Color:5「a bolt from the blue (青天の霹靂)」


 「旦那、どうするつもりなの?」
 呆れた様子の佐助に問われ、幸村は困惑した。
 行動は幸村がしでかしたことではあったが、その理由とこれからとを尋ねられれば答えられるだけの深い考えはなかった。衝動としか言いようがない。
 幸村は今、双槍を握る代わりに、伊達の御大将である政宗を掻き抱いている。その結果、事態がどう転じるか露ほども考えず、考えるよりも先に、政宗の手を引いて抱きしめ攫っていた。
 真田の本陣もさることながら、大将の攫われた伊達はこの比ではない混乱振りだろう。主である信玄に任された伊達との戦は、予想しない展開を見せていた。信玄に合わせる顔がない。
 とはいえ、幸村の腕の中で、当惑よりも呆れを多分に滲ませた隻眼で睨みあげてくる姫君を、単純に伊達に返還すれば済む話でもない。さりとて、ある種騙し討ちのような形で政宗の首級を挙げる気にもなれなかった。
 正直に言ってしまえば、幸村は政宗を殺すのを惜しんでいた。忌避していたと言っても過言ではない。何がそう思わせるのか、幸村には検討もつかなかったが。
 「旦那?」
 再度佐助が意向を尋ねてきたが、幸村に答えられるはずもない。
 途方に暮れた幸村はいっそ泣きそうになりながら、政宗を抱える腕の力を強めたのだった。











初掲載 2007年1月19日
改訂 2007年9月19日

Rachaelさま