ブラックジョーク   R18


 政宗の両手を頭の上で束ね、押さえつけた。本当は背に回してもらいたいのだが、政宗は頑として拒むどころか、幸村を押し退けようと抵抗するのだ。だから、押さえつけるか、紐で括ることにしている。以前、忍ばせていた懐剣で刺され重傷を負ったことがあったので、幸村としてもこれに関しては仕方ないと割り切るしかなかった。唇は、合わせたところで舌を噛み切られるだけだろう――今は、まだ。血のように紅い唇を物欲しげに見た後、幸村は政宗の首へ舌を這わせた。頭を振られて、払い除けられる。幸村は残念な面持ちで政宗を見てから、今度は胸元へと舌を下ろしていった。
 はじめてのときは、猿轡を噛ませた。気位の高い政宗のこと、身分が下の男に抱かれるくらいならば、自殺を選ぶ気がしたのだ。幸村としても天高く飛ぶ竜にはそうあって欲しいが、中には例外もあるのだと理解しようとしない態度に焦れたのも事実だ。後ろ手に縛り上げたのは、あまりに抵抗が激しかったから。残念なことに、途中までではあるが、それは今も変わらないでいる。薬を投与したのは、少しでも、政宗に快楽を感じてもらうためだ。幸村は、女は初めて男を知るとき痛みを免れないものだと聞き及んでいたし、政宗の初めては己だと信じて疑わなかった。実際、それは正解だった。それは当然のことなので嬉しいとは感じなかったが、政宗が自分を受け入れてくれたのかと思うと、幸村の顔は幸せに綻んだ。多すぎたのか溢れ出てしまったが、注いだ子種を受け止めてくれたのも嬉しかった。あとは、受胎だけだ。幸村としては、最低、一姫二太郎は欲しい。それ以下はいただけないが、政宗の身体に負担が掛かりすぎるようなら仕方ないとも思う。出産は女にとって命がけの所業だ。子が欲しいのは本心だが、政宗が死んでしまっては元も子もない。
 政宗は誤解して信じてくれないが、決して、幸村は決して政宗を痛めつけたいわけではない。憎んでいるわけでもない。むしろ、逆なのだ。愛しているからこそ、優しくしたい。だが、政宗はそんな幸村の想いをわかってくれない。いつも、幸村の気遣いを退けて、酷いことを言う。そういうことをされるたび、幸村は政宗のじれったい態度に哀しさが込み上げる。自分はそれほど難しいことを言っているだろうか。
 政宗の柔肌をまさぐることで己が熱くなるのを感じながら、幸村はどこか冷めた場所で思考する。
 愛する人と添い遂げ、愛する人に子を産んでもらい、愛する人と家庭を築きたい。幸村は武田信玄の家臣たることを辞められないので、そうなると、政宗に伊達を辞めてもらうしかない。単純な理屈だ。しかし、どれほど言って聞かせても、政宗は色好い返事をくれなかった。だから、幸村は伊達を滅ぼした。あれから、一年が経った。政宗はそのことで未だに幸村を深く怨んでいるが、伊達が滅んだのは政宗のせいだ、と、幸村は思う。幸村自身は、伊達が滅びようと存続しようとどうでも良かったのだ。政宗が不在の伊達ごとき、信玄の天下を邪魔するには値しないと思ったのである。わざわざその滅びを選ばせたのは、政宗だ。そう告げるたび、政宗は髪を振り乱して違うと喚く。はじめてその様子を目にしたとき、その顔があまりに辛そうだったので、幸村は慰めるため政宗を抱き寄せようとした。しかし、政宗はそんな幸村の思い遣りを無碍にしたばかりか、隠し持っていた懐剣で斬りつけた。幸い、剣は肋骨に当たり、侵攻を止めたが、下手をすれば死ぬところだった。お陰で、そのときに受けた刀傷は未だ熱を孕み疼き続けている。それは、政宗が抵抗するたび、よりいっそうの痛みをもたらした。
 政宗の腰を抱え、雄を押し当てる。幸村が身を進めようとすると、政宗は身を捩りながら泣いて止めろと懇願する。俺が欲しかったのはこんな間柄じゃない。そうは言っても幸村に留まる気など更々ないし、挿れてしまえば後は簡単だ。政宗はそれまでの抵抗が嘘のように、物静かになる。だから、幸村も政宗の手を押さえつけることを止めて、行為に没頭できる。紅い唇を割り開き舌を忍ばせても、政宗は抵抗一つしない。つまりは、政宗の抵抗は己が滅ぼした伊達に対する取り繕いなのだろう。だって、最中は、こんなにも幸村の愛に素直だ。そのうち政宗が元伊達当主として取り繕うことを止めたら、幸村は、皆に嫁を披露しようと思っている。美しいもの、賢いものが好きな信玄は、諸手を挙げて歓迎してくれるだろう。だから、幸村はそのときが楽しみでしょうがない。早く、そのときが来ないだろうか。待ち焦がれてしまう。
 政宗を揺すりあげながら、幸村は幸福な未来に小さく笑った。











初掲載 2009年5月23日