綻んだ花


 ひいふうみい。掌に載せたそれを政宗は熱心に数えている。正直、俺は面白くない。折角仕事をおしてやって来てやったというのに、牽牛子など数えているとは。兼続ではないが、不義である。
 最近、政宗は牽牛にはまっているらしい。自慢そうに教えられた牽牛という名は聴きなれないが、要は朝顔だ。その熱心さは噂として京中に広がるほどで、そういえば殿、という左近の世間話で俺はようやく愛人の新しい趣味を知った。
 政宗の趣味は多彩を極め、凝り性という性分も合間って、一時は無闇に熱中する。一応執務は疎かにしないで、流石に身を持ち崩すほど手を出す様子もないので、家臣は口出ししないようである。そうして、一時の流行りがすぎると、まるでそれまでが嘘のように飽きる。はしかにかかったようなものだ。
 その、はしかが今は牽牛だった。
 「これが今年美しかった変化牽牛の種でな、もっとも、その次も変り種が花開くとは限らぬが、他のものよりは余程可能性が高い。」
 「俺はそんなものに興味はない。」
 「まあ、そう言うな。」
 政宗が俺の手を掴み、指を広げて牽牛子を落した。
 「お裾分けじゃ。貴様では咲かせぬであろうから、左近に庭師でも頼むが良い。」
 一見した限りでは普通の種だ。何ら変わった様子はない。変化がどうのと言われたところで普通の牽牛の姿さえ脳裏に描けない俺にとって、それは未知のものでしかなかった。政宗も気が利かない。どうせならば、実際に咲いている花を見せれば良いのだ。しかし、先ほどまでの不服が嘘のように不機嫌が和らいだのも事実で、俺は悟られぬよう鼻を鳴らした。
 「そこまで言うならもらってやる。」
 政宗が笑って告げた。
 「来年、な。ちゃんと咲かせたかわしが検分してやろう。」
 来年。来年の夏、俺は政宗といるのだろうか。いることができるのだろうか。
 密やか笑みに誘われるようにして、俺は政宗に唇を寄せた。
 綻んだ姿に、俺は咲き誇る牽牛を夢見た。











初掲載 2007年12月22日