こやつ、頭は大丈夫なのじゃろうか。
熱でもあるかさもなければ起きているように見せかけてその実寝ているに違いないと思い、政宗は魏へ伝令を出すか一瞬悩んだ。ねねならば何とかしてくれるような気がしないでもない。しかしすぐさま、いや、こういうときは左近の方がと考えを改め、政宗は剥いた桃を置き、後ろの孫市を振り仰いだ。
「孫市、すまぬが伝令を呉へ送ってくれぬか?左近を呼ばねば。」
「…いや、まあどうだろな。無理じゃねえか?つか、それ、二人とも大真面目にやってんのか?」
「二人…?少なくとも俺は真面目だ。楽をすることで人間は文明を発展させてきた。文明人らしいことをして何が悪い。」
不満そうな発言は三成のものだ。
政宗は本気で不安になってきた。働きすぎというものはやはり悪いものらしい。側近に窘められても仕事を生きがいにしてきた政宗は、これからは執務を控えようと心に決めた。
眉根を寄せて手を当てた額は常人のものより幾分冷たいが、いたって三成の平温である。
「…やはり、医者を呼ぶべきじゃろうか。そうじゃな。呉には有名な華陀という名医もおるらしいから、左近と共に至急連れて参れ。それから曹丕に少し三成の仕事を控えさせるように頼まぬと。」
新種の悪性の病ならば、感染したら大事だ。すぐここを封鎖しなければならない。本気で思い、珍しく眉尻を下げる政宗に、ばんっ、と星彩が机を叩いて立ち上がった。
「…いちゃいちゃするなら他の部屋でやってくれないかしら?邪魔よ。目障りだわ。」
星彩にしては、感情が篭もった非難の声だ。その正面で、祝融が「まあ良いじゃないかい、目くじら立てるもんでもないし。」と笑い声を立てている。ァ千代は目蓋を伏せて、政宗たちの方を見る様子はない。さらりと流して武具の手入れを続行する辺り大人な対応と言うことも出来るが、その実、日本人らしく見るのが恥ずかしいだけかもしれない。
矛の切っ先を突きつけて、星彩はおろかな二人に言った。
「馬鹿じゃないの?こんな顔だけの男と付き合ってる政宗も政宗だけど、利き手に怪我を負ったくらいでわざわざ蜀までやって来て恋人にあーんしてもらおうなんて甘い幻想抱いてるような男はもっと馬鹿だわ。」
初掲載 2007年11月2日