると、ちょうど息継ぎの合間に当たった政宗が、小さく笑った。
慣らしが不足していることは明白だったので、指を這わせ、挿し入れようとする三成を、政宗が制した。
「…よい。」
「だが、」
「早う。」
焦れた様子で再び口付けを強請られ、擦るように押し付けられれば、一年半禁欲していた三成には最早我慢できなかった。以前であれば問題ないその禁欲の期間は、政宗の身体を知ってしまった三成にとって、これ以上ないほど長く辛いものだった。三成は半ば無理矢理、政宗の中へと分け入っていった。当然、慣らしきっていないそこは痛いほどきつかった。だが、やはり、久しぶりの政宗との逢瀬であるということが三成を狂わせた。政宗の中は浮かされたように熱かった。
日に晒される白さの際立つ政宗の肌は、苦痛による汗でじっとりと湿っている。しかし、政宗も、そして三成も、例え今は苦しくとも、時が過ぎれば快楽しか残らないことを経験から知っていた。
そのとき、三成は動きの取れぬほどの強さで、政宗に引き寄せられた。今まで、三成が背に腕を回すよう促したことはあっても、このように政宗に抱きしめられたのは初めてのことだった。三成は不平を漏らすでもなく、抱きしめられていた。
ぽつりと、三成の肩口に額をつけて、政宗が漏らした。
「…わしが遠呂智に求めるは、肉の快楽ではなく、魂の安楽…。あれは慕情ではあれど、恋情ではない。浅はかにも、わしはあやつに、父上の面影を追い求めたのじゃ。…あやつには、父上の抱擁を求めただけのことであった。」
ようやく、政宗が面を上げた。ひたと、二人の視線がかちあった。政宗の眼には、様々な感情が浮かび上がり、まるで藻の張りすぎた水面のように混沌として掴めなかった。
ただ、政宗は笑った。
「…それに気づかせたのは、貴様じゃ。三成。」
それが呆れた物言いであれば、三成にも返しようがあっただろう。だが、その声は、苦痛と悲哀、そして絶望で溢れていた。
政宗は瞼を伏せ、白い項を晒して項垂れた。そんな政宗を睥睨してから、三成は僅かに顔をしかめた。政宗のために、己は何が出来るのか、知りたいと思った。知らねばならないと思った。しかし、先の世界での忍城水攻めの例からもわかるように、奇を衒うようなことには疎い三成だ。結局、三成には、束の間現実を忘れさせるため、政宗を強く抱きしめて熱に浮かすことしか出来なかった。
愛したい、と思う。愛している、と思う。決して苦しめたいわけではないのに、そのことが否応なしに政宗を苦しめる。三成は認識を誤っていた。政宗の憔悴は、絶望は、遠呂智と幸村によって生み出されたものだ。だが、それを育てたのは三成だった。
「…愛しているのだ、政宗。俺は―――。」
三成は己の無力を痛感し、唇を噛んだ。かつてこれほど、歯痒く思ったことはなかった。
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大量の失血から定まらない思考で、政宗は昔のことを思い返していた。
初めて、人を裏切ったのは、人取り橋でのことだった。相手は実父だった。命に従い実父を撃ち殺した政宗を、伊達の家臣は誰も咎めない。無情だが致し方ない、と判じているようだった。その戦が契機となり、奥州の雄独眼竜が誕生したのだ。実父の喪失を糧にして、己らの主君が成長するのであれば、致し方ない。何が、致し方ないのだ、と政宗は問いたかった。何が、致し方ないことだったのだ。政宗は、父を裏切ったと思っていた。確かに、あれは父の命に従っての行為だった。だが、父はおそらく、我が子が己の命を重く見て発砲できないと読んでいたに違いないのだ―――畠山義継のように。
二度目に人を裏切ったのは、米沢でのことだった。今も鮮明に蘇る、弟の困惑に彩られた眼差し。小次郎もわからぬではない年頃のはずだったが、あれは、母に箱入りで育てられた童だった。己が家督争いに敗れ消されようとしていることなど、微塵たりとも、想像していなかったに違いない。刀を振りかぶる最期の瞬間、あれは、兄上、と政宗を呼んだ。政宗は応えなかった。背後では気が触れたように、母が喚いていた。
赤い、花が咲いた。
政宗は彼らの姿を遠呂智に重ねていた。失くしたものを押し付け、それらが再び与えられることを欲していたのだ。それを思い知らしめたのは三成の存在だったが、皮肉なことに、三成の存在があって、政宗は再び遠呂智軍に戻った。そして、現在、死のうとしていた。
血の滴る口元を拭い、政宗は咽喉が渇いたと思った。失血のためだろうか、火計のためだろうか、政宗は焼け爛れ、滅び行く城を一瞥し、その炎に照らされる夜空を見上げた。背を預けた城壁が崩れるのも、時間のうちだろう。だが、構わなかった。どうせ死ぬのだ。
そしてふっと、政宗は笑った。
己はずっと渇き切っていた。そう、打ち水を待つ夏の道の如く、ずっと、三成に渇いていた。その事実をようやく受け入れて、政宗は瞼を伏せた。渇いていた。寒く、眠かった。
間を置かず、城壁が崩れ落ちた。
そして、全てが終わってしまった。
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「これが恋なら、わしは、もうしとうない。」
暑いし汗でべたべたして気持ち悪いし食欲も出ないから、という理由で政宗の厭う夏が過ぎ、秋に至った頃のことだった。政宗は幾度も重ねられた唇を、まるでそうすることで漏らした喘ぎも消せるかのように乱暴に拭い、三成をねめつけた。
「急にどうした。…何か、政宗の気に触ることでもしたか。」
政宗に覆い被さり、Tシャツの合間から肌をまさぐっていた三成は、不安に襲われ、恋人の様子を窺った。当然、手の動きも止まる。政宗は仏頂面で唇を尖らせ、無言で、三成に続きを促した。
「そうではない、わしは。………、…。やはり、何でもないわ馬鹿め!」
「何を言いかけた。気になるだろう。何か気に触ることをしたのならば、極力改善する。だから、言え、政宗。」
三成の懇願に、政宗は唇をへの字に曲げた。恥ずかしいのだろう。見る間に頬が赤く染まっていった。やがて根負けして、政宗は言い捨てた。
「恋はこれきりで十分だと言いたかったのじゃ、馬鹿め!ええい、言わすでないわ!こんな、男に良いようになぶられて、いじられて、咥えさせられて、喘がされて…わしも男じゃぞ?本来ならば、突っ込む側であろう?!何ゆえ、何ゆえじゃ…!…ああ、どこで一体道を踏み外したのか。うう、わしの馬鹿め。」
一瞬、呆気に取られた様子を見せた三成だったが、すぐさま、花のような笑みをこぼした。
「そうか。政宗は俺のことを愛しているのか。俺も愛している、政宗。」
そう言って左手を取り、薬指に口付ければ、政宗の赤面もますます高潮した。政宗は三成の手を振り払い、そのまま、三成の頭を殴りつけた。
「真顔で恥ずかしいことを言うでない!わしは貴様など愛しとらんわ!馬鹿め!」
三成は笑って、政宗がそんなことを言えないようにするため、勢い良くTシャツを脱がせた。三成は、政宗が愛を交わしている最中、浮かされたように己の名を呼び、好きだと漏らすことを知っていた。はたして、政宗はそのことを知っているのだろうか。
殴られても良い。罵倒されても良い。ただどうしようもなく、三成は政宗を愛していた。そしてそれは、同性に良いように扱われる政宗も同様であることを、三成は知っていた。
はたと、三成は忙しなく動かしていた掌を止めて、政宗を見詰めた。三成のワイシャツの釦を外していた政宗が、訝るように首を傾げた。
「そういえば、政宗の誕生日―――。」
「…誕生日は、一月前に祝ってもらったぞ?」
「そうだ。あれから丁度一ヶ月経っただろう。一ヶ月記念でケーキを買ってきたのだ。」
「…もっと有意義なことに金を使ったらどうなのじゃ。馬鹿め。」
心底呆れた風な政宗に、三成は真面目だったので、真顔で言った。
「だから、ここは有意義に、生クリームプレ」
「馬鹿め!アホ!出てけ!」
投げつけられた枕を、三成は顔面で受け止めた。羽毛の詰められた枕とはいえ、大きいだけに衝撃も凄かった。赤くなった鼻の頭を抑える三成に、当然の報いだと政宗は笑った。
永遠に覚めない恋をしていた。
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初掲載 2008年12月28日