夏の日差しがその激しさを緩め、夜が涼しくなってくる頃。それでもまだ十分暑い日差しを浴びながら、山崎は膝を抱えるようにして木陰に蹲っていた。
日に焼かれ乾いた肌は熱をおび、痛みを訴えている。その事実は、此処に座り込んでからもう大分時間が経っていることを告げていた。
何処を見るともなしに焦点の定まっていなかった瞳が、ふいに蝉の死体を捕えた。死体は日の光の下、明るい橙色に染まっており、影の黒と相成って煙草を連想させた。
「あ、」
連なって現れた人物(イメージ)に、山崎は無意識の内に右手首の時計に左手で触れた。それは去年の夏に彼から貰ったものだった。あの時は嬉しくて、それでもそれが彼の愛用の品だと知っていたから返した方が良いのか解らなくて、感情の整理が着かないまま一年も経ってしまった。よくつるんでいる沖田や土方のことを良く知っている近藤は、悩む山崎に対し貰っておけと言ったが、持ち続けて良いのか否か、未だ山崎の中で答えは出せていない。
夏は終わろうとしていた。
初掲載 2004年11月17日