何の因果か、北条と共闘することになった。
因果も何も、伊達と北条で同盟を結んでいたせいで今回の戦に出張ることになったのだが、そんなこと、政宗の知ったことではない。政宗は北条で唯一使えそうな忍びの首根っこ引っ掴んで、敵陣へ足を進めた。腕にかかる負荷に不審に思って視線を投げかけると、ずるずると引き摺られっぱなしの小太郎は、政宗のお供が不満なのか、泣き暮れる氏政の方を見ている。その光景に思わず眉間にしわを寄せて、政宗は立ち止まった。
重い。
重いって、小太郎の体重がとか云々以前に、空気が重い。これではまるで、自分は、ドナドナで子牛を買った牛飼いのようではないか!政宗としても、わざわざ老人を泣かせるような趣味はない。それに、この忍びにしたって、唯一使えそうだと思って選び取ってみれば、どうだ。まるで、ぜんまいの切れた人形のように動かないではないか!政宗は怒りを込めて、小太郎を睨みつけた。
そこで、ようやく自分が首根っこ掴まれて引き摺られていることに気付いた鈍感な小太郎が、政宗を見上げた。目のある辺り、と思われるところからの熱視線、と思われるものがすごい。何せ、前髪でどこに目があるのかもさっぱりわからないが、伊達に、政宗も戦人ではない。気を読むことには長けている。
何も考えていなさそうなその熱視線は、子供のそれに似ている。政宗のことをたいそう好いてくれているいつきや、時折戦場で会う蘭丸が向けるような目だ。きらきらと期待に満ちている、ように、思われないでもない。何せ、見えないので、しかとは言えないが。
うっと言葉を詰まらせて、政宗は手を離した。この目は苦手だ。
こう、もふもふと、武将にあるまじき行為をしたくなる。
「あんた、何つーか…。」
抱き締めたい。
政宗はぐっと続きを呑んだ。頬が熱い。鏡を見ずとも、己の顔が赤いことはわかった。
(どうしよう。こいつ、予想外に可愛い!)
恥ずかしさに、小太郎を置いてずんずん歩き出す政宗の背には、まだ、あの熱視線が向けられている。政宗は火の出る思いで、のぼせる頬に手甲を当てた。冷えろ、冷えろ。拭うように何度かこすって、それでも、消えない熱に舌打ちがこぼれる。
「こんなのが切欠って、shit!マジかよっ!」
伊達政宗、19歳。
何の因果か、小太郎に惚れた日。
初掲載 2009年5月3日