いとしこいし


これが恋情かと問われれば、そうであるのか首を傾げる。
これが友情かと問われれば、それもどうであるのかと首を傾げる。
では、これはただの執着か、独占欲か、支配欲か、それとも愛情だろうかと問答は繰り返す。

「一体、何を考えている」

目を向けると、彼は射るような眼差しでこちらを見ている。
あぁ、ぼんやりしすぎてしまったと後悔しても後の祭り。
二人だけの部屋で二人だけの時で、穏やかにぬくもりを分け合うことを許されて。
己よりも一回り小さな体をそっと抱き寄せれば胸の奥を叩く音がする。
決して目には見えぬそれが胸を叩き、潰し、時に焦がしていく。
これが恋かと問われれば、そういうものかもしれない。
これが執着かと問われれば、それもそうかもしれない。

姿無く、形無く、色も無ければ音もなく。

「人の話をっ」
「貴方のことを、」
考えていました、と告げれば彼の瞳はゆらと揺れる。
はぁと大きなため息が零れるその唇を見つめていると、頬に触れる彼の手のひら。
「わしは、そんな顔をさせるために貴様を許しているわけではない」
耳に届く言葉は毒のように甘い。いっそ夢だと言われた方が真実みがあるほどに。
あぁ、胸が痛い。
目にも見えぬ癖に、そうと言い切れる確証もない癖に。
だから、許すというのなら、許されるというのなら。

「では、どうかもう少し…このままで」
彼の耳に言葉を注ぎ込んで、先より強く抱き寄せれば、ゆきむら、と己の名を呼ぶ声がする。
溶けるようなその音に、許されて包まれて、胸の想いは膨れあがる。

答え無くともただ一つ、溢れ出でる愛しさが確かにそれこそ答えであると。












初頂戴 2008年1月17日
初掲載 同年1月22日

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