Color:01「with red hands(手を赤く染めて)」


 刀を一閃すると、がしゃんと無粋な音を立てて兜が地面に落ちた。視界に広がったのは、かつて見たこともない程見事な朱色だ。秋の紅葉を髣髴とさせるその髪に、政宗は知らず小さく息を吐いた。
 その僅かな隙を逃さず、朱色が走った。追う暇もない。あっという間に、城内へと去っていってしまった。政宗は伸ばしかけた手で掴むものを失い、眉を顰めた。
 漆黒の鎧に身を固めた忍の髪は、陽光を受け橙に輝いた。珍しい、というよりは奇異と表現する他ない髪色だ。伊達は他の国に比べ、南蛮との貿易が盛んだ。しかし、南蛮人のそれでさえあの朱色に勝る色を政宗は見たことがなかった。
 そこで政宗ははたとある事実に気付いた。
 現在、政宗が立つのは戦場である。しかも、まさに彼の忍の仕える北条を攻めているところだ。そもそも先程朱色を見るに至った理由も、城門を守る忍を退かせるためであった。
 「…殺し損ねたか。」
 忍の去っていった方角には、ぽつりぽつりと血痕が出来ていた。視線を下ろすと、手に持った刀は血に塗れている。政宗の篭手も幾らか血に濡れていた。再び政宗は視線を忍の消えた城へと向けた。小田原城は、北条が慢心するのも致し方ないと思えるような巨大な城だった。政宗は小さく頷くと、誰にともなく呟いた。
 「北条のじいさんにゃ、勿体ねえな。」
 刀の血を振り払い、一歩踏み出す。
 はたして手負いの獣は手懐けられるだろうか。










初掲載 2006年11月22日
改訂 2007年9月19日

Rachaelさま