信用ならない


 「寝る。四半刻したら起こせ。」
 突然嵐のようにやって来たと思えば、そう言うなりごろんと横になった政宗に、三成は驚きに目を見張った。確かに、政宗にいつ来ても良いと言ったのは三成だ。兵士にも、兼続や幸村は場合によるが、時を問わず政宗は通して良いと事前に公示してあった。
 しかし、実際に来られると信じられない。正直、言っても、政宗は来ないだろうと思っていたのだ。何しろ、あまりに矜持が高すぎる。政宗には矜持も何もない三成とは違う。三成に対しても、弱さは見せない。少し寂しい思いもしたが、意地を通すのが政宗だった。
 「政宗?」
 声をかけるが返事はない。三成の膝を枕にして、寝息を立てて、政宗は寝ている。
 恋仲になったとはいえ、三成が政宗に膝枕してもらいたいと思ったことはあっても、してもらったことはまだない。してもらえるとも思っていない。一度、ついうっかり酔った勢いでして欲しいと洩らしたところ、本気で嫌そうに顔をしかめられた。
 それがどうしたことか、三成の方が政宗に対してこの有様だ。
 「…普通、立場的に逆だろう。」
 もはや執務に戻る気にもなれず呆れ顔でぽつりと洩らして、三成は政宗の髪を梳いた。柔らかい猫っ毛は整えるのが大変だからと、三成が触れようとするたびに手を払い除けられたが、今は静かにされるがままだ。
 つまらないと心中呟き、三成は未だまろい頬に触れた。
 「早く起きろ、政宗。折角お前が前にいるのに声が聞けないなど…俺はつまらない。」
 指先でつんと突けば、政宗が嫌そうに眉をひそめた。
 その反応があまりにつぼすぎてずっと続けていたところ、一刻余りが過ぎていた。約束の時間を大幅に超えている。ただでさえ突かれ目覚めて不機嫌極まりない政宗に、三成が思い切り蹴られたのは、自業自得のことである。











初掲載 2007年11月11日