奥さまは魔女パラレル 第二話   奥さまは魔女パラレル


 イーノックが荷物を詰めている最中、ルシフェルは物憂げな顔で沈黙を守っていた。当面の生活資金とどうしても手放したくない物だけ詰めた鞄は、地方公演に向かうときよりも中身が少なく、軽い。この出来事が、一家に新たな女難の歴史を生むのかと思えば、少しだけおかしくもあり、同じくらい誇らしかった。
 「さあ、お手をどうぞ。」
 空いている方の手を差し出せば、躊躇いがちに手を伸ばされる。イーノックはにっこり笑って、ルシフェルの手を強く掴んだ。もう離すつもりなどなかった。ルシフェルが悲しそうにはにかむ。それが解せず、イーノックはルシフェルの手の甲へキスを落とした。
 「行こう、私のジュリエット。愛している。」
 「ふっへへ、そんな悲劇、ごめんだな。」
 指を絡めて、歩き出す。二人ならどこまでも行ける気がした。
 「…誰、その女。どこへ行くの?」
 玄関ですれ違った婚約者は、当然のことながら、見覚えのない女と手を絡めるイーノックの姿に眦をあげた。
 これまで何度、婚約者には悪し様に言われ、独占欲を示され、かと思えば、つれなくされたことだろう。イーノックは、婚約者に愛人がいることを知っていた。
 だが、そんな婚約者ともこれで最後だ。イーノックは陽気に返した。
 「ああ、ちょっと結婚しにね。あなたともさよならだ。」


 手に手を取って逃げ出すのは、実に容易いことだった。問題は、逃げ続けることだ。
 傍らで、車窓の移り変る景色を眺めている愛しい人を一瞥すれば、視線に気付いたルシフェルが頬を綻ばせて微笑みを返す。その熱っぽい眼差しには、一抹の不安が覗いている。イーノックは緩みがちになる顔を引き締めて、真面目な声を出した。
 「……州境を超えないとまずいな。彼女の父親は州で強い力を持っているから。」
 「彼らがどんな手を?」
 「わからないが、決して私を許しはしないだろう。濡れ衣を着せられて指名手配犯にされても、私は驚かないよ。あの人は、そういう人なんだ。」
 何度も交わしたキスのせいで、紅い唇は腫れぼったくなっている。今日一日でどれくらいキスをしたことだろう。イーノックは運転が蛇行しないよう気をつけて、ルシフェルへキスをした。僅かにルシフェルの頬が赤らむ。イーノックは笑声をあげて、車を側道へと走らせた。
 「…お前と来たら、やけにご機嫌だな。そんな調子で大丈夫か?」
 「大丈夫だ、問題ない。愛するあなたに出逢ったからかな。嬉しくてたまらないんだ。」
 もしかすると、義務に縛られるだけの日々に辟易していたのかもしれない。
 イーノックは父が亡くなってからの数年を思い返し、苦い笑みを浮かべた。このまま結婚していたら、イーノックは膿み疲れて、原型すら留めないほど変質してしまっていたことだろう。
 山道を超えてから、急に霧が出始めていた。湿っぽい空気に、イーノックは助手席の窓を閉めた。
 「この霧だと、前に進めないな。そこの宿に泊まろう。」


 イーノックが選んだ宿泊先は、キャンプ地にある小さなコテージだった。
 人の良い支配人夫妻の話では、この近隣にはホテルもなく、キャンプをするにも時期外れということもあって、他に経営している宿泊施設はないらしい。
 「うちも時期じゃないから、大したことはできないわよ。」
 食用というよりは、愛玩用だろうか。まるまる太った子豚を両腕に抱えたエゼキエル夫人が言う。おそらく、この夫人はもてる限りの善意でもてなしてくれることだろう。イーノックの勘が告げた。
 気を遣わせるのも悪いと思ったイーノックは、コテージへの案内と食事だけ甘えることにした。
 「私にやらせてくれないか。ふっへへ、良妻になる稽古だな。」
 暖炉に火を入れようとマッチ片手に奮闘するルシフェルを前に、イーノックの表情がだらしなく和らぐ。それに気付いたエゼキエルが丸い身体を揺すって笑った。
 「あらあら、綺麗で健気な奥さんねえ。あなたも素敵だから、きっと幸せになるわ。坊やはあなたに、女の子なら、奥さん似ね。」
 「そうだろうか。」
 眼を輝かせるイーノックに、エゼキエルが笑いながら同意を示す。
 愛する人と結婚して、家庭を築く。イーノックは新しい可能性に心躍らせた。家系ゆえ疾うに諦めていた夢が次々と現実していくスピードは、目まぐるしく、息に詰るほどだ。こんな幸せをもたらしてくれたルシフェルを抱き締めたくてたまらない。
 やにさがるイーノックの様子に、エゼキエルは笑いが止まらないようだ。
 「私は邪魔かしら。そろそろお暇するわね。」
 そう言ってエゼキエルが部屋を後にした瞬間、ぱっと部屋が明るくなった。ルシフェルが暖炉に火を灯したらしい。
 「今の見てたか?」
 陶磁器のように白い頬を仄かに紅くしたルシフェルが、イーノックの元へ駆け寄り抱きついて来る。暖炉の前には、幾本ものマッチが半ば折れた状態で放り出されていた。イーノックはルシフェルの腰に腕を回し、額にキスを落とした。
 「私に見えるのは、あなただけだ。――なあ、ルシフェル。子供ほしいか?」
 「うん?ああ、お前に似た子が欲しいな。」
 こめかみ、耳朶、首筋。降り注ぐキスの雨にうっとり夢見心地で、ルシフェルが返した。もたらされる快感に半ば開けられた唇から、紅い舌が見え隠れしている。それに誘われたイーノックが深いキスをすると、酸欠でふらつくルシフェルがイーノックにしがみつきながら、小さくひとりごちた。
 「……事情を説明するなら、すぐの方が良いな。だが、どう説明したら良いのだろう。」
 「ルシフェル、どうかしたのか?」
 今すぐにもベッドへ連れていきたい欲望を抑え、耳元で問いかける。びくりと肩を震わせて、感じ入るルシフェルに、尚更、イーノックは愛おしさが募った。
 ルシフェルは感じやすく、イーノックが少し触れるだけで甘い息を漏らす。その痴態ぶりは、今日の昼まで処女だったとは思えないほどだ。
 数時間前の愛の営みを思い返し、固さを増したものを押し付けると、ルシフェルが欲情に嘆息しながら身じろいだ。
 「…なあ、イーノック。私たちの出会い方は、変だと思わないか?奇跡なんだ。」
 「ああ、勿論だ。」
 「私の正体を話したいんだ。」
 真剣な様子で告げるルシフェルに少しだけ不安になり、イーノックも努めて真面目な口調で問いかけた。
 「あなたの正体は何なんだ?」
 「天使なんだ。」
 滑らかな白磁の肌に、烏の濡れ羽色の髪。真紅の瞳。神が寵愛の限りを持って造形したとしか思えない麗しい姿は、天使と呼ぶに相応しいだろう。もっとも、恋人がこれほど美しくなくとも、イーノックにとっては天使に違いなかったが。イーノックは破顔して、ルシフェルを抱き上げた。
 「私のジュリエット。勿論、知っていたとも。」
 「本当か?」
 「出会った瞬間に。奇跡が起こって、天使が舞い降りたんだと思った。」
 「いい奥さんになるし、奇跡で手助けするよ。ああ、きっとさ。明日の選挙だって…、イーノック、お前を勝たせてみせる。」
 顔を紅潮して、興奮気味に捲し立てるルシフェルの発言に、イーノックは心底驚かされた。選挙前夜の有力者との結婚式を放り出し、婚約者から逃れるため州境を越えようとしている今になっても、ルシフェルはイーノックのことを考えているのだ。イーノックが、単に義務感で選挙に出ようとしたわけではないことを知っているのかもしれない。本心を言えば、知事に当確して公約通り、この州をより良く導くことがイーノックの夢だった。
 自分を後押ししてくれる後援者のためにも、選挙には出るべきかもしれない。例え、婚約者の一族にはめられて逮捕されるようなことになっても、ここで州に背を向けて逃げ出すよりは悔いも残らないだろう。
 だが、そのような事態に陥ったときに、どうやってこの世間ずれした愛しい人を守れば良いのか。
 「…確かに奇跡が必要だ。」
 狂おしく沸き起こる愛情のまま、荒々しくルシフェルを抱き締める。これが最後になるかもしれない。イーノックの胸は詰った。
 まだ何事か、ルシフェルが続けている。
 「私は今から遠い昔に…聞いていないな。」
 「聞いているよ。」
 確かに、生返事をしてしまったことは否めない。
 疑い深くこちらを見上げるルシフェルをベッドに横たえ、イーノックは深くキスをした。手持無沙汰に投げ出されていた両手が、イーノックの首に巻きつけられ、引き寄せられる。眼下で、眼を潤ませたルシフェルが、悪戯っぽく微笑んだ。
 「…本当か?まあ、良い。明日にするよ。」
 そうして抱き寄せられるまま、シーツの波に二人でダイブした。


 翌朝、ルシフェルの強い勧めもあり選挙事務所へ戻ったイーノックは、報道官で親友のアルマロスを別室へ呼び出した。
 選挙当日で忙しいだろうに、アルマロスはいつもどおりにこにこ笑みを湛えてやって来た。州全土に知れ渡るほどのスクープだ。アルマロスが昨夜の騒動を聞き及んでいないはずはない。イーノックは友人の気遣いに申し訳なくなった。
 「アルマロス、妻のことで話があるんだ。」
 妻という響きは良い。そう、ルシフェルはイーノックの妻なのだ。
 思わず緩めそうになる頬を引き締め、万が一緩んでしまったときのことを考慮して、イーノックは肘を付いた手を組み合わせ、顔の前に持っていった。
 「ルシフェルとは昨日結婚したんだが、彼女が奇妙なことを言っている。実に、ばかげたことなんだ。」
 「もしかして、相手陣営が送り込んだスパイだったとか、そういうことかい。」
 イーノックの家系の女難は有名な話だ。イーノック自身、何度アルマロスに嘆いたかわからない。実際、イーノックが結婚寸前まで行った婚約者ときたら、愛人持ちの性悪女だったのだから、アルマロスが不安視するのも当然だ。
 イーノックは苦笑を浮かべて、否定した。
 「いや、違う。ルシフェルはちゃんと私を愛してくれているよ。ただ……。」
 「…ただ?」
 頻りに言葉を濁すイーノックを、アルマロスが促す。イーノックは頭を抱えた。
 「彼女は、大天使ルシフェルらしいんだ。」
 言葉もないのか、アルマロスが眼を丸くしてこちらを眺めている。当然の反応だろう。何せ、これはジョークや惚気ではなく、掛け値なしの相談なのだ。イーノックも、アルマロスが急に妻帯して「僕の妻は大天使なんだ。」と真顔で言って来たら、その女の頭は大丈夫だろうかと心配になる。
 「冗談だと思ったが、何度も繰り返すんだ。大天使である証明に、選挙で勝たせてみると。」
 乾いた笑いを漏らしたイーノックは、窓の向こうに広がる街並みを見下ろした。
 「この街に、私の影響力はもはや残っていないが。」


 ルシフェルはイーノックの姪だという少女ナンナと街に出ていた。
 身の安全を考慮して付けられた護衛たちの無粋な言葉に辟易しながら、ルシフェルはイーノックのためにも一番美しく着飾った自分を見せてやろうと買い物に勤しんだ。本心を言えば、ルシフェルとしても、イーノックから離れたくない。しかし、夫に依存しているところを他人に見られたくなかったのだ。
 数十世紀ぶりに眼にする人々の生活は、ルシフェルの眼を愉しませた。何もかもが真新しく、歓声をあげて喜ぶ叔父の妻に、ナンナは困惑気味に付き従っていたが、ルシフェルがランジェリーの存在さえ知らなかった事実には、度肝を抜かれた様子で眼を丸くした。結局、ナンナの強い勧めで、ルシフェルはランジェリーを大量購入することになった。
 街の中心部に向かったときのことだ。
 「イーノックは詐欺師で偽善者だ!」
 夫の名前に、ルシフェルは耳をそばだてた。
 どうやら、イーノックの政敵に鞍替えした元婚約者の関係者が、街角で演説をぶっているようだ。ナンナが気を遣い、寝取ったと悪し様に罵られているルシフェルの袖を引いて、退避を促した。確かに、こんなところで買い物をしているところを見られでもしたら、何を言われるものか解ったものではない。
 だが、最愛の人の不評を広められて喜ぶ妻などいるはずもない。
 ルシフェルは酷薄な感情を浮かべた眼を眇め、口端を歪めると、後ろ手にぱちんと指を鳴らした。
 「あんな男を知事にして良いのか!だから、イーノックを…知事に!」
 突然鞍替えした男たちの発言に、周囲はぽかんとしている。ナンナも立ち止り、睫毛を瞬かせた。
 ルシフェルの微かな唇の動きに合わせて、空に拳を突き上げた男たちが声高に叫んだ。
 「イーノックを知事に!」


 開票結果を前にマイクを突き付けられ、イーノックは困惑した。
 敵対勢力の邪魔もあり惨敗だったにもかかわらず、どういうわけか、知事に当選してしまったのだ。地滑り的勝利、というにはあまりにも不自然な結果だった。候補者は数多存在するのに、午後に投票された名はイーノックのものしかない。不正が働いたとしか思えない、にもかかわらず、誰もそれを指摘せず、心からイーノックの就任を祝っている。
 「……信じられない。彼女がやったとしか思えない。」
 そう呟くと、イーノックは隣にいる報道官のアルマロスに小声で問いかけた。
 「私の妻はあのルシフェルだ。どうしたら良い?!」
 「…君は堕天使ルシファーと結婚したのか。」
 「違う、ルシファーじゃない。ルシフェルだ。」
 否定するイーノックの言葉は些か頼りない。アルマロスは親友の心中を察し、励ますように大きく頷いた。
 「大丈夫。彼女が大天使なんて、誰も信用するわけがないよ。」
 「なあ、誰かに話したか?」
 動揺も顕に頭を抱えたイーノックの肩を掴み、アルマロスはカメラに笑顔を向けさせた。フラッシュが焚かれる。インタビュアーの前だぞ、と叱咤し、アルマロスは満面の笑みを張り付け、イーノックに耳打ちした。
 「話せるはずがないだろう、知事の妻が堕天使なんて!」


 確かに、アルマロスの言うとおりだった。
 誰が、知事の妻があの堕天使ルシファーなどと信じるだろう。
 イーノックは腕に縋りつき、買ったばかりの美しいドレスを披露するルシフェルをまじまじと見た。ルシフェルは全身に月光を塗したようにカリスマという名の煌めきを放ち、天使と形容するに相応しい造形美を誇っていた。イーノックはそんな妻が自慢で愛おしくてならなかった。
 だが、ルシフェルが創世から存在する天使だとすると――別れたくない。自分が死んだ後、誰にも渡したくない。イーノックは強くルシフェルを抱き締めた。苦しいよ、胸の中で身動ぎながらルシフェルが笑い、両手を伸ばして来る。
 「お前の役に立つ妻になるよ。ほら、お前の演説を聴くために、人が集まっている。…私が天使でも気にしないだろ?」
 「普通ではないと思うが。」
 離れ難く渋るイーノックにも、ルシフェルは可憐に笑うばかりだ。
 「ふっへへ、ふたりだけの秘密だな。さあ、演説してきてくれないか。」
 部屋から追い出すようにして、インタビューへと向かわせたルシフェルは、しばらく笑みを張り付けたままイーノックの背を見送っていたが、諦念交じりの溜め息をこぼし、いつの間にか背後にいた男を振り返った。
 「きみか……。」
 ルシフェルとは対照的に、全身白ずくめの男がにっこり微笑む。
 「元気だったか?うまいこと成功させたのは、誉めてあげよう。」
 「…何をする気だ?」
 警戒し身構えるルシフェルに神は苦笑し、同時に、人間に転生して尚、些事で手を煩わせるメタトロンを忌々しく思った。ルシフェルが言うように堕天使たちなど見限って、イーノックに対処させようと気紛れを起こさなければ良かったのだ。
 神は手を差し伸べ、自らが心血を注いで作り上げた最高傑作の顎を掴むと、まじまじと真紅の眼を覗き込んだ。そこに浮かぶ反抗的な色に、苛立ちを覚え、舌打ちする。
 「奴は後だ。まずは不届きなお前から、お仕置きだよ。あんな人間に心惹かれるなんて、なんて悪い子だろうね、お前は。」
 「わ、私は、あいつを愛しているんだ!」
 もがきながら、ルシフェルが哀願する。だが、神にはルシフェルを手放す気など毛頭ない。イーノックについても然り。自らに辱めを与え、我が子まで堕落させた人間風情を許すはずもない。
 神は冷徹な笑みを口端に乗せたまま、涙を浮かべ震える我が子に囁いた。
 「お前は人間の心に毒された、信用ならない天使だ。これ以上お痛が出来ないよう、力はもう取り去ってしまおう。さあ、メタトロンにお別れを。逃げられないぞ。」
 神が慄く愛らしい唇に口付けようとした瞬間、ルシフェルが身を翻し、脱兎の如く走り出した。神は微笑ましさに笑った。扉を開かないようにすることも、ルシフェルの足を絶つことも、力を取り戻しつつある神にとっては造作ないことだ。
 しかし、たまには、こんな戯れも良いだろう。神はルシフェルを追って、ゆっくり歩き出した。
 「お前の身に危険が迫っているんだ…!流石の私も怖いよ。」
 悲鳴混じりの声が、廊下に反響している。我が子が恐怖の色を湛えて他の男に縋る様を想像すると、腸が煮え繰り返る一方、その恐怖を与えている存在が自分かと思えば清々しくもあった。ルシフェルには、自分以外の「絶対」など必要ない。
 「あなたでも?あなたにも手に負えないことがあるのか。」
 「私は力を失ったんだ。ただの人間になってしまった。」
 神は笑いながら、空間を転移した。
 半狂乱で頭を振るルシフェルの肩を掴み、引き寄せる。驚愕するイーノックの前で、神はカタカタ震えて止まないルシフェルのこめかみへ祝福を落とした。艶やかな髪を手繰り、キスすれば、びくりと肩を揺らして縮こまる我が子の反応が可愛くて仕方ない。
 「そう、この子は力を失ってしまったんだ。」
 喘ぎ激しく上下する乳房に手を差し込み、悲鳴が上がるのも構わず、ルシフェルのアストラル体を引き揚げる。何事か、イーノックが叫んでいる。意に介さず、神は慈愛に満ちた眼差しを漆黒の影へ向けた。
 「イーノック、全部、お前のせいだよ。」
 神は笑いながら、ルシフェルの肉体だったものから手を離した。それは糸の切れたマリオネットのように地面に倒れ込み、美しい黒髪を地面に散らした。











初掲載 2011年6月5日