「小十郎、紹介したいやつがいるんだ。」
「お断りいたします、政宗様。」
土いじりをする手も休めないで、振り向きすらせず即答した片腕に、政宗は心中失笑した。中々に察しが良い。流石は腹心の部下である。
「主に背中向けたまんま返答ってのは、お前にしちゃ、なってねえんじゃねえの?」
その一言に、小十郎がようやく振り向いた。見事なまでの能面顔だ。かえってそれが内心の動揺を伝えている。政宗は花のような笑みを零して、袂を掻き寄せた。牡丹柄の、常であればまとわない女物の着物。それが小十郎の不安を煽るのに足るものであることは、重々承知だ。むしろ、政宗が花盛りの女であることを小十郎に理解してもらわねばならなかった。
「それとも、俺が女に戻るのがそんなに嫌か?」
「そのようなことはありません。」
また、即答だ。
「じゃあ、あいつがそんなに気に食わねえ?」
「…政宗様にはもっとしかるべき相手がいらっしゃるかと。」
「んなこと言って、もう19だぜ?一般で言えば、嫁き遅れだ。」
「政宗様が一般ごときと比べられる筋合いはありません。」
段々話がずれてきている。それとも、これは小十郎がわざと逸らさせているのだろうか。しかし今日こそはうやむやにされるわけにはいかないと、政宗は精一杯可愛らしく小首を傾げて、睫毛を瞬かせた。
「でも、あいつは小十郎に似てるんだぜ?」
「……政宗様。」
ひくりと小十郎が片眉を上げた。本気で嫌そうだ。似ていると言われたことか、主が乙女の形をしていることか。わからなかったがそれを気にせず、政宗はにっこり笑って続けた。
「命張ってて、武士じゃねえけど背には創一つねえし、主が無二だろ?それに、どーせ主の結婚の際にはぎゃあぎゃあ大騒ぎすんだろうさ。」
小十郎が一時押し黙り、土に濡れた政宗の足袋を見た。
「…折角のお姿が汚れております。帰りましょう。あれも待っているのでしょう?」
「そうか。認めてくれるのか。」
小十郎は答えなかった。政宗はそれでも良いと思った。これ以上望めることは少なく、望むことも小十郎には酷だ。
佐助も小十郎同様、主の前には妻子も切り捨てる覚悟であろうこと。
それはわざわざ言わなかったが、小十郎は知っているだろうから。
初掲載 2007年12月22日