犬猿の仲と称される兼続と政宗である。つまりは、くだらないことで喧嘩をする仲なのだ。
そんな兼続と政宗は、今日も今日とてくだらないことで喧嘩になった。犬猿というならばどちらが犬でどちらが猿なのかという議題に、誰もが馬鹿らしいと思って放置したのが悪かった。
「貴様がわしのことを山犬と呼ぶのであろう。であれば、犬はわしではないのか。」
猿よりも犬の方が好ましい気がした政宗は、そう言った。少しばかりのあてこすりもあった。
「猿など、わしの掌で踊っておれば良いのだ。だいたいあれは湯に浸かることしかできぬではないか。さあ、さっさと山へ帰るが良い。お山の大将を気取って、せいぜい達者に暮らすのだな。」
秀吉が諸侯に猿をけしかけ遊んでいたいたづらを逆手に取った過去を、暗に示唆する政宗に、それまで反論もせず沈黙を守っていた兼続は言った。
「なるほど。道理だ。」
兼続の返答に内心政宗は慌てた。素直に認める兼続など、らしくない。沈黙の裏で一体何を画策していたというのか。身構える直前、兼続は政宗の腕を強く掴んだ。
「では私はさっさと山に帰るとするか。大将として、そうそう留守にもしておけないのでな。湯に浸かることしかできぬが、それでもできることはあるだろう。さあ、帰るぞ山犬。」
そこで一息吐き、兼続が楽しそうに笑った。
「山の主の言うことだ。素直に聞くのだな。山犬。せいぜい達者に暮らさせてもらおうか?」
同時に抱きかかえられ、政宗は強く眩暈を感じた。周囲が唖然としている。無理もない。犬猿の仲がどうしてこんなことになっているのかわからないのは、政宗だって同じだ。その上、直接関係する分、政宗の方が周囲よりも呆気に取られていた。
そういうわけで、口から生まれたような政宗も赤い顔で兼続を睨みつけることしかできなかった次第である。
初掲載 2007年5月26日
兼政同盟さま