先ほどまで晴れていたと思ったのに、一寸甘味何処で団子を買い求めて外に出てみれば雨だった。雲の合間を縫うように光が走る様が見える。
「春の雷だから、春雷だねー。」
うんうんと頷きながら一人納得していた佐助は、隣から返事がないことに気がついた。いつもであれば、「そうか!佐助は物知りだな!」などと打てば響くような声が上がるはずなのであるが。ちらりと視線を横にやれば、真田は心ここに在らずという様子で空を見上げていた。
「旦那、どうしたよ?」
「む。」
ひらひらと目の前で手を振ると、真田はようやく佐助の存在を思い出したというように返事をした。
「空が綺麗であろう。」
確かに一つの自然の様として空は美しかったが、美しいと恐ろしいを入り交えた感があった。そもそも、雨のせいで視界が晴れず、そこまでしかと見ることは出来ないのではあるが。
「どしたの急に。」
佐助の主はまかり間違ってもこのような発言をする人間ではない。風流などというものは、およそ似つかわしくなかった。何も真田のことを佐助は馬鹿にしている訳ではない。ただ事実として、武田軍の特徴にはそのような点があるというだけだ。
「彼の地にも春雷が訪れているのだろうか…。」
遠い目をする真田に、佐助は、ああと思った。
「いやー、奥州はさすがに甲斐と同じ天気って訳じゃないでしょうねぇ。距離あるし。」
「そうか…。」
雷を操る奥州筆頭に、真田が惹かれていることを佐助は知っている。それは現在好敵手としての感情であるが、どのように転ぶかわからないのが感情というものである。春の、この空と同じだ。人の心はあまりに移ろいやすい。
(ちょっとこれはやばいかもね…。注意注意。)
「あ、雨が止んできたよ。旦那行こう!」
走り出した佐助の後を、真田が団子の入った袋を抱えるようにして追いかけてくる。とりあえずは主の気を他のものへ逸らすところから始めなければ。恋わずらいなど、冗談ではない。水溜りを踏まないように気をつけながら、佐助は思った。
初掲載 2006年4月5日